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04話 フィオン女王

 私とリアノは、城門を開けてもらって中に入る。

 そして()()ぐ進み、謁見(えつけん)の間らしきところにやって来た。


「リアノハイネ。報告は聞いています。あなたという子は――」


 玉座にいる、ひときわ美しくて、フォレストエルフでありながら太陽の白いマナを放つこの方が……女王さま。私は咄嗟(とつさ)に一歩下がり、片膝をついて(つえ)とワンドを並べてを置くと、女王さまに頭を垂れた。

 私と同じように、リアノも片膝をつく。


「お母さま、なにか?」


 リアノは強気な言葉を投げた。


「……よくやりました」


「は?」


 首を(かし)げるリアノ。


「これほどの異質な人間をよく殺さず、ここに連れてきたと褒めているのですよ」


「は、はあ?」


 意味がわからず、困惑するリアノ。


「さあ顔を見せて下さい。紅の魔女殿」


 その言葉に、私は肩を震わせた。

 ここにも紅の魔女の(うわさ)が届いていたとは。


 もしかしたら、命がけの話になるかもしれない。

 私は意を決して、顔を女王さまに向けた。


「ご尊顔を拝し、誠に(うれ)しく存じます。紅の魔女マールです」


 女王さまは額に宝石が(ちりば)められた銀の髪飾りを着け、白いローブをまとい、気品漂う薄茶色の長い髪を、背中辺りで縛っていた。そしてそのお顔は、美の結晶とでも(たと)えようか、とても言葉では言い表せないほど神々(こうごう)しく、大きな瞳は心の内を全て見抜かれているような気さえした。


 これが、フォレストエルフの女王。

 この方なら、私を導いてくれるかもしれないと、少し胸が熱くなった。


「ようこそ、マール。私がフォレストエルフ、東の女王フィオンフォエルヌです。フィオンで結構よ」


「ははっ、フィオン陛下」


 私は頭を下げたかったのだけれど、どうしてかフィオン陛下から目が外せなかった。


「あなたがここを訪れた理由は、おおよそ見当がつきます。なにせ、あなたは王家に伝わる“予言の人間”なのですから」


「予言ですか?」


「ええ。我ら東フォレストエルフ王家の伝承に、こうあります」


 フィオン陛下は玉座から立ち上がると、脇に立てかけられていた杖を手にして、声高こわだかに言った。


「双月の暦、五〇〇に近づく頃、(あか)き髪、紅き瞳を持つ魔女と呼ばれるものが現れる。我らはこのものに法術を送り込む故、このものから学ぶべし。そして王たるものは、魔女に進むべき道を示せ。紅きものは、いずれ我らと(なんじ)らを(つな)ぐ礎とならん」


 それはまるで、予言というよりは祝詞(のりと)のようだった。


「その、紅きものというのが私ですか?」


「間違いないでしょう」


 にこり、と微笑(ほほえ)むフィオン陛下。


「この予言がいつされたのかはわかりませんが、少なくとも数百年以上前から語り継がれてきたものです。あなたは十日以上、滞在した場所を災厄の渦に巻き込んでしまう。そして五日以上、町の外で行動をともにしたものを不幸にする。我らフォレストエルフたちに、今から九日間でどれだけ夢幻界イストリアルの法術を伝えることができますか?」


「ちょ、ちょっと待って下さい! 一体、どういうことでしょう?」


 いきなりわけのわからない単語が飛び出してきて、とてもついて行けなかった。


「そうね、ごめんなさい。予言の魔女を前にして、少し気持ちが高ぶってしまったわ」


 フィオン陛下は、そのまま玉座に腰を落とす。


「夢幻界イストリアルについては文献も少なく、詳しいことはわかりませんが、ここより優れた技術を持っている別世界だという認識でいいでしょう。そして我らフォレストエルフの王家は、その預言書に従ってきました。他の文献によると、世界には闇種族、陽種族の他に希少種族というものが存在します」


「希少種族、ですか?」


 なにやら胸がざわつく。

 希少種族。

 なんでだろう?


「決してこちらからは行けない次元に住むという、イストリアル人。イストリアルから追放され、この世界に移り住んだのが、我々エルフの始祖というフェイエルフ。そして神聖獣の化身だという、蒼獣人(せいじゆうじん)


「フェイエルフと蒼獣人が、希少種族なのですか?」


 その時、なにかが胸をちくりと刺したが、今はひとまずフィオン陛下との対話を優先した。


「そうです。中でもイストリアル人は別格。おそらく我らは彼らの姿を見ることができないでしょうし、夢幻界に干渉することもできない。でも、あちらからは(わず)かながら、こちらの世界に影響を与えることができるらしいのです。そのあたりは、信憑性(しんぴようせい)の薄い書物の中での話ですが」


 フィオン陛下はそこで言葉を切ると、改まって私に身体を向けた。


「さて、話が長くなってしまったわね。今一度問わせて。あなたの法術を、我ら教えてもらうことは可能かしら?」


「はい、問題ありません。白紙の本さえ用意していただければ、マナを使い、それを変換させて力に変える法術、すなわち“魔法”を書き記せます」


「そうですか……魔法と呼ばれておりましたね。本来はキセキの力なのですが」


「現段階で私が記憶している魔法がいくつあるのかわかりませんが、今の私ならばこの場で、それを書物にすることをお見せできます」


「それも魔法で?」


「はい。転写の魔法といいます。実際に使ったことがありますので実績もあります。書き込める本を五冊ほど、用意できますでしょうか?」


「もちろん。誰か白紙の本を五冊、すぐにここへ持ってきて」


「ははっ」


 フィオン陛下の一声で、二人の臣下が走る。

 そしてすぐに戻ってきて、私の前に白紙の本を置いた。


「フィオン陛下、御前でワンドを手にすることをお許しいただけますか?」


勿論(もちろん)よ。是非、あなたが使う魔法を見せて」


「承知しました」


 私はワンドを手にして、五冊の本を横に並べて開く。


「マール……」


 リアノが心配そうな視線を向ける。私はそれに対して、安心させるような瞳と笑みを見せると、集中してワンドを振った。


 それから数十分後。

 白紙の本四冊に、頭の中にあった魔法が刻み込まれていた。


「こんな僅かな時間で……魔法とは、便利なものなのですね」


 フィオン陛下がそう言葉をくれると同時に、私はがくり、と体勢を崩した。


「はあ、はあ……但し、ご覧の通り、マナを扱うのは精神力、体力、全てを消費します。熟練すれば、もう少し、()れてくるとは、存じますが」


 フィオン陛下は目の前までやってくると、(かが)んで私の瞳を(のぞ)()む。

 私はなぜだか、フィオン陛下の視線に捕らえられ、動けなくなってしまった。

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