03話 エルフェルニアの町
やがて昇降機が、最後にがったん、と大きく揺らぐと、そこで静止した。
下は、見たくないくらい高い。有翼の魔法で飛んだ時よりは低いけれど、今の私に翼はない。
「それじゃあ、みんなはここで解散。マールはあたしが責任持って連れて行くから!」
その声を聞いて、フォレストエルフの兵士はリアノに一礼し、それぞれ別の方向に散っていった。
「はぁああああ……」
目の前の光景に、愕然とした。
本当に、森の木の上に町があった。
基軸となるのは屹立した大木で、そこに車輪のような円状の床が刺さっている。更に外周は六方向からロープで吊されていて、安定感を保っている。
そしてその上に建物があり、多くのフォレストエルフが行き交っていた。周囲に目を向けると、ここと同じような場所が遠目にいくつか確認できる。それらは、吊り橋で繋げられていた。エルフェルニアの町にとって、この踊り場のような床は、地面そのものなのだと知った。
「マール、こっち。きっとお母さまは、あなたが望むことを教えてくれるよ」
「あ、うん」
私は不安のあまり、幻惑の杖をぎゅっと握り、辺りを見回しながらリアノについて行く。多くのフォレストエルフらが一度、私をぎょっとした目で見たが、そばにリアノがいることを知ると、すぐに視線を戻した。
ここに来る前に、リアノと出会えてよかった。
そうでなければ、きっと話は拗れただろう。
リアノが吊り橋を渡る。
下から見たら心許なさそうな吊り橋だったけれど、実際、目の前にするとかなりの幅があって頑丈で、殆ど揺らぐことはなかった。馬車までもがこの吊り橋の上を走っているのだから、これはもう普通の強度を持つ石橋と変わらない。
「さっきいたのが第三床。ここから第七床を経由して、第九床にいくよ。そこが、この町とフォレストエルフを統べる女王がいるところだから」
リアノが背中越しで、私に説明してくれる。
「へえ、だいさんしょう、っていうんだ」
「ああ。このエルフェルニアの町は全十一床で構成されている。昇降機は三箇所。そこ以外からは、下に降りられない」
「もし悪意を持ったものに攻め込まれても、これなら鉄壁の守りになるね」
「マールがなにものかなのかは、まだわからないけれど、相当頭がいいのは理解したよ」
「そう?」
「フォレストエルフの町は、元々、人間の町と同じように、地面の上に築かれていたらしいんだ。でも、あたしらは人間やドワーフらよりも非力だからね。最も、頭のよさだけは負けないから、知恵を絞って生き延びてきた。その知恵の結晶が、このエルフェルニアの町なんだよ」
「わかるよ。これならどんな種族も攻め込めない。私なら火攻めにするかも、って思ったけれど、この町を支えている大木って、かなり水分を含んでるよね?」
私の言葉に、リアノは振り返って目を丸くしていた。
「そこにも気づくの!? 凄いねマールは。とても人間とは思えない。マールの言う通り、この木は“壮青樹”といって、とても大きく高く成長する。それに地面や雨の水を幹にため込む性質があるから、決して火がつくことはない。それに、その特性のお陰であたしたちは、こんな高所でも新鮮な水を得ることができるんだ。その代わり、壮青樹の根元には他の草木が生えなくなっちゃうんだけどね」
「周囲の水分や養分を壮青樹の根が吸い取っちゃうから?」
リアノがたたたっ、と私の横にきて、一緒に歩き始めた。
「うん。だから、壮青樹を植える時は、かなり間隔を空けないといけないんだ」
「だろうね。こんなに大きな木が養分の取り合いをしたら、きっとそこの大地は枯れてしまうわ。陽の光が少ないこの場所だと、大地が腐ってしまうかも」
「はー。本当に、こっちが言うことがなくなるわ」
「私はただ推論を口にしているだけ。それが当を得ているかはわからないよ」
「いや、実際その通りなんだから――あ、こっちこっち」
リアノに手を引かれて、第七床にあがる。ここも第三床と同じくらい広かったし、多くのフォレストエルフがいて店もあった。第七床もそうだったけれど、ここの建物は全て木材で造られている。故に、加工がしやすいのだろう。
すっかり意気投合した私とリアノは、登りの橋を渡って第九床に着いた。
「ここが第九床。フォレストエルフの女王、フィオンフォエルヌ陛下の城があるところだよ」
「ふわああ……」
このエルフェルニアの町には、何度も驚かされてしまう。
ここだけは、他の床とは全く雰囲気が違っていた。狭い床の上に、大きな広場と、壮青樹と一体になった城がある。
広場では衛兵であろうものたちが、弓矢の訓練をしている。どうやらここは訓練場らしい。武器庫などもあり、ここが如何に重要な場所なのかが窺えた。
「さあ行こう。マール一人だったらすぐに捕まってただろうけど、あたしがいるから大丈夫だよ」
「うん」
訓練場のど真ん中を、堂々と歩く。
その場にいた全員が私に気づき、一瞬、殺意の赤いマナを放ったが、リアノの姿を目にすると、警戒色である黄色に変化させた。
つまり、リアノが一緒なら問題ない。ここにいる兵や教官をしているものたちですら、そう思ったんだ。
本当に、リアノと一緒でよかった。




