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燦々  作者: 狐猫
4/40

4.休息と友

 昨日は怒られる寸前で回避。冷や冷やしたが無事に帰宅し今日を迎えている。今日は非番なので交番には行かずに家で休むことができる。

 

「はぁ。疲れが取れん」

 

 歳はもちろん若いのだがあの街で働くということはそういうこと。疲れが飽和する。こんな時のために栄養ドリンクなどは完備してある。若いがこれに頼る。

 

「上手い」

 

 日本の栄養ドリンクは軒並み美味しい。味よし効果よしなので言う事は無い。一人暮らしの冷蔵庫を除くと質素すぎて驚くがこんなものだ。一人暮らしだと一日何も喋らないことがある。普段の仕事では大声を発する分、何も喋らないのは逆に帳尻合わせになってちょうどいい。

 

 今日は何もせずに家にいるだけの予定だが、このような日に限って友達から連絡が来たりする。スマホとにらめっこするのも楽しいがどこか外に出るのもなんだかんだ楽しい。

 朝とは呼べない時間に差し掛かり、家事を一通り終わらすことが最優先であることに気が付く。

 

「やべ洗濯」

 

 一人暮らしだと洗濯は少ないが、放っておくと溜まる。不思議なものだ。本当に。

 私は急いで洗濯機に衣類を流し込み、スイッチを入れた。洗濯機は音を立てて勢いよく回りだした。この洗濯が回っているのを好んで見るものもいるらしいが、生憎私は興味がない。     

 人間はそれぞれ不思議なものに魅了される傾向がある。それがただ変わったものであれば可愛い個性ではあるが、危ないものに魅了されるとどうしようもなくなる。人に害を与えるものに興味を持ち、魅了されたらそいつは一巻の終わり。

 

「おっと。癖で変なことを考えた」

 

 折角のオフの日なのにこんなことを考えるとは職業病だ。ろくでもない奴らを見過ぎているのでこちらの価値観も狂ってしまう。裏の世界に片足突っ込んでいるようなもの。これは仕方ない。

 

「ピロリン」

 

 携帯のメッセージアプリの通知音だった。先ほどの勘は当たったようで友達からだった。名を「西 達志」と呼ぶ。学生時代からの友達だ。俺は彼からのメッセージを見た。

 

(どの馬がいい)

 

 とだけ書かれて競馬の出馬表が添付されていた。どうやら彼は今競馬場にいるらしい。どうでもよい内容のメッセージだった。そこら辺に知識の無い俺にとって馬は全て同じに見える。いや、毛の色が違うのはわかるが大体顔は同じなので個性がわからない。

 

「くだらない」

 

 私は適当に返信をしようとしたが、ここで適当に答えてそれが外れた時にとやかく言われたくはない。だからといって本気で考えるのも阿保らしい。こういう時はとりあえず聞けばいい。どの馬が有力なのかをだ。そうすれば責任は逃れられる。

 

(お前が有力馬と思っているのはどれだ)

(1と8かな~軸にするなら)

 

 一応確認する。内枠の1番は現時点で5番人気。8番は6番人気。かなりの穴馬だが、こいつが選びそうな馬だ。下手に上位人気は買わないというやつだからだ。ちなみに馬体も見たがこちらを見つめる顔はほとんど同じ。筋肉の着き方が少し違うか。

 

「なんで詳しくなってんだ俺」

 

 これも全てあいつのせい。普段興味のない競馬を延々と話されていれば自ずと知識は着く。嬉しいものではないが、知らない分野の知識を持っておいて損は無いはず。競馬で役に立つことはあまり思いつかないが、いいだろう。

 

(ん~1だな)

(俺もそう思ってた。あざ)

 

「じゃぁ聞くな!」

 

 的確なツッコミを入れたが、人に聞く前に決めてたなら聞くな。本当に。だが、これで私に責任が降りかかることは回避。

 

 そういえば一度彼に競馬場へ連れてかれた記憶はある。はまらなかった。理由は簡単。1レースも当たらず帰還。なのに、彼はプラスの収支で帰還したのだ。やるせない。ビギナーズラックというものがあるらしいがそれには見放された。しかも、達志にどの馬がいいか聞かれて答えた馬は当たった。人の馬券を当てる能力でビギナーズラックを使ったのだ。お陰で彼から競馬をする度に意見を求められる。

 

「俺は賭け事に向いていない」

 

 そう結論を付けておく。事実だし。

 

「この!東京を!変えます!」

 

 何事かと思ったら選挙が近いことを思い出した。確か東京の都知事選だったはず。誰もが言う謳い文句「東京を変えます」。明確に変えれた人間を見たことないのは私の知識が薄いためなのか。いや、あんまりいないのは周知の事実だろう。

 毎回選挙が近くなるとうるさくなる。選挙カーの音量と言うものはかなり大きいので生活している上で意識せざるを得ない。だからと言って選挙に行かないなんてことはしない。都民なんだから自分たちのリーダーは自分で決めたい。ここら辺は真面目でね。

 

 

 一通り家事を終え時刻は15時半。

 神のいたずらか、達志のいたずらかはわからないがちょうど競馬のメインレースの時間。私が予想した馬のレースが始まる。今は暇なので競馬中継でもつけて結果を見ておこう。

 ちょうど馬がターフに出たところか。ゲートの前に馬が集まる。

 清々しい姿であり勝負前の顔をしている馬の面々達が映し出される。競馬は賭け事ではなくスポーツだと達志は言っているが、素人からすると賭け事にしか見えない。ただ、昨今の競馬ブームで若者の参入。一般的な世の中に浸透し、メジャーになっていることを考えるとスポーツと言えるのかもしれない。

 

「各馬ゲートイン完了。スタートしました」

 

 どうやらスタートした。競馬の実況は凄い。レースの状態を伝えるために先頭から馬の名前を伝えていく。私からするとすべて同じに見える。色分けされていようが同じだ。

 蹄の音がテレビ越しから聞こえてくるので、少しは気になる。

 

 一生懸命に走っている

 

 なぜそこまで一生懸命走るのか

 

 そんなことはわからない

 

 とりあえずボーっと見ていたらレースは終わった。1が一着で来た。

 

「あれ、当たった」

 

 私が買ったのではないが、達志に伝えた番号が的中した。すぐさま連絡が来た。

 

(ありがとう一点買い成功)

(俺は本当に人の競馬を当てるのは上手いらしい)

(大勝ちよほんとうに)

(それはよかったことで)

(おごってやるから。いつもの駅集合な暇だろ。18時な)

(いや、暇とは)

(おごってやるから)

(わかった)

 

 彼に押されてしまった。おごってもらえるのであれば行かない選択肢はないし一人でいても暇なだけか。私はそう思い家事をとっとと終わらせることにした。

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