32.進展と友達
「いらっしゃいませ!コースはお決まりでしょうか」
受付は知らない人だった。受付が井出さんであればどれだけありがたかったか。
「いや、井出晴人さんに会いに」
受付の顔つきが大きく変わった?
「ご要件をお伺いしても?」
「西達志が川崎康太の件で情報共有に来たでお願いします」
「かしこまりました」
内線電話で受付は井出さんへと連絡を入れた。
話はすぐに着いた。
そういう部屋とは真反対の道を歩んで事務所に案内された。受付に案内を受けて中に入ると井出さんが座っていた。
「どうも井出さん」
「まさか達志君がこの店に来るとはね」
「最近会ってなかったですし、情報共有するなら直接の方が早いかと」
「そうだね。んで、何かあったんだよね」
シェリーとの会話を報告した。
敦がどこかのタイミングで矢島組に直接乗り込んだこと。燦々広場のハッシュタグをシェリーが広めてること。
タバコはロシア人が配り歩いていることと、外国人犯罪が増えてること。
短期間とは思えない収穫に井出さんはひたすらに驚いていた。
「幸運の男とはまさに君のことだね」
「運だけはめちゃくちゃいいんです」
「警察の兄ちゃんが矢島組と接触は納得じゃない?」
「まぁそうですね」
郵便をシェリーに任せてるのだから、そこにはあまり疑問は抱かない。
「ハッシュタグを広めてるね…世の大衆に見せて何かをさせたいのか。それとも面白がってるのかどちらだろう。達志君はどう思う」
「面白がるだけで動かないと思います」
「だよね。俺もそう思う。投稿内容を見せたいのかな」
投稿内容を世に見せたいというのは分かったが、なんでだろう。
「実はそれの効果って出てんだよ達志君」
「え?」
「これを見てくれ」
井出さんはパソコンの画面を俺に見せてくれた。そこには例のタバコの写真がハッシュタグと共に添付されていた。
かなり配り歩かれていたのだから、広場の子供たちの中で持っていてもおかしくない。
「達志君これを広場の子供が持ってたものだと思ったでしょ。違うよ。この投稿は一般人」
「え!?」
「一般人がこのハッシュタグで投稿してきたんだ。狭い界隈のハッシュタグから1歩抜け出してきたね」
「シェリーがハッシュタグを広めた理由はこれもあると…」
「だと思う。タバコを広めたいんだよ」
タバコを広める。ロシア人に喧嘩でも売るような行動だ。そんなことして何になる。
いや、シェリーの行動は一貫している。
「奴らの目に留まれというのがシェリーの司令。てことは、このタバコも組織のもの」
「そう仮定していいんじゃないかな」
「組織はロシア人??」
「今のところはそうなるね」
外国人犯罪が増えてると言うのもコレで納得する。ロシア人といっても我々日本人はヨーロッパ人とロシア人の区別なんてつかない。
ロシア人の犯罪も人によっては「ロシア人」と言ったり「北欧の人」「アメリカ人」と判断する。それが原因なのか。
「日本人は外国人を国で区別できないってことですね」
「仮の結論だけどね。お門違いだって有り得る。結論は急ぐものじゃない」
初めて1つの仮説を導き出せた。
それが凄く嬉しかった。
でも、まだ何かが足りていないのだ。シェリーは最初こう言っていた。
「作戦はまだ教えられない。やってもらうことはある」ということ。
俺たちはまだ作戦を教わっていない。なら、シェリーの中でまだ足りていないことがあるということ。この結論が間違っているのか、はたまたシェリーの想定よりも結論にたどり着くのが早かったのかもしれない。
どちらにせよ一旦シェリー待ちだろう。
「シェリーからの連絡を待ちましょう」
「それがいいね。達志君も命狙われるから気をつけてよ?」
「身に染みてます…」
「そりゃ大変だったね」
無理矢理笑顔を作ってその場を後にした。
それから数日後
シェリーがハッシュタグを広めると宣言したが、それは見事に言葉通りとなった。
華舞伎町を訪れた人達が続々とあのタバコを発見しているらしく、燦々広場に写真が続々と載せられることとなった。
その写真に対して広場の子どもたちも反応をする。普段関わることのないこの広場の子どもたちとコミュニケーションが取れるということでこの交流が話題を呼び、ネットに広く知れ渡ることとなってしまった。
その結果、例の海外タバコがかなり認知されるようになった。様々な憶測が飛び交っているなど、かなり謎の呪物として扱われている。このタバコを見つけるために華舞伎町を訪れるミステリー好きな人間まで現れた。
シェリーの拡散宣言は恐るべき効果を発揮した。
井出さんや結衣ちゃんもこのハッシュタグが拡散しまくっていることに驚愕していた。
見る目も増えれば自ずと細かい情報も見つかるものであり、等々タバコを配っている男の写真が上がってきた。
「やっと見つけたよ。ロシア人のタバコお兄さん」
俺は投稿を見ながらそう呟いてしまった。
タバコを配る人物が特定されるとネットではこのロシア人を見つける動きが活発化する。1日に1回はこの人物が投稿されることにまで発展。
そして、等々そのロシア人関連の投稿で彼女が見つかった。
未来ちゃんだ。その写真が投稿されてからすぐに結衣ちゃんから電話があった。
とりあえず広場に呼び出されたので、寄り道をした後に結衣ちゃんを待っている状態だ。
「達志さーーん!」
結衣ちゃんが全速力でこちらに向かってきた。
俺も来てすぐだったので、タイミングはばっちりだった。
「結衣ちゃん焦らずとも今来たばっかだよ」
「それならよかったです!状況だけ簡単に説明します」
合流してすぐに説明を始めるということはそれ程切羽詰まっているということ。俺もそれは見越していた。
「まず、未来ちゃんですがロシア人と一緒にいました」
「それは投稿的にそうだろうね」
「場所なんですが、この華舞伎町に飲食店街があるのはご存知ですか?」
「華舞伎町の入り口近くのところか」
「そうです。そこで発見されました」
未来ちゃんが映っていた投稿を見たが、場所まで特定は俺ではできなかった。そこはこの街に精通している結衣ちゃんだからこそなのだろう。
ただ、それだけの情報を伝えるために俺を呼んだわけではないはず。それなら電話で事足りる話。単純に考えられることとしてはこの場からそのロシア人に凸りに行くのだろう。
ただ、もうその写真が撮られた場所にはロシア人はいないはずだ。
先ほど投稿されたものだとしても1時間も同じ場所にいるわけがない。
「結衣ちゃんは未来ちゃんを助けたいからそのロシア人の元に行こうとしてるんだよね。だから俺を呼んだ」
「そうです」
「でも、そのロシア人ってもうその場所にいないと思うんだけど」
「確かにそうです!でも、急いでいかないといけないのです!」
「ふぇ???」
結衣ちゃんはロシア人の場所を知る何かしらの術がある。
だから、こんなにも急いで行こうとしている。
「投稿者はあの未来ちゃんの友達です」
「え、そうなの!?」
「問題はそこからなんです」
何やらやばそうな雰囲気を感じる。
「未来ちゃんの友達は椎菜ちゃんと言います」
「名前は初めて知ったな」
「あの投稿後椎菜ちゃんから電話が来たんです」
夜回り先生の事務所で話を聞いている時に電話番号を念のため交換しておいたのだろう。
何があってもいいように。
「電話ではなんて?」
「今投稿したロシア人の後を尾行してるので来てくださいって」
「尾行!?今!?そんな危険なことをしてるのか」
「そうなんです。早く合流しないと椎菜ちゃんまでやつらに連行されてしまいます」
「なんでそれを早く言わない!行こう!走りながら続きを聞くよ」
「はい!あっちです」
俺と結衣ちゃんは広場を駆け足で出た。




