13話 罰
二日後の夕方。
私はセイジュの森の中、ウルトの町へとやってきた。
この町は日光がたっぷり降り注ぎ、ところどころに大木があって、とても雰囲気のいい町だった。私がここでほしいのは、フォレストエルフたちがこの森の何処に住んでいるのかという情報だ。
以前、書物で読んだけれど、フォレストエルフという種族はアレンシアに住む全八種族中、最も賢く、最も非力だという。長い耳を持ち、色白で、容姿端麗ということもあって、悪い人間や闇種族に狙われやすいらしい。
私は紅い髪を見られないよう、フードを被ったまま宿を取り、市場で食料を調達する。この町の市場で売られていた食べ物はきのこや木の実が多くて、どれも美味しそうだった。しかし、鞄に入れるには限度がある。
一般的には、私のような一人の旅人は十日分の食料を持ち、足りなくなると狩りをしたり、川で釣りをするなど、現地で調達することが多い。特に人に頼れない私は、なるべく多めに食料を持たなくてはならない。旅をするには必要な消耗品が割と多いのだ。
そこで私は市場で、それとなくフォレストエルフについて聞き回った。
その結果、得られた情報は、この町の北から真っ直ぐ進んだ森の奥深くで、運がよければ出会えるだろう、というなんとも曖昧なものだった。
とにかくフォレストエルフに会う。彼らと話せば、私が操るこの術についてなにか知っているに違いない。
市場で仕入れたものを宿屋の自室に置きにいった頃には、もう空が茜色に染まっていた。
私は次なる情報を求めて、宿屋の店主に場所を訊き、ワンドをしっかり腰に差して、酒場に向かった。
ウルトの町は、今まで私が行った町の中で最も大きいところだった。酒場は西門側に一つ、東門側に二つ、合計三箇所もあるという。
西側はラミナの街側なので、私が通ってきた道だ。
悲しいことばかり想起させるので、敢えて東門側に足を向けた。
「遊ぶ小鳥亭」と書かれた看板を見つけると、軽い扉を開いて中に入る。そこは、かなりの数の客がいて賑わっていた。
私は適当な席に座り、メニューを開いて、五色のキノコのパスタとジンジャーエールを頼むと、フードを下ろして料理を待つ。
その間に偶然、耳に入ってきてしまった。
「おい、聞いたか。“紅の魔女”の噂」
「ああ。なんでもラミナの街を稲妻で消し飛ばしたって?」
「それだけじゃあない。ラミナの街から来た商隊らに岩を落として、丸ごとぶっ潰しちまったってよ」
「そんな馬鹿な。たかが人間の女一人に、そんなことができるかよ」
「だから、ただの人間じゃねぇんだよ。血みたいに真っ赤な色の髪で、いろんな怪しい術を使うらしいぜ」
「それが本当なら、もう魔物じゃねぇか」
「ああ。だから最近、紅の魔女が使う法術を“魔法”って呼ぶヤツが増えてるらしい」
「おっかねぇなあ」
「しかし嘘くさい話ではあるなあ」
「いやいや、この町の西にある上り坂がよ、紅の魔女に落とされた岩で通れなくなったって話は、ちょうどその場に居合わせた旅人らが言ってたんだ」
「その話は俺も聞いたぞ。なんでも南の街道から来た連中の話だけどな、そいつら北の街道を使って、コルセアのカリーンから東に向かっててよ、ラミナの街で休もうと思ったらなんと、焼けた煉瓦しかない廃墟だったってよ!」
「マジかよ……」
そんな噂話を耳にして、私の頭がずん、と重くなり、俯く。
そっとフードを目深に被ると、遊ぶ小鳥亭を逃げるように出た。
まさか、そんな噂が流れていたなんて。
私だって、好きでこんな目に遭ってるわけじゃないのに。
なんだか悲しくて、辛くて、涙が滲んできた。
そして宿に駆け込むと、部屋に戻って……ドアを背にして、ずるずるとしゃがみ込んだ。
「ははは、紅の魔女かぁ」
そう言われても仕方がない。
むしろ、災難なのは、なにも知らない私に巻き込まれてしまったものたちなんだから。
マールの村。
ラミナの街。
ルチルさんの商隊。
彼らに災厄をもたらしたのは、間違いなく私だ。
ならば私は、罰を受けなくちゃ。
立ち上がって涙を拭う。
みなさん、本当にごめんなさい。
こんな悪魔のような私に優しくしてくれて、ありがとう。
私はこの日。
魔法を操る“紅の魔女”という存在を受け入れた。




