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壊し屋リリー -ある女工作員の話-

作者: 468◇

ある女工作員のお話です。サークルクラッシャー的な要素が含まれています。

私の名前はリリアン。ダークブラウンの長髪をまとめ、そばかすだらけで日焼けをしたどこにでもいる町娘。

“表の顔は”だけどね。


じゃあ裏の顔はって?

それはね...


あら、ちょうどいいタイミングで指令が来たようね。


『冒険者パーティー<若獅子団>を排除せよ。やつらによって奴隷狩りの捕縛やギルド員の不正摘発が続いている。奴らを動かしている者がいるのだろうが、まだ掴めていない。このままでは将来、我がギルドの邪魔になる可能性がある。やり方は一任する。期限は2か月だ。』


ふ~ん。

まぁ、私の手にかかれば朝飯前よ。

だって私の二つ名は“壊し屋リリー”。

闇ギルド所属の破壊工作員なんだもの。


まずは情報収集ね。これが一番大事なの。

だから十分な時間を掛けるのよ。



指令から二週間後、一人の少女が冒険者ギルドにやってきた。

ブロンドの髪に真っ白な肌、かなりの美人といえるだろう。その証拠に、周りの男たちが先程からちらちらと少女に視線を送っていた。

一組の冒険者パーティーが手を挙げると、少女はそちらに近づいて行った。


「今日からパーティーに参加するリリーだ。リリー、自己紹介を。」

「リリーといいます!回復術師です。よろしくお願いしますね!」

少女は人当たりの良い笑顔を浮かべて、挨拶をした。

「俺はリーダーのライアン。剣士だ。」(パーティーのバランスも良くなったし、もっと強くなれるぞ!)

「僕は斥候のテッド。よろしくね。」(か、かわいい...)

「あたしはセシリア。魔術師よ。」(ライアンのばかっ。女はあたしだけでいいでしょ!)


...なんて、あんたらの名前はすでに知ってるんだけどね。

当然リリーっていうのは私のこと。回復術師を募集してたみたいだから、変装してパーティーに潜り込むことにしたの。ギルド員を買収すれば簡単だったわ。

回復術なんて使えないけど、うまくポーションで誤魔化せば問題ないわ。

それに、この2週間でパーティーの人間関係、性格、趣味まで調べつくしたわ。

こいつらは3人とも幼馴染ね。ライアンは正義に燃える男、頭が固くて融通が利かないタイプね。セシリアはライアンの彼女で、彼のことが大好きみたい。嫉妬深くて性格が悪そう。私がパーティーに入ってイライラしてるはずよ。テッドはパーティー内で孤立してるわね。カップルはテッドのことを下に見てるみたい。まぁ根暗だし、自信なさそうだもの。ほんとは斥候ってとても重要な役割だと思うんだけど。


あとは私がほんの少し手を加えるだけで...

勝手にぶっ壊れてくれるわね。


さてと、早速取り掛かろうかしら。

まずは一番下のテッドから抑えるわ。



自己紹介を終えた私たちは、4人行動の練習のために森でゴブリンの討伐依頼を受けた。

これも買収したギルド員を利用している。斥候の仕事が増え、かつそれほど難しくない依頼を勧めさせたのだ。



私は偵察に出ようとしているテッドに声を掛けた。

「ねぇ、テッド君は斥候なんだよね。」

「う、うん。今からゴブリンの痕跡を探しに行くんだ。」

「あぶない魔獣だっているかもしれないのに、たった一人で森に入るなんて... テッド君ってすごいね♡」

「そ、そんなことないよ... 僕なんてこれくらいしか貢献できることがないから...」

「そう?ゴブリンの巣を探したり、ほかの敵がいないか警戒して、野営の準備までしてるんでしょ?私はテッド君のこと、とってもかっこいいと思うよ♡」

「ありがとう...」

「じゃあ、頑張ってね!」テッドの手をぎゅっと握りそう言うと、彼は顔を真っ赤にしながら逃げるように去っていった。



照れちゃってかわいいわね。

周りから下に見られて自己肯定感の下がった男には、褒め殺し作戦が良く効くのよ。自分に好意のある女が近づいてきたらすぐ意識しちゃうでしょ?すべてを肯定して、たまに手でも握ってあげればイチコロね。


その後も軽い討伐依頼をこなしつつ、私はことあるごとにテッドと二人きりになり褒めまくる。

そのおかげか、私と話すときのテッドは元の暗い雰囲気が霧散し、楽しそうに笑うようになった。しかも私を見る時にすこし頬が赤くなっている。



これでテッドは私にとって都合のいい駒になったわ。

次はセシリアを潰す準備をしなくちゃね。

ちょうどいい依頼はあるかしら。



私が加入して1週間が経ったころ、私たちのパーティーは隣町までの護衛依頼を受けることになった。

片道4日、隣町での滞在2日、合わせて10日の長旅だった。



上手く護衛依頼を受けさせることができたわ。

向こうにつくまでは4日あるわね。このあいだにセシリアからのヘイトを高めておきましょう。

ふふっ♡ 闇ギルドから取り寄せた、この魔物呼びのお香が役に立つわ♡

あとは、向こうにいる工作員に連絡しておかなくちゃ。



お香の効果は強力で、道中に何度もモンスターの襲撃があった。ライアン達はそれなりに腕が立つが、戦闘回数が増えれば当然怪我も増える。

「きゃあっ!ライアンさん大丈夫ですか!?」

「この程度かすり傷だ。ほっときゃ治るさ。」

「だめです!悪い病気になっちゃったらどうするんですか!ほらっ、傷を見せてください!」

「お、おう。」

「じゃあいきますね。[回復]!」

セシリアに見えるように体を密着させながら、回復の呪文を唱える。

実際には回復魔法が使えないので、こっそりとポーションを使うためにくっついているのだが。

治療中、こっそりと彼女の表情を盗み見ると、不機嫌そうな顔をしていることが分かった。



ふふっ。ライアンに色仕掛けは効かないことはわかってるの。でもねセシリア、あなたは違うでしょ。

大好きな彼に馴れ馴れしくくっつく邪魔な女。むかつくわよね。



その後もライアンが怪我をするたびに回復するところを見せつけた。

するとセシリアは、戦闘中に私を掠めるように魔術を放つ、話しかけても無視をする、私の料理に文句をつけるなど、嫌がらせをするようになった。

私はそのたびにこっそりとライアンに相談していた。

「うぅ... セシリアさんに無視されたり、わざと魔術をぶつけられそうになったんです...」

「あいつに何かしたのか?原因もないのにそんなことするやつじゃないぞ。」

「きっと私がライアンさんに触って回復をするのが気に食わないんです。私をパーティーから追い出すつもりで嫌がらせを... うぅ、ぐすっ...」

「...わかった。俺もあいつの行動を見ておく。」

当然、回復は続けておいた。

もうすぐ隣町に着くという頃、セシリアから視線には明らかに敵意が籠るようになっていた。



さて、十分餌は撒いたわ。あとはセシリアの行動待ちね。

あ、もちろんテッドへの褒め殺し作戦は続けていたわ。おかげで私のことをとっても大事にしてくれるようになったの。野営の準備だって私の分まで手伝ってくれるし、セシリアに嫌味を言われていると割って入ってくれるようになったわ。



隣町について、私たちは宿を探すこととなった。

私は、気づかれないようにパーティーをある宿屋まで誘導した。一階は食事スペース、階段を上って二階が宿泊スペースになっているごく普通の宿屋だ。



ここは私の所属する闇ギルドの傘下が営業しているの。すでに部屋も確保してあるわ。

この場でセシリアを処理する予定なの。



宿屋の主人から、2部屋しか空いていないと言われたため、男女で別れて部屋をとることになった。

ライアン達は階段の目の前にある部屋、そして私たちは一番奥にある部屋となった。

ライアン達が一階で宿屋の主人と話している間に、私とセシリアは部屋に向かった。

私が部屋の扉を閉めた途端、セシリアに頬を打たれた。



嫉妬深い女は扱いやすくて楽だわ。さんざん煽ってちょっと隙を見せてあげればすぐに手を出してくる。その行動が自分の首を絞めてることにも気が付かないなんて、哀れな女ね。



「あたしの彼氏に手を出してんじゃないわよ!」

「きゃっ!何するんですかセシリアさん!」

「だまりなさい!」彼女はもう一度、私の頬をぶった。

「うぅっ!」

セシリアはリリアンを壁際に追い詰め、耳元で囁く。

「あんたは許さない。さっさとうちから抜けなさい。じゃなきゃ大怪我することになるわよ。」

私は頬を押さえ、涙を流しながら部屋を飛び出る。

宿から走り去る姿をライアンが見ていることは確認できた。



正義を振りかざす男には仲間を疑わせればいい。勝手に証拠を見つけ出して、脳内で都合のいいように補完して、馬鹿な正義を執行してくれるでしょ。



私が通りを歩いていると、後ろからテッドが走ってきた。

「リリー、大丈夫?」

「テッド君... 私、セシリアさんに嫌われちゃったみたい。パーティーを抜けろって脅されちゃた...」

「そんな... リリーは悪くないよ!セシリアはずっと君に嫌がらせをしてただろ!」

「もう疲れたの... 私、この依頼が完了したらパーティーを抜けようと思ってるの。」

「そっか...」


暫く経った後、テッドがぽつりと言った。

「...決めた。僕もリリーと一緒にパーティーを抜けるよ。」

「えっ!だめだよ、テッド君はこのパーティーに絶対必要なんだよ!」

「それを言うなら回復術師のリリーだって絶対必要だよ!」

「...」

「リリー、僕らで一緒に新しいパーティーを作ろうよ。」

「それは... すぐには返事できないよ... ごめんね、こんな卑怯なことしか言えなくて。」

「いいよ。ゆっくり考えて。」

「ありがと... テッドは先に戻ってて。私は落ち着くまで休んでるって伝えてほしいの。」

「...わかった。気を付けてね。」

そう言い残すと、テッドは宿屋へと帰っていった。


テッドはもう少し後で処理する予定だったけど、この際一気にやっちゃおうかしら。

この街の冒険者ギルドから、必要なものを取ってこなくちゃね。



結局、私は次の日の昼になってようやく宿へ戻った。

ライアンが帰ってきた私に声を掛けてきた。

「リリー、昨日は一体何があったんだ。」

私は弱弱しい声で話し始める。被害者に、力なきものに見えるように。

「... 部屋に入るなりセシリアさんにぶたれて... あたしの彼氏に手を出すなって... 私は回復を掛けてただけなのに...」

「頬が腫れてるじゃないか!くそっ!君たちを同じ部屋にするべきじゃなかった!」

「気にしないでください。私... この依頼が終わったら皆さんのパーティーから抜けるつもりですから... 」

「いや、そんな必要はないだろう!」

「... 実は、セシリアさんにさっさと抜けないなら大怪我することになるだろうって...」

「なんてことだ...」

「今日、ギルドに行ってパーティー脱退用紙を取ってきました。ここにサインをもらえませんか? 護衛依頼は最後までちゃんと参加しますから、お願いします。」

「...わかった。だが向こうに戻ったら一度みんなで話し合おう。提出するのはその後でもいいだろう。」

そんなことを言いながら、ライアンは書類にサインをしてくれた。



...

あははっ♡、ライアンの顔色、真っ青になってるじゃない。

この書類は、私とテッドが抜ける時に利用させてもらうわ。

さて、場も十分暖まったし、そろそろ締めにしましょうか



宿屋に泊まる最終日の夜、あたしはセシリアのいる部屋の扉を叩いた。

彼女は扉を少し開けると、不機嫌そうに顔を出した。

「なに?」

そんな彼女に、小声で話しかける。2人の会話がほかに聞かれないように。

「セシリアさん、ちょっといいですか?」

「はぁ?あなたと話すことなんてないんだけど?」

「私、やめませんから。このパーティーも、ライアンさんへの回復も。ていうか、たかが回復行為で嫉妬して嫌がらせとか、ふふっ♡ 心狭すぎて笑えちゃいます♡ 彼はあなたみたいな嫉妬深い性悪女にはもったいないと思ってたんですよ♡ かわいそうだから私がもらってあげますね♡」

そう言い放ち、部屋から離れ、ある場所を目指す。

後ろから、セシリアが叫びながらこちらを追ってくる足音が聞こえる。

あれだけの音を立てれば、ほかの部屋の客だって様子を見るために出てくるだろう。そう、ライアンも。

追われながら目指す場所は...

一階への階段。


「どういうつもりか説明しなさいっ!!」

セシリアが私を掴もうと手を伸ばしてくる。しかし私はもう階段にたどり着いている。

ライアンが部屋から出てくるのが見えた。

それを確認してから、私は何もない空間に体を預けた。

若干の浮遊感、そして大きな音、遅れて体中に痛みが走る。

視界の端に、狼狽えるセシリアの顔と、怒りに満ちたライアンの顔が見えた。

「セシリア!何をやってるんだ!テッド、リリーを頼む!」

「違うのライアン、あいつがっ...!」

「だまれっ!お前、リリーを突き落としたな!」

「あたしは掴もうとしただけで、そしたらあいつが自分から落ちたのよ!」

「お前が手を突き出しリリーを押したのは見た!お前が大声を上げながらリリーを追いかける音も聞いてるんだ!」

「手は出したけど、突いてはないわ!あいつが!あんたへ抱き着くのもやめないし、あんたをあたしから奪ってやるって言ったから...」

「そうか...、どうしても突いてないと言うんだな。」

「わ、わかってくれ...」

しかし、ライアンは彼女の発言を遮って話し始める。

「リリーには前から相談されていたんだ。お前にわざと魔術をぶつけられそうになったこと、ことあるごとに文句を付けられること、そしてパーティーを辞めなければ大怪我をさせると脅されていたことをな。」

「そ、それは...」

「これ以上言い訳は聞きたくない。残念だよセシリア。俺たちは仲間だと思っていたのに。お前はくだらない嫉妬心でリリーに怪我を負わせた。もうお前を信じることも、仲良くすることもできないよ。」

「そんなっ...!いやっ!そんなのいやよっ!!」

「自警団を呼ばれたくなければ部屋に戻ってくれ。今すぐにだ。そして明日の護衛依頼の指定時刻まで部屋から出てこないでくれ。」

「ひっ...」

ライアンに冷たい声でそう言われ、セシリアはガタガタと震えながら部屋へと戻っていった。

「それで、リリーは...」

「頭から血が出てるし、脚も腫れてるけど意識はあるよ。」

「うぅん、明日の依頼には連れていけないな...」

「ぼ、僕がリリーと一緒にここに残るよ!」

「テ、テッド君...ありがとうございます...」

「そうか、なら明日の依頼は俺とセシリア、あとはギルドで適当に集めることにするよ。」

そういってライアンも部屋へと戻っていった。

私はテッドに肩を借りて、治療院へ向かった。



あ~あ。セシリアったら、もう言い逃れできないわね。今更あんたの意見が聞いてもらえるとでも思ったのかしら。残念だけど、もうすでに男2人はあたしの僕なの。あなたにはもう仲間はいないのよ。嫉妬深い人って意外と心が弱いから、恋人からの信用を失って耐えられるわけないわよね。

向こうの街にいる仲間に、あなたが仲間を階段から突き落としたことを噂で広げておいてもらうわ。精々心を痛めてちょうだい。



あの2人が街を出たあと、テッドは脱退用紙を提出しに行ったわ。もちろん私とテッドの連名よ。

彼、私と二人になれると思って浮かれて帰ってくるでしょうけど、その前に逃げさせてもらうわ。

『私のせいであなたたち全員を傷つけてしまったわ。私は自分自身が許せない。どうか私のことは忘れて、幸せになって。』

って書いた手紙を残してね。

ギルドの規定があるから、一度辞めたパーティーには帰れない。私の気持ちを考えて、追ってくることもできないでしょ。

テッドはパーティーを辞めて一人ぼっち、ライアンはセシリアのことを信じられなくなった。セシリアは噂も広がるし、好きな人には嫌われちゃうしで完全に心が折れるわね。

もう冒険者パーティー若獅子団はこれまで通り活躍することはできないわ。彼らを裏で操っていた者も、新しい駒を用意するまでは動けない。

これにて任務完了ね。楽な仕事だったわ。



私は“壊し屋リリー”。心の隙間に入り込み、人間関係を破壊するの。



-完-

ここまで読んでくださりありがとうございます!評価、感想などいただけると執筆の励みになります!!


以下作者コメント

サークルクラッシャーって怖いですよね。残念ながら会ったことはないですけど。

そんな人が、実は工作員だったらというお話でした。

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