02話 森の中
それから私は、六人のフォレストエルフらに囲まれた状態で、森の中を案内された。
この一団は全員、弓矢を所持していることから、恐らく自警団のようなものだろう。
そして先頭を行くリアノは、先ほど女王さまを“お母さま”と呼んでいた。つまり彼女はフォレストエルフらの王女さまということになる。
なぜ、そんな高貴な家柄の人が自警団の長のようなことをしているのか疑問に思ったけれど、その辺りは考えなくても、すぐに答えが見つかるだろう。
そうこうしているうちに、辺りの様相が変わってきた。
草が少なくなり、土が露出している土地だった。木々はどれもかなり太く、私が十人、横に並べるくらいの太さがある。
この木からは、茶色と緑、そして不思議だけど、多くの青いマナが見られた。
そして遠くの三箇所くらいから、かたかたかた、という、聞き慣れない音がする。
「もうすぐ着くよ、マール」
リアノの言葉に、耳を疑った。
「え? もうすぐって、ここにはなにも……!」
ふと、奇妙なことに気づいた。
誰もいないはずなのに、なにかの気配がするのと、辺りのマナの動きがおかしかった。
何が奇妙なのかというと、この二つを、どちらも上から感じたところだ。
私は立ち止まり、見上げて目を凝らす。
「うわぁ……」
枝葉の更に上に、広い踊り場のようなものがある。
それらは蜘蛛の糸のような吊り橋で繋がれ、別の木の踊り場へと結ばれていた。そして多くの青や緑のマナが、粉雪のようにその踊り場から降ってくる。
間違いない、あれこそフォレストエルフの町だ。
「気づいた?」
リアノが声をかけてくる。
「凄い。あんな場所に町を作るなんて!」
「そうでしょう。あたしたちがフォレストエルフと呼ばれる所以かもね」
私が素直に驚いているのに気を良くしたのか、リアノは右手をあげて私を警戒していた護衛を解くと、嬉しそうに語ってくれた。
「あたしは、ここまで案内する間にあなたのことを考えていたよ、マール。どうやらあなたは、あたしたちに危害を加えるような人間じゃない。それになにか、大きな呪いを背負わされてるんじゃないか、ってね」
「リアノからも、そう見えるんだ」
「あたしたちはあなたが思っているほど、マナをはっきりと識別できているわけじゃない。ただ、木々や草たちが教えてくれるものを感知し、いち早く部隊を送って、殲滅する。そうやって代々、エルフェルニアの町を守ってきたんだ」
「そう……エルフェルニアの町というの。素敵な名前ね」
私とリアノは、いつの間にか旧知の間柄のように並んで歩いていた。
リアノは私よりも少し身長が低い。しかし気品に満ちた瞳、玉のような肌、清流のような薄茶色の髪は、どれもただ“美しい”としか言い表せなかった。
「そっか、マールは記憶喪失なのね」
私は歩きながらこれまでの経緯を簡単に話した。
マールの村、ラミナの街、商隊の出来事から、紅の魔女と呼ばれていることまで。
なぜかリアノは話しやすく、すいすいと言葉が出てきてしまう。
「聞きたいこととか、知りたいことが山ほどあるわ。どうして人間の私にマナが見えるのか。そのマナを組み合わせて、様々な魔法を使えるのか。どうして人間では珍しい髪と瞳の色をもっているのか。全部知りたいけど闇雲に旅をしていても仕方がないと思ったの」
「だから危険をおかしてまで、我らに会いに来たのね」
「うん。私の力は人間よりも、フォレストエルフに近い気がしたから」
「確かに。でもフォレストエルフはマールほどマナの扱いに長けてないよ?」
「そこも含めて女王さまにお伺いしたいの。八日間だけでいいから、ここに置かせてもらえるといいんだけど」
「それを決めるのはお母さまだからね。さあ、着いたよ」
話に夢中で気づかなかったけれど、いつの間にか目の前には広い木の板があり、その手前には祭壇のようなものがあって、二人のフォレストエルフが皮の鎧を着て立っていた。
恐らくこの町を守る、衛兵だろう。
「リアノ、それは人間か!?」
衛兵の一人が、目を丸くして私を見た。
「うん。これからお母さまに会わせるから、昇降機を上げて」
「あ、ああ。理のアガそう言うのなら……承知した」
衛兵はリアノの言葉で、後ろにあるレバーに手をかける。
「さあマール、あの床に乗るよ!」
「うん」
私はリアノに従い、床に乗る。その後ろから、リアノが引き連れていた一団も乗ってきた。それでもまだ二十人くらいは乗れそうなくらい、大きな床だった。
「いくぞ、リアノ」
「頼むよ」
衛兵がレバーをひくと、がこん、という音がして、かたかたかた、と歯車が回る。さっき聞こえたのは、これの音だったようだ。
そして床が、振動と共に上がっていった。
「わわ、わわわ!」
初めての体験で思わず転倒しそうになったところを、リアノにがしっと、脇を掴んでもらって、助けられた。
「あははは、紅の魔女なんて呼ばれてるくせに、情けないなあ」
「だだ、だって、しょうがないじゃ、わっ!」
真剣な表情でリアノに抱きつく私を見て、その場の兵士も声をあげて笑っていた。
「本当にマールを射殺さなくて良かった。だってさ、草木が警戒のマナを発してたんだもん。普通は魔物だと思っちゃうよ」
「まあ自分で言うのもなんだけど、似たようなものだから仕方ないわ」
「ははは、認めちゃったよ!」
なんだろう。リアノのこの屈託のなさが、私にとって凄く救いになる。
乾いていた砂に染みこむ、水のように。




