表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/60

最終章 アレンシアの魔女 01話 ただいま

「はぁ、はぁ……つ、着いた……」


 セレニィと別れてから、二ヶ月後。

 私は、ようやくここに辿(たど)()いた。


 幻惑の森。


 私がマールと名乗ることになった全ての始まりの地であり、終焉(しゆうえん)の地への関門だ。

 ここに入ると、幻惑に惑わされて方向感覚を失い、森を永遠に彷徨(さまよ)ってしまう。


 でも、私には見える。森から私の周りに緑、青、茶色、黒のマナに加えて、優しさの象徴である“桃色”のマナが囲んできることを。


 私の生涯の相棒となった杖をくれた森。

 両手でこの幻惑の杖を握り、森に向かって(つぶや)いた。



「た だ い ま」



 次の瞬間、目の前の木々がざざざ、と音を立てて、道が開けた。

 まるで森が「おかえり」と言ってくれているように。


「幻惑の森……あなた本当は“鎮守の森”だったのね」


 がさがさ、ぎしぎし、と枝葉を擦らせる木々。

 外界から悪い人間らが侵入しないよう、ずっと守ってくれていたんだ。

 これまでも、そして、これからも。


「ありがとう。でも、あなたの使命はまだまだ先まで続くからね」


 そう……彼がいる、あの時代まで。

 この森はずっとこうであり続けるだろう。

 森に足を踏み入れると、草木がおかしな動きをし始めた。


「わ!」


 (つた)が私の腰に絡み、森の奥へと引きずり込む。

 そして私の身体を離すと、次の蔦が私の身体を受け取って、更に奥へと運ぶ。

 その先には、明かりがあった。


 森にはわかっているんだね。

 私の命が、もうすぐ尽きようとしていることに。


 この森は、呪われた森なんかじゃない。

 とても暖かくて、優しくて、力強い。


 呪われているのは私なのに。

 こんな私を運んでくれるなんて。

 やがてそのまま蔦で森を抜け、かつて村があった場所にすとん、と下ろされた。


「あり、がとう、幻惑の森さん。いって、くるね」


 ざわざわ、がさがさという音と共に、私が通ってきた道がばさり、と閉じられた。


「う……!」


 激しく()()んで、血を吐く。

 最近、一日一回は胸に激痛が走り、喀血(かつけつ)するようになった。

 すっかり(ほお)()けてしまった。


 もう、時間がない。


 私はマールの村に向かって、杖をつきながら歩く。

 前回来た時、この先は湖になってしまっていたので『水面歩行の魔法(ヴイータウオーク)』を使うつもりだった。


 ――けれど。


「あ……」


 目の前に広がっていたのは、雑草が生い茂る広場だった。

 マールの湖は元の位置で、静かにその水面を(たた)えている。

 水が、引いていたのだ。


 私はアレンシア各地に建てた四つの石碑のうち、ディゴバ・アンダーグラウンドの石碑にだけ、条件が整ったものを、あの湖付近に転送できるように『転移の魔法』を仕込んだ。


 なぜ、そんなことをしたのか。石碑を建てていた時は意味がわからず、頭の中に浮かんだ地図の座標を転送先にしたけれど、記憶を取り戻した今ならハッキリとわかる。


 だけど村があった場所は、かつての面影はない。

 あるのは崩れた建物や畑などの、荒れ果てた集落の跡だけだった。


「うう……」


 私は(うつむ)き、涙を流しながら、前へと歩を進める。

 なにがアレンシアの神よ。

 なにが闇種族(エヴイレイス)を救った英雄よ。

 なにが……(あかつき)の賢者よ!


 幸せに暮らしていたはずのものたちの命を奪っておいて!

 一歩、足を前に出すごとに、心の中で謝罪した。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 

 ぽたり、ぽたりと涙を落としながら、杖にすがって、ゆっくりと歩く。

 立ち止まったら、きっと膝から崩れ落ちるだろう。

 だから我慢して歩いた。


 やがて村の跡地を抜け、坂道を登る。

 この先に、私は記憶を失った状態で倒れていたのだ。


 あの頃は記憶を失っていて気づかなかったけれど、なぜ、この坂の上に行かなかったのだろう。

 そうすれば少なくとも、なにかの手がかりは(つか)めたのに。


 今更、悔やんでも仕方がない。この坂を登り切らなきゃ。

 私はぜえぜえと息を乱しながら、幻惑の杖に体重を預け、時間をかけて坂道の先へと辿り着いた。


「え……?」


 そこにあったものを目にして、私は座り込んでしまった。


 既に立派な(ほこら)があったのだ。


 私はここに来たことがないけれど、この山に囲まれた環境のお陰か、まるで最近建立(こんりゆう)されたばかりのように、しっかりとした祠だった。

 今の体調で、祠を建てる体力を温存できたのはありがたい。


「……よし!」


 最後の石碑を建てよう。

 私の(おも)いを、あなたへのメッセージを。

 この石碑に、ぜんぶ込めよう。


 私は杖を使って立ち上がり、祠に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ