33.尾行と決意
走りながら話の続きを聞いた。椎菜ちゃんも他の広場の子どもたち同様、投稿するためにタバコを探していた。他の子たちは面白がって探していたのに対して、椎菜ちゃんはタバコを探すことで友達を見つけ出す手がかりになると思ったとのこと。そしたら案の定見つけてしまった。自分ではどうすることもできないし、事件ではないので警察に連絡もできない。困った椎菜ちゃんは画像を投稿して結衣ちゃんに助けを求めた。
1人で危ない橋を渡っていることは褒められたものじゃない。だけど、冷静に俺たちに助けを求めるという考えに至ったことは褒めるべきである。
「それで椎菜ちゃんとはまだ連絡とれてるの」
「はい。メッセージアプリで連絡を」
それならまだ椎菜ちゃんには問題はない。尾行がバレていないという証だ。
人混みが多いためか、中々椎菜ちゃんの元までたどり着くことができない。1人で突っ走ってしまうと今度は結衣ちゃんとはぐれてしまう。
「クソッ。この街の夜は人が飽和するのどうにかしてくれよ」
「達志さん文句言っても仕方ないですよ。進むのみです」
なんとか人の流れをかき分けた。
「椎菜ちゃんあそこにいます」
「どこだ…いた。あれか」
結衣ちゃんの指さす先に椎菜ちゃんは立っていた。電柱の影にひっそりと隠れる華奢や体は恐怖を感じているようで、肩がすぼんでいる。
「俺達もロシア人達に見つかる訳にはいかない」
「分かってます。椎菜ちゃんには近くにいることは伝えました。大声出さずにゆっくり近づきましょう」
観光客になりきっているのか、はたまた忍者になりきっているのか。どちらでもいいが、俺たちは周りに溶け込みながら近づいていった。どいつが例のロシア人か分からないからだ。キョロキョロしながらも無事に椎菜ちゃんと合流できた。
「椎菜ちゃん大丈夫だった?」
俺は心配を伝えた。
「は、はぃ」
「よく無理して頑張ったね。もう俺たちがいるから安心してね」
「ありがとうございます」
「それで、ロシア人はどこにいるの?」
「あ、あそこ…」
指さす方には確かに外国人らしき人物が複数人いた。あれがタバコを配っているロシア人。そして、そこの中に明らかに日本人の子供が紛れている。その子が未来ちゃんだろう。
「問題は未来ちゃんが自分から選んであのロシア人に着いていってる場合なんだよね」
「達志さんそれは無いと思います」
結衣ちゃんはそう言い切った。
「確証はどこから?」
「これで結衣ちゃんを見てみてください」
「双眼鏡持ってきてたの…用意周到だこと」
「いいから見てください」
「はいよ」
俺は受け取った双眼鏡で未来ちゃんを覗いた。なるほど。これは自分の意思では無い。自らの意思で着いて行った人間の醸し出す顔の暗さじゃない。これは絶望を感じてる人の顔だ。助け出さないと未来ちゃんが危ない。
「なんであそこから動かないんだろう。椎菜ちゃん。彼らずっとあそこに?」
「え、あ、はい。ここに移動してきてからはずっとあそこに」
「なんでだ…誰かを待っているのか」
このまま下手に動けば不審に思われてしまうし、未来ちゃんに俺たちがバレてしまう。それでこちらに反応してしまえば逃げられる。「動かざること山の如し」別に武田信玄が好きとかでは無いが、有名なセリフをそのまま使わせてもらおう。じっと待つのだ。バレないように。
2分待った
3分待った
5分待った
「動きがあった!」
俺は2人に声をかけてそちらを見るように促した。ロシア人はやはり誰かと合流した。双眼鏡で覗いて見たが外国人であるということ以外よく分からなかった。少し話し合ったら移動し始めたので、俺達も離れながら着いて行った。心臓は有り得ない程鼓動を速める。だが、2人の女の子を前に弱気になんてなれない。俺がしっかりしないといけないから。
「2人とも止まって」
2人を静止するよう促した。ロシア人達は雑居ビルの地下に入っていった。完全に見えなくなるのを確認してからビルのテナント名を確認した。何も書いていなかったが、地下には一室しかないので、奴らはそこに入っていったことは間違いない。さて、どうしようか。結衣ちゃんと椎菜ちゃんを見た。この2人をこれ以上危険な場所には連れて行けない。ましてや椎菜ちゃんには結衣ちゃんが着いていないと心配だ。ならば、ここに来る前念の為に寄ったあそこを活かそう。
「結衣ちゃん。俺は今からこの地下に行ってくる」
「それは危ないですよ!私も」
「ダメだ。危険すぎる。それに椎菜ちゃんをどうするんだ」
「でも!」
「地下には連れて行けないけど、やってもらいたいことはある」
俺は電話番号を書いた紙を結衣ちゃんに渡した。
「これは?」
「知り合いの警察官の電話番号だ」
そう、俺は結衣ちゃんと合流する前に敦が勤めていた交番に寄って田村さんに会った。状況を伝えて本当にやばい時に来てもらいたいとお願いした。快く了承してもらい、電話番号を教えてもらったのだ。
「ここに電話すればいいんですね」
「うん。俺の名前出せば絶対すぐ来てくれる。幸いここは交番から近いからね」
「分かりました。では、達志さんお気をつけて」
「おう!」
俺は魔の巣窟へと足を踏み入れた。階段上から状況を確認したが、ドアの中は見えない。あの中に何人いるのか。そんなことも分からずに乗り込むなんてアホだ。だが、未来ちゃんのあの顔を見て放っておくことだけは出来ない。
「よし…西達志。気合を入れます」
頬を叩いてドアを開けた。




