03話 楽しい連中
このログナカンの服は、なにが奇妙かというと、服というよりは刺繍が入った一枚の布であり、長方形の中央だけ穴が空いているというところだ。そこに頭を通し、胸と背中に布を下ろして帯を巻く。
着てみてわかったけれど、確かにログナカンは、なにも着なくても鎧のような鱗を持っている。これを邪魔せず美しく装飾するには、この作りが一番、理に適っている。
ただ、人間である私が着るとなると。
……油断すると、全部見えてしまう。
とはいえ私がログナカンを見てなんとも思わないように、彼らも私の裸を見たところでなにも感じないだろう。
でも、ここを出る時は、ちゃんとした服を着よう。
それにしても、どうしてエウトーは私を助けたんだろう?
あの雨の日、私は少なくとも四体のログナカンをやっつけた。
こうしていったん治しておいて、陵辱するつもりなのかな?
それにしては、この前を行くサハデーヴァというログナカンは非常に知的で、礼を重んじているように見える。
ログナカンって、こうだったっけ?
下手な人間よりも親切だし。
不思議に思いながら岩の洞窟を歩いて行くと、やがて岩にむりやり木の板をはめ込んだような扉の前に着いた。
サハデーがノックし、中から「入れ」と声がする。
エウトーのものだ。
サハデーが扉を開け、私に中に入るよう促す。
どうせ、もう捨てた命だ。なにも怖くはない。
私は胸を張り、堂々と中に入った。
その部屋は案外広く、天井も高かった。床も壁も綺麗に磨かれており、窓からは日も入ってきて、蝋燭など不要なくらい明るい。もっと原始的な場所を想像していたので、肩透かしを食らった気がした。
部屋の中央には長いテーブルが置かれていて、四体のログナカンがその大きな眼球をぎろり、とこちらに視線を向けてくる。しかし黄色のマナが出ていないので、敵意はなさそうだ。
そして部屋の奥には、見知った顔のログナカンが椅子に座っていた。
「起きたか、紅の魔女マール」
「まさか、あなたが将軍とはね」
互いに、警戒心丸出しの挨拶だった。
「改めて自己紹介しよう。ログナック軍北西方面司令官エウトールルだ。ログナカンはまだ正式な国家を持っていない。故にここログナック地方に住んでいる各勢力が覇権を握ろうと、熾烈な権力争いが続いている」
「ふーん」
「どうでもよさそうだな……」
「うん」
エウトーは、その大きな口をかぱ、と開いて呆れた。
「そんなことより教えて。あなたは私と出会った時、人間はエサだと言った。なのになぜ、そのエサを助け、傷の手当てまでしてくれたの?」
私はとことこと歩き、長テーブルの端でエウトーと向かい合った。
「答えは単純、お前が普通の人間じゃないからだ」
「あなたの目的は魔法? 私が世界中に魔法を教え回っていることは知っているでしょう?」
「それもある」
エウトーは立ち上がり、腕を後ろ手に組んだ。
「マール、お前はログナカン、トロル、ダークエルフ、フロージアら闇種族の関係をどう思っている?」
「え?」
意外な質問だった。
私は呪われた紅髪の魔女だけど、陽種族側である“人間”だ。
闇種族の関係なんて、そんなに詳しくはない。そもそも、獰猛なログナカンとこうして会話している人間など、アレンシアで私だけじゃないだろうか。
「ならば仕方ない、俺が教えてやる。力関係でいうと、頭一つ抜きん出ているのが北方の大氷山脈に住む強族フロージア。その下にトロル。そして俺らログナカン。最後にずっと下がって、グレイウッズに住むダークエルフ……だった!」
「だった?」
エウトーは机をばんと叩き、私を指さした。
「そうだ! 全てはお前がダークエルフに魔法なんかを教えたがために、それまでひ弱で作戦を立案するだけの立場だった連中が、前線で炎や氷を操り、傷を癒やし、俺ら以上の戦力になってしまった。おかげで俺らログナカンは、今やダークエルフよりも下に見られているっ!」
ぐりん、と、目を見開き、私を責めるエウトー。
「えーと、それ、私のせい?」
「当然だろ!」
なんだか、子供の嫉妬みたい。
「で、私にどうしろっていうのよ……」
エウトーは私の姿をなめ回すように見た。
「あれだけの傷が、なにもせずに完全に癒えるはずがない。どうやら魔法を使ったようだな。そうだろ?」
「ええ。でもこれは上級魔法だから、そう簡単には使えないわよ」
「な、なに? 魔法にはランクがあるのか!?」
「ええ」
一喜一憂するエウトーらログナカンが、なんだかだんだん可愛くなってきた。
私を傷つけた相手とはいえ、手当てをしてくれたし、こちらもエウトーの部下を殺してしまっている。
「ど、どこまでなら我らで使いこなせるようになる?」
「それはわからないわ。マナの力を使うことに長けているフォレストエルフだって、上級を覚えられないものもいるし」
「ではマール、我らに魔法を教えてほしい。ダークエルフに後塵を拝するのは我慢ならんからな」
「いいわよ」
「いいのか!?」
なんていうか、いちいち反応が面白い。
「私の目的は魔法をアレンシア中に広めること。そこに陽種族も闇種族もないわ。教わりたいものに教えていく。但し、私は一人しかいないから、まず誰か一人に対して徹底的に教え込む。その後、そのものが仲間たちに教えていけばいいわ」
「おお、そうか、そうだな。さすがは紅の魔女だ」
人間を食らい、粗暴で残虐。それがログナカンのイメージだったけれど、エウトーやサハデーのお陰で、かなり印象が変わってきた。
「エウトー。私はね、陽種族とか闇種族なんか、どうでもいいと思っているわ。そんなのはみなさんで勝手にやって。大事なのは異種族間でも、こうやって話をすることよ」
「ふむ……そうかもしれん」
案外素直だった。
「それで、もう一つの目的は?」
「どうして、まだやってもらいたいことがあるとわかった!?」
「だってさっき、私が魔法を教えることかと訊いたら“それもある”って言ったでしょ。ということは魔法の件とは別で、なにか重要で、とても危険なことをさせたいんじゃないの?」
おおお、と、周りのログナカンらが動揺する。
本当に、楽しい連中。




