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燦々  作者: 狐猫
32/40

31.先輩と侵犯

 ネオンはいつも以上に激しく点灯しているのか、目が吸収する光もいつもより大きい。

 この街に入り浸っているためか、危険な場所だと思わなくなってきた。

 

「ここ桜ビルか」

 

 全ての始まりである場所桜ビル。ここで川崎は逮捕された。

 全てを狂わせた場所にいるというのは凄く居心地が悪い。

 

「あれ、君は確か太田の友達の」

「え?」

 

 目を向けた先には見たことのある人がいた。

 敦の交番の先輩「田村さん」だ。

 

「敦の先輩の・・・」

「あ、あぁそうだ」

 

 お互いに敦のことを話題に出していいか迷っているため、何とも微妙な空間を生んでしまっている。沈黙が続いても嫌だし、敦のことをいつまでも引っ張っているのは敦も望まない。

 

「惜しい奴を亡くしました」

「太田は良い警察官だったよ」

「あいつは正義感が強かったんです。向いてましたよ警察官に」

「それは先輩の私から見てもそうだった。危ない事件に首を突っ込ませてしまったことを後悔しているよ」

 

 田村さんはかなり責任を感じているようだった。

 実の部下が死んだんだ。そう思ってもおかしくはない。

 

「そういえば君はここで何を」

 

 田村さんにそう聞かれてなんと答えればいいかわからなくなった。

 敦の遺言に従って川崎について再度調べているなんて言えない。だからと言って何もしていないというのも不自然でしかない。小さな脳みそをフル回転させて上手い言い分を考えれた。

 

「夜回り先生と言う方のお手伝いをしています」

 

 嘘はついていない。川崎について調べていることを話すということは俺が極道と繋がりがあることをうっかり話かねない。今この場でシェリーや井出さんについて話すことは正しい選択じゃない。

 

「夜回り先生のところでか。いい社会貢献だな」

「ありがとうございます。実は今このタバコのせいでいざこざに巻き込まれてる子が何人かいて。その調査で歩いてたんです」

 

 持っていた海外タバコを田村さんに見せた。

 

「最近よく押収するタバコだな」

「最近よく見るんですか!?」

「そうだ。どうやら売り物ではないらしい。みんな誰かから貰ってるらしいんだ」

 

 やはりこのタバコは売り物ではない。誰かがこの街で色んな人に配っているなら、その配っている人を覚えている人は多いのでないだろうか。

 

「これ誰が配ってるんですか?」

「どうやら外国人らしいんだ」

「外国人!?」

 

 このタバコは日本人が輸入していたり、作っているものではないだと。外国人が配っている?何のために。

 

「そういえばこのタバコにはロシア語が書かれていました。てことはやはりロシア人が配っているんですか?」

 

 田村さんは首を縦に振った。

 

「そうだ。ロシア人に貰ったとみんな答えている」

「ロシア人・・・」

 

 華舞伎町でロシア人なんて珍しいからすぐにわかりそうだが、観光地化したこの街には外国人を見かけることは多々ある。それが観光客なのかタバコを配っている人なのか見分けなんてつかない。

 

「そのタバコが麻薬とかではないからいまいちこちらも本腰が入れにくい。海外タバコを配り歩くなんて何かしら犯罪に繋がっているはずなんだ」

「犯罪に繋がっているなら怖いですね」

「最近は違法な裏整形外科があったりと、意味のわからない犯罪がとても増えてきたからな」

「違法整形外科?」

「韓国人が好き勝手やってるとのことだ。尻尾はつかめていない」

 

 昨今のグローバル化は犯罪にまで及んでいるということか。無許可フィリピンパブの話もニュースで見たことがある。

 田村さんにはこのタバコの出どころを教えてもらえた。それだけでも大々的な進歩。未来ちゃんが関わっているのはロシア人というわけか。

 

「田村さんも大変ですね」

「それが仕事だから文句は言えん。すまない邪魔したな」

「いえいえ。こちらこそお仕事の途中に申し訳ございませんでした」

 

 未来ちゃんの行方を追うのは一筋縄ではいかないという結論になってしまった。ロシア人に着いていったらどこに身を隠すんだ。日本に在住しているロシア人なのか、どこかに事務所を構えている団体みたいなものなのか。

 ただ、この調査でわかってきたこともある。タバコの少年も未来ちゃんも関係しているのはロシア人であるということ。それだけでもかなり条件は絞れて来ている。

 見つけられるのも時間の問題。

 

「よし、ハッシュタグつけて情報長そう」

 

 俺はハッシュタグ燦々広場を付けて得た情報を皆に流した。

 

(みんな!タバコを配っているのはロシア人だ!日本人じゃないから探すの楽だぞ!!)

 

 投稿したらすぐに色んな反応が来た。あいつらのSNS監視頻度は恐ろしいものだ。

 タバコの1件はなんとなく道が見えた。俺はもう1つ田村さんが言っていたことで気になることがある。

「意味のわからない犯罪が増えてきた」という言葉だ。ここには外国人の犯罪が増えてきたということが大方の意味合いのはず。シェリー達率いる矢島組はこの街で活動している極道だろう。なんでそんな外国人の犯罪を放っておいているんだ。

 自分のテリトリーを荒らされているんだ。島荒らしと言っても間違っていないのに、なんでシェリー達は外国人達を取り締まらないんだ。

 取り締まっているんだとしたら犯罪の増えるスピードが早すぎることになる。

 どちらにせよ確認はした方がよさそうだ。

 

「ピリリリ!」

 

 「頑張ってるわね西達志」

 「もしもし。シェリーですよね」

 「当たり前ね」

 

 望んだタイミングでの電話に俺は心の中で自らの幸運を称えた。

 だが、内容は何も幸運ではなかった。

 

 「あなたすぐそこから逃げなさい」

 「え?」

 「あなたを監視しているうちの組の人間はいても、実力行使で守ることはできないの。すぐ近くにいるわけじゃないから早く逃げなさい。華舞伎町からまずは出るのよ。そしたら電話するわ。頑張ってね」

 「ちょっと俺も聞きたいことがっ!!…クソ」

 

 一方的に切られた。

 俺は辺りを見渡した。俺を狙っているような不穏な雰囲気は感じ取れない。だが、1人と目が合う。敵かと思って身構えたが、目で「あっちへ逃げろ」と指示してきたことからシェリーが送ってきた護衛だと気づいた。

 指示された方向へと俺は走り出した。初めて明確に組織から狙われている。目に入る人々の目線全てが可視化されてるような気分だった。

 自分を見つめる視線が無いか逐一確認する。

 

 「田村さんに助けを…あぁ!ダメか!」

 

 心の中で舌打ちをした。助けを求めて何を言えばいい。

 

 「矢島組からとある組織に狙われてるからって言われて、逃げてるんです」

 

 そんなこと言ったら俺の方が疑われてしまう。極道関係者であり、とある犯罪に首を突っ込んでいると解釈されても文句は言えない。

 公的なものに頼ることが実は出来ない。それを今ひしひしと感じとっている。

 

 「クソっ」

 

 出口めがけて足を動かす。特徴的な門を抜けると急に身体がどっと疲れた。いつもの何倍も息が上がっている。

 

 「ピリリリリリ!」

 

 出口を抜けた途端電話がかかってきた。

 

 「よく逃げたわね。いい走りだったわよ」

 「そりゃどうも」

 

 癪に障る言葉しか言えないのかこの女は。

 

 「西達志。あなたの活動が奴らの目にしっかりと写ってきたようよ」

 「嫌な報告ですよ」

 「それもそうね。でも、本来の目的は達成してるの。それだけでも褒められることよ」

 「本来の目的?」

 

 俺は今までの会話を思い返す。

 本来の目的と言えるほどのことは言われていない。川崎について調べろという使命のみ。

 俺が忘れているだけか?

 いや、言われてないだけで何かある。

 

 「当初の目的を伝える前にあなたが私に聞きたかったことにお答えしようかしら」

 

 この女から会話の主導権を奪うことは諦めた方が良さそうだ。必ずあちらが会話の主導権を握ってくる。

 質問には答えてくれる姿勢は見せてくれている。今ならちゃんと答えてくれるのかもしれない。

 

 「ここ最近この街では外国人等の違法店やその他諸々犯罪が増えています。なんで、この場所をテリトリーにしているあなた方はそれを見逃してるんですか」

 

 一瞬の沈黙が流れた。聞いてはいけないタブーだとしたら俺はこの場で殺されるのか?

 

 「はぁ…2人目ねそれを言われるのは」

 「2人目?井出さんですか?」

 

 井出さんもこの疑問を抱いたのだと頭では判断した。だが、違った。

 

 「太田敦よ」

 「敦!?」

 

 敦もこの疑問を抱いた。どのタイミングでだ。

 

 「太田敦はその疑問を我々の本部へ直接言いに来た。極道に喧嘩を売りに来るなんていい度胸よほんと」

 「それで!あなた方は何かしたんですか!」

 「焦るものじゃないわ。太田敦と同じ疑問に辿り着いたご褒美に1ついい報告をしてあげるわ」

 

 会話が絶妙にいなされている。

 最後までは教えてくれない気だ。

 

 「いい報告とは」

 「あのハッシュタグ投稿よ。燦々広場。あれ拡散しておいたわよ。一般人が注目するように」

 「なんで!?」

 「そういうことだから。また何かあったら連絡するわ」

 

 電話を切られた。

 燦々広場を拡散させて意味があるのか?

 燦々広場は経過を観察すれば自ずと結果は見えてくる。

 問題は敦の方。あいつも同じことを考えた。だが、あいつは警察官でありながらシェリー達に直接言いに行っている。つまり、一連の流れの中であいつは矢島組との接点を得ている。どのタイミングか断定はできない。何となく解決が見えてきた。何個ものぼんやりした解決の糸口は集合することで1つの大きな糸となる。

 それを信じるしかない。

 

 「井出さんに報告…直接行くか」

 

 実は一度も井出さんのお店に行ったことがない。毎回電話でのやり取りのみだし、直接会っているのは病室だったので、最近は井出さんをそもそも見てない。

 店の名前は確か「パープル」。場所は調べれば1発で出てくるから、住所なんて知らなくていい。

 この街の中でも更にディープな場所に井出さんの店は鎮座する。

 心して店の前に来てみたものの、何かやましい気持ちが出てきて恥ずかしい。

 

 「ふぅーー」

 

 深呼吸をして扉を開けた。

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