アニマ
カッカッカッ、と鉄を踏む音が鉄パイプから響く。女性がヒールを履いているのにもかかわらず人間離れした速さで走っていた。その後ろを人型の影のようなものが数体追いかけていた。そう、女性はそれから逃げていたのだ。
突如、銃声が鳴り響き影を撃ち抜いていく。女性が驚いて振り返ると、影の前に二人の女性が立っていた。
「ミナ、これで全部か?」
ミナと呼ばれた白髪の女性は二丁の銃をガーターベルトにしまう。
「ええ、シクニヤ。こいつらが最後よ。後はよろしくね」
シクニヤと呼ばれた灰銀色のポニーテールの女性はミナに言われる前に刀を抜き、次々と影を切り裂いていく。あっという間に影は倒され、辺りに静寂が訪れた。
「大丈夫?」
ミナが逃げていた女性に話しかける。
「災難だったわね。シャドウに襲われるなんて」
ミナは人あたりのいい笑顔で女性に手を差し伸べる。その後ろにいるシクニヤは女性を睨みつけていた。
「私はミナ、E部隊の一人よ。貴方は?どこの部隊?」
「………」
ミナの問いかけに女性は無言で顔を俯かせる。
「あらあら、大丈夫よ。私たちは貴方を傷つけたりしないわ。なんでも話してちょうだい」
ミナが優しく語りかけると、女性は意を決したように顔を上げた。
「…わからない」
「えっ?」
女性はポツリ、ポツリと目を泳がせながら呟く。
「アニマ…って名前しか、わからない。それ以外は、覚えてない」
「ふむ…なるほどね」
ミナは考える素振りを見せるとアニマの手を取った。
「なら私たちE部隊に入らない?」
「え?」
「…おい」
ウキウキと提案するミナとそれに困惑するアニマに遠くから見ていたシクニヤが声をかける。
「アニマという機械人形は本部記録にない。得体の知れない奴を仲間に入れることはできないだろ」
シクニヤはアニマを良く思っていないのだろう。殺意を隠すことなく、今にも刀を抜きそうな雰囲気だ。
「あら、それなら記憶のないこの子を見殺しにするの?さっきだってシャドウに襲われていたし、少なくとも敵ではないわよ」
「そう見せるための罠かもしれないだろ」
笑顔で呑気な発言をするミナに対し、シクニヤは不機嫌になっていく。二人の話が平行線のままであることに戸惑うアニマは気づく。シャドウが一体、二人に近づいていることに。しかも二人は口論に集中してて気づくことはない。
「!」
シャドウが二人に襲いかかる。咄嗟のことで二人は反応が遅れてしまった。
しかし、シャドウが二人に傷をつけることはなかった。アニマがシャドウを蹴り上げ倒したことによって。
「…凄いわ!シャドウを倒せるなんて」
ミナは嬉しそうにアニマを褒める。
「いや、守らなきゃと思って…つい」
アニマは自分でもシャドウが倒せたことが不思議だったようだ。
「それでいいのよ。ね、シクニヤ?」
咄嗟にミナとシクニヤを助けたということは敵であることを否定するには十分な証拠だ。
シクニヤは嫌そうな顔で、しかし助けられた恩もあるのは事実だと理解していた。
「……少しでも怪しい動きを見せたら斬る」
シクニヤがそう言い終わると同時にミナはアニマの手を優しく握る。
「これからよろしくね、アニマ!」
満面の笑み浮かべるミナにアニマは押されるように言葉を零した。
「…よろしく…」
謎が多いアニマ、それを受け入れるミナ、疑うシクニヤ。三人のそれぞれの想いが織りなす物語はどうなっていくのか。それは神ですらわからないであろう。