38.騙しと勝利
「うわぁ…連れてきすぎだよ」
俺は呆然とする。シェリーの本気具合が伺えた。シェリーの後ろには屈強な男達が血の気増し増しで立っている。
「なんだお前ら!」
店員は状況を理解出来ていない。
「矢島組よ!散々私たちの島を荒らして治安を乱してくれたわね」
「何!?矢島組!?」
組の名前を名乗った途端裏にいた組織の奴らも続々と出てきた。
「好き放題やってくれたわね。麻薬を売買したり変なタバコを配ったり、しまいには人の顔の複製?アホらしい。私達がいるからこの街は治安が崩壊しなくて済んでいるのよ。それを組織ぐるみで崩壊させに来るなら私達はそれを潰すわ」
「それにしてもよく分かりましたねぇここが我々の拠点だって。どうやって突き止めたんです」
シェリーは詳しく説明する人間じゃない。ざんねんながらその解答を知ることは無いよ。
「そんなことどうでもいいわ。ここの地下が本拠地だと分かったのはつい最近よ」
「そこまで調べ着いてるのかよ。それにしても太田敦のただの友達だと思ってた西達志がお前らと繋がってたとはね。誤算だよ」
「誤算は敗北に繋がるわよ」
組織の奴らは俺たちが矢島組と繋がっていることを知らなかった。その時点で手の内を明かさずに行動できたオレらの勝ちだ。このまま暴動でも起きそうだ。
「さて…私達矢島組の方が人数は多いけど?やり合うのかしら?」
「まさか…応援を呼んでるよ」
「来るかしらね」
「え?」
店員はうろたえている。何を言ってるのか分からないといった感じだ。俺だって困惑してるよ。奥からドタバタとした音が聞こえる。応援状況を伝えに来たんだろう。残念ながら応援は来ないだろう。
「リーダー!すみません!応援が…来ません!」
「はぁ!?なんで!」
「華舞伎町のこことは正反対の所にいまして…おかしなこと言ってるんです!」
「何をだ!」
「他の奴ら…西達志を追ってて今見失ったと言ってるんです。人員がそこに多数行ってしまってます」
「何言ってんだ!西達志はずっとここにいたんだぞ」
作戦は成功した。これで俺たちの勝利は確定。目の前では状況を理解出来ていない外国人で溢れている。それもそうか。
「狼狽えるとは惨めねぇあなた達。西達志はここにいないの」
「矢島組…これはどういうことだ」
「あなた達が川崎康太でやった事をちょっと真似ただけよ」
「何!?」
ネタばらしか。以外と気付かれないものだな。
「そこにいるのは西達志じゃないわよ。井出晴人よ」
「こいつが…井出晴人!?」
そう。俺は西達志じゃない。井出晴人だ。ここに来る前うちの店でシェリーから聞かされた作戦。とんでもねえ作戦だと思ったが、上手くいくものだ。警察の兄ちゃんやシェリーが言ってた通り俺と達志君は似ていた。明確な違いは髪の色くらい。俺はその場で黒髪にされて達志君と同じ髪型にされた。そしたらビックリするくらい瓜二つになったのだ。
「そうだ。俺は髪の毛を黒く染めた井出晴人。別働隊が追ってたのが達志君自身で間違いない」
「そんな馬鹿な」
「つまり、お前らの応援なんて来ないんだよ」
敵戦力の分断こそがシェリーが言った反撃の要。同数でやり合うよりも数で圧倒した方が簡単なのだ。
「惨めね。あなた達が意気揚々とやってのけた複製作戦を上手く真似されて反撃されたなんて」
奴らは何も言い返せない。
「どうしたら…」
「あなた達に応援は無くてもこちらは準備万端よ。それくらい理解して判断をくだすのね」
「クソ…」
戦意喪失。こちらの完全勝利。長かった戦いは俺たちの戦いで終焉を迎える。
「何やってんのよ井出晴人。地下に行くわよ」
「え、あ、うん」
俺はシェリーに連れられて奥へと連れてかれた。奥を散策して地下へと続く道を発見した。そこを降りると地上の店とは一風変わったアジトのような空間に出た。
「奴らを見つけられなかった理由はこれね」
「地下拠点ってことか」
「そう。奴らが全然しっぽを見せなかったのは私達の監視カメラの届かない範囲。独自の地下拠点のせいね」
後ろからワラワラと矢島組の人間が降りてきた。残党処理のためだろう。徹底的に潰す気だ。怖い。矢島組に交じって見たことあるやつが降りてきた。安堵の表情。達志君だ。
「井出さん!シェリー!やりましたね」
「達志君どうやってここに」
「逃げてたら車が横に止まって拉致されてここに来ました」
「シェリー…達志君の回収方法荒くない?」
矢島組に連れてきてもらったとは思ったが、ほぼ拉致同然じゃないか。やることが雑すぎる。
「一瞬を争うのよ。文句を言うんじゃない」
そして、この自分のやることは全て正しいという姿勢。凄い女だ。
「2人とも何をぼさっとしてるのかしら。この先に面白いものがあるわよ。全ての元凶」
「俺はわかったよ。川崎のコピーだろ」
「その通りよ。最後にご挨拶と勝利の宣言しまょう」
アジトの中をくまなく探した。何せ部屋が多いため、苦労したが残すは部屋が1つだけになった。シェリーは躊躇いなく思いっきり開けた。そこには2人の男が座っていた。俺は驚愕した。川崎と川崎。同一人物が2人いる。
「川崎康太のコピーこんばんは。私は矢島組の者よ。まさか2人いるとはね」
なぜシェリーは動揺しないんだ。川崎のコピーは1人じゃなかった。たしかに今考えれば複製を1人作れるなら2人目も作れる。
「どうも…矢島組の方とそっくりなお2人さん」
「戦意喪失ねコピー共。単刀直入に聞くわ。太田敦を殺したのはあなた達ね」
頭がこんがらがる。話を進めるのが早い。達志君は完全に能の処理がついて行ってない。
「そうだよ」
警察の兄ちゃんは川崎のコピーに殺された。川崎の事件に深く入り込んだ警察の兄ちゃんはそのコピーに殺された。あまりにもやるせない話である。
「お前らが敦を…お前らが!何で!」
達志君が怒る気持ちはわかる。
「太田敦は我々の邪魔をした。折角作ったコピーを殺されたんだぞ。我々は報復をするのみ」「ちくしょう!俺はお前らを許さない」
「そりゃそうだよ」
達志君は言葉が出なくなってる。言いたいことと感情が追いついていない。ここは冷静なシェリーに任せた方がいい。
「あなた達は太田敦を殺した。だけど、あなた達は太田敦に組織として殺されたわよ」
「なんだと?」
「太田敦は確実に組織を潰せるように自らが死んだ時の作戦を私に伝えてたのよ。それが今起きてることよ」
「極道が警察と手を組むなんておかしいね」
「私達は好き勝手荒らすあんた等を潰したかった。太田敦は自らの正義に則ってあんた等を潰したかった。目的は同じじゃないかしら?」
なるほど警察の兄ちゃんは目的が同じであったことを上手く利用して矢島組を動かした。天晴れだ。その結果誰も死なずに組織を潰すにまで至っている。彼さえ死んでなければ全てが成功だったのか。
「なるほど…こちらの知らない所で手は組まれてたのか。だけど俺達は表には出ていけない存在なんでね」
何かと思ったら2人揃って拳銃を取り出した。こいつら自ら命を絶ってあの世に全てを持ってく気だ。そんなことしたら警察の兄ちゃんが報われない。
「ダーーーーン!!!」
「ダーーーーン!!」
銃声が2発響き渡った。それは川崎達の方からではなかった。すぐ隣。シェリーからだ。シェリーの手には立派な銃が握られていた。音の正体はこれだ。
「シェリー!お前!」
「井出晴人。何言ってるのよ。私は彼ら2人の銃を明確に射抜いたわ。死なせるなんてできないからね」
「え?」
俺と達志君は川崎達を見た。射抜かれた銃は木っ端微塵になっており、当の本人達は唖然としている。シェリーの腕前が凄まじい。川崎達は完全に諦めており、後ろから来た矢島組に寄って連れてかれてしまった。組織のボスこそ未だ不明なもののそこから先は矢島組の見せどころ。ここまで敵の全容が判明したんだ。任せてしまっていいだろうし、俺と達志君はこれ以上突っ込まなくてもいい。終わったのだから。
「全て終わったのか…」




