最終章 アレンシアの魔女 02話 なみだ
祠の中は、ひんやりとしていた。
天井も頑丈な造りで問題はない。
私が作ってきた祠より、ずっと荘厳な雰囲気を醸し出していた。
中は回廊になっており、中央に部屋があるようだ。
私は迷わず、その部屋の扉を開けた。
中央に空の祭壇があり、その上には見覚えのある腕輪が置かれていた。
「これは……私の?」
ああ、そうだ。
あの時の腕輪だ。
私は震える手でその腕輪を手にして、裏側を見る。
そこには数字と、名前が刻まれていた。
「ああ……そうなんだ。きっとこれがマナと共鳴して、祠になったんだね」
つまりこの祠は私が石碑を建てていくうちに、自然と作り上げられたんだ。
私の最期となる、この場所に。
腕輪をそっと胸に当てて、微笑む。
きっとあなたは私が消えて、泣きじゃくってるわね。
駄目だよ、そんなんじゃ。
あなたは私ではない、別の素敵な人と出会って、ちゃんと幸せにならないと。
私は微笑みながら最後の黒石を取り出して台座に置き、ワンドを黒石に向けて辺りからマナを集め始めた。
草木から、緑。
風から、水色。
氷や水から、青。
陽光から、白。
大地から、茶。
双月の残滓から、紫。
ここには自然界のマナが全て揃っている。
それらを集めて、マナ同士が触れないよう気を配りながら、順番に黒石に送り込んでいく。マナが混ざってしまうと、自然界には存在しない“黒いマナ”が出来てしまう。
これはマナの中でも雑念のようなものとなり、正しく石碑を形成する邪魔になる。故に黒いマナを送り込まないよう、丁寧にワンドを操る必要がある。
私はマナを操りながら、これまでの人生を振り返っていた。
大好きなあなたを、ずっと遠くから見ていた少女時代。
全てを忘れさせられて、この世界に送り込まれたこと。
マールの村での暮らし。
そして十日間以上、同じ場所に留まると、その村や町を災厄が襲うこと。
五日間以上、行動をともにした相手を不幸にすること。
小さな少年セレニィを、魔法で助けたこと。
フォレストエルフのフィオン女王陛下から「多すぎる」と言われたこと。
それからの過酷で孤独な、魔法を広めるための旅。
闇種族であるログナカンのエウトー、サハデーとの出会い。
フロージアの絶対君主、ディルギノ氷公との戦い。
そして旅の目的が、石碑を建てるものへと変わったこと。
セレニィとの再会と、熱い夜。
あなたには悪いなって思ったけれど、私も女なの。
もしも再会できたら、たくさんしてあげるから、許してね。
でもさ、聞いてよ。
銀獣人が産まれたの。
私に子供ができたんだ。
紅の魔女が、銀獣人を産んだんだよ。
これ、伝わるかなあ。
まあ伝わらなくてもいっか。
それでね、また呪いが蘇っちゃったんだ。
その時にね、私の身体の中は赤いマナでズタズタに裂かれちゃったんだよ。
きっと、一時の平穏の代償だね。
これが私の人生かあ。
あー……疲れたぁ。
この石碑を建て終わったら、ゆっくりできるかな。
ずっとここにいても、いいのかな。
すぅっと、頬を涙が伝った。




