05話 決意
「エウトー。この砦には兵士がどれだけいるの?」
私はここログナカン北西方面軍とやらの全容を知らないので、まずはそこを知っておかないといけない。
さすがに一人でフロージアの軍を相手にするのは不可能だから。
「北西方面軍はここの砦と、周辺の五つに根城がある。全て併せれば五〇〇〇といったところか」
「じゃあそれ、全部動員してフロージアを攻めて」
「はあ!?」
さらっと全軍を出せと言った私に、エウトーの顔色は青くなったり赤くなったりと忙しかった。
「フロージアは強い! トロル、ダークエルフと共闘しても、勝てるかどうか怪しいくらいだ。それを我らだけでなどと……あっという間に返り討ちにあって全滅するだけだ!」
「あらら、北西方面軍司令官ともあろうお方が、なんて弱腰な」
「マール、俺は現実を口にしているだけだ」
「わかってる。からかっただけ」
「この――」
おかしな話だけれど、私はこの単純なログナカンらに好意を持ち始めていた。
「私の言う通りにしてくれれば、あなたはフロージアの絶対君主であり、闇種族連合の最有力者であるディルギノ氷公を討ち取った英雄になれるのよ。ログナック地方に住むログナカンは全て、北西方面軍司令官であるあなたにひれ伏すわ。やってみる価値があるとは思わない?」
「それは、そう……思うが、さっきマールは闇種族も陽種族も興味がないと言ったのに、そんなお前がディルギノ氷公を討って、なんの得がある?」
思ったより、まともな疑問が返ってきて、少し驚いた。
「強いてあげるなら……アレンシアの均衡を保つため、かな。ディルギノ氷公の噂は聞いたわ。彼はかなり危険みたいね。フロージアが暑さを克服した時、アレンシアを恐怖のどん底に叩き落とせる力を持っている」
「そ、その通りだ」
「じゃあ時間もないし、今から動くわよ。エウトーは直ちに兵をまとめて、フロージアが下山してくるところに布陣して待機。サハデーは斥候を使って、西のグレイウッズやディルギニアに、ログナック北西方面軍司令官エウトールル将軍がフロージア討伐軍を起こしたと伝えて。私は一足先に行って待っているわ」
「ちょっと待ってくれ。今からだと!? それに時間がないとはどういうことだ?」
そう尋ねてきたエウトーに、険しい顔つきで答えた。
「紅の魔女が十日間以上滞在した場所は、災禍に見舞われる。そんな噂を聞いたことはない?」
「そういうことですか」
サハデーは私が言いたいことに気づいたようだ。
「マール殿がここに来て、もう七日経っている。あと三日すれば――」
「そういうことよ」
「しかしその噂は、まことで?」
「本当よ。私自身、気づくのが遅れてしまったけれど、これまで滞在した村と町がいくつか壊滅したわ」
「なんと……」
悲しげな視線を落とす私に、サハデーはかける声を失っていた。
ログナカンでも、人を思いやる心を持つものがいるなんて。
私は闇種族というものの認識を、少し改めた。
その時、部屋をノックするものがあった。
「ああ、間に合いましたね」
サハデーとエウトーが、頷きあう。
「入りなさい」
「ははっ!」
扉の向こう側から声がして、女性のログナカンがなにかを両手に持って入ってきた。
「マール。今のあなたは裸に近い。そこで、あなたの服を用意させました」
「本当!?」
「元々あなたが身につけていたものは将軍が射貫いてしまったので、大穴が空いておりました。それの補修と、暖かな下着と上着を。フロージアらがいる大地は氷の世界です。今のあなたの格好では、戦う前に凍えてしまいます」
「サハデー、ありがとう!」
「おっとっと」
私は思わず、この優しいログナカンに抱きついていた。
気にしていなかった訳ではないけれど、あのローブは私が記憶をなくす前から着ていたものだから、記憶を取り戻すための手がかりでもある。
故に、失いたくはなかった。
私はその場でログナカンの着衣を脱いで全裸になり、渡された衣類を着て、ローブを身につけた。エウトーに空けられた穴はすっかり元通りになっていて、嬉しかった。
さて、これからアレンシア最強と謳われているフロージアのディルギノ氷公と対決する。
俄然、力が漲ってきた。
「さあ、エウトー。ここまで来たらあなたも腹を括って。私は必ず、ディルギノ氷公を討ち取ってみせる。そうなればフロージア軍も動揺し、団混乱を起こすわ。そこを攻めてフロージア軍を一気に退却させるの。ログナカンの王になるのはあなた、エウトールルよ! さあ、行こう!」
「おおっ! 紅の魔女にそこまで言わせて立ち上がらなければ、ログナック北西方面軍司令官の名が廃る。今すぐ出陣だ!」
エウトーの声でその場にいた四体のログナカンが鬨の声をあげ、勇ましく部屋を出て行った。




