表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/60

10話 混乱


 帰宅する(ころ)には、もう日が(かたむ)いていた。


「なな、なんじゃと!? あ、あのローマンの馬鹿連中が!?」


 私はすぐ、お父さまとお母さまにローマンとそのほか二人の男の子に輪姦(りんかん)されそうになったこと、その裏には女の子三人が(から)んでいることを報告した。


「はい。マールの湖でエセルを待っていたところを、ローマンら三人の男の子に(おそ)われそうになりました」


「そ、そ、それで、無事じゃったのか!?」


 お父さまが心配そうに声をかけてくる。

 お母さまも、目を閉じて嘆息(たんそく)していた。


「エセルがきてくれたので無事でしたけど……あの六人はなんなんです?」


「あ、ああ。ローマンの家であるデジールは早くから次期村長と決まっていたから、息子のあいつは自由気ままに育てられたんだろう。これまでも散々、悪戯(いたずら)ではすまされないことをしてきた馬鹿ものらだ!」


「よりによって、うちのイーヴァに手を出すなんて。それに今回の件は悪さじゃすまないことさね! あんたが(ゆる)しても、あたしゃもう絶対に許さないよ!」


 お母さまが(いか)りの(さけ)びをあげた。


「そうだな、散々(さんざん)(しか)ってきたのだが、無駄(むだ)どころか、日に日に酷くなっていく。よし、儂は決めたぞ。近いうちに村民会議(そんみんかいぎ)を開き、デジール家の次期村長は白紙とする!」


「え、そこまでしなくても……」


 私があわあわとお父さまを(なだ)めようとしたけれど、お父さまとお母さまの怒りは頂点(ちようてん)に達していた。


「イーヴァ、すまんかった。あやつらには(わし)から更にきつく言っておく。しばらくは家で過ごした方がいいだろう」


 そう言うお父さまの言葉に、私は笑顔(えがお)で首を()った。


「本当に私は大丈夫(だいじようぶ)ですから。ただ、お父さまにお願いがあります」


「ほう、なにかな?」


 私は、マールの湖で拾った枝を見せた。

 あれからずっと手放さないで、持って帰ってきたのだ。

 なにせ、ローマンのような手合いがいつまた襲ってくるか、わからなかったから。


「これくらいの長さのワンドで、なにか良いものはありませんか? よろしければ護身用(ごしんよう)に持っておきたいのです」


 お父さまとお母さまは(たが)いに視線を()わして(うなず)くと、お父さまが部屋の(おく)へと消えていった。


「イーヴァ、まずはお(すわ)りなさい」


「はい」


 リビングのテーブルに手をつき、椅子(いす)を引いて(すわ)る。

 木の香りが(ただよ)う良いテーブルだった。その証拠(しようこ)に、テーブルから茶色のマナが出てきて、楽しそうにふわふわと()かんでいた。

 お母さまはキッチンへ向かっていくと、すぐに冷たいハーブティーを持ってきてくれた。


可愛(かわい)そうに……(こわ)かっただろ?」


 私の(となり)(すわ)り、(かみ)()でてくれるお母さま。


「いえ、特には」


「無理しなくていいんだよ。この村は見ての通り(せま)いから、若い女は男から乱暴されても()寝入(ねい)りさね。全く、とんでもない話さ」


「あのう、本当になんにもなかったので」


「本当に? だってあのガキども、確かいつも六人くらいいるだろう?」


「ええ。男の子三人、女の子三人でしたね。どちらにも逆にきつ~いお仕置きをしておきました。あ、男の子の一人を()()ばしてくれたのは、エセルですけれど」


「エセルか。あの子はローランと違っていい子だよ。誠実で母親思いで正義感が強くて(やさ)しい。畑仕事も頑張(がんば)って手伝うからね。それに明るくて友達も多い。あれはいい男になるよ!」


「あ、あはは……」


 お母さまはエセル()しなのか。

 でも確かにエセルからは、土と草のいい香りがする。

 これはただのカンだけどエセルみたいな男の子は、いい人な気がす――



【だ……めだ……やめ……】



「う、うわぁあああああああああああああああっ!」


 不意に脳裏(のうり)をかすめていった声に、私は思わず(さけ)び声をあげ、テーブルに()()す。


「どうしたの、イーヴァ! 大丈夫(だいじようぶ)かい!?」


「うう、ううう……」


 温かい水が(ほお)を伝い、頭の中が混乱に(おちい)る。


 なにこれ、なにこれ!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ