29.裏方と明暗
これで写真投稿されるのを待つのみ。彼ら彼女ら優秀な衛兵があの少年を激写することを願う。結衣ちゃんは解散後も様々な子供たちに声をかけている。俺のところにもある程度子供たちは集まってくる。全員の相手をするだけで時間はかなり潰れることになる。俺は結衣ちゃんが気の済むまで子供たちと遊んで過ごす。
「達志さんごめんなさい。時間かけすぎました」
「ん?全然いいよ。俺の方もみんなと絡んでたから」
文字通り端から端まで声をかけ終わった結衣ちゃんは満足気に終了を告げてきた。
「さてと、じゃあご飯行こうか」
「ご飯ですか?」
「そうだよ。いい店知ってるの。全部奢るから安心して」
「いいんですか!」
「よし、その反応行く気満々だね。行こっか」
「はい!」
いい店というのはもちろんの如くあの世界料理屋「TRIP」のこと。移動中にお店のことを軽く紹介しておいた。疑問点の多そうな顔を見せたが、美味しければ何も文句は言わないとのこと。味は保証出来るから問題ない。今日は何を食べようか。
「達志さん!これ美味いですよ!これも!」
「そりゃよかった」
結衣ちゃんめっちゃ食べる。パエリアとコブサラダとチーズダッカルビ。かなりカロリー高そうだが心配ないのだろうか?華奢な身体のどこにそんな量の食べ物が入っていくのか。メカニズムの気になるところ。
「達志さん。1週間ずっとSNSに張り付いたり広場に出向いてコミュニケーション取ってたんですよね?」
「そうだね」
「康太君のこと何か出てきましたか?」
「川崎の情報ねぇ。特に何もって感じかな」
一応聞きまわることはしたのだが、有効な情報など無いに等しかった。名前は知っているけど特に覚えのない者や、遊んだことはあるけど深い交友は無い者。行動の時間を考えるとあまり濃い情報を得られたとは言い難い。
「それは残念でしたね」
「1週間でどうにかなると思ってないからいいんだよ」
「それに結衣ちゃん。一応川崎の名前はあんまり使わない方がいいよ。危ない組織のお兄さん達に目をつけられちゃうからね」
「はい。わかりました」
「協力はしてもらってるけど、川崎のことに直接足を突っ込むのは俺でいいから」
「了解です」
さて、目の前の美味しい料理でも食べるとしよう。フォーとかハンバーガー等本当に何でも出てくる。楽しみで仕方ない。結衣ちゃんも気に入ってくれたし、しばらくここに結衣ちゃん連れて通いつめよう。いい休憩になる。
「そういえばハッシュタグ決めたやつあるじゃないですか」
「うん」
「達志さんと協力してるもう1人の人にも監視頼んだらいいんじゃないですか?」
「……うおぉ!それだ!確かに!」
「考えついてなかったんですか」
井出さんは裏から支えてくれている。あのメールの通り、裏方みたいな仕事を請け負ってくれるはず。これ以上行動過多はまた倒れる。これがちゃんとしたペア行動とも取れる。お互いがお互いに個人行動するのでは効率が悪い。一方的に投げるだけだけども。
「じゃあ結衣ちゃんもSNS見てね」
「それくらいはいいですけど」
「何かあったら報告でね」
デザートまで食べた俺たちは店を後にした。帰宅して夜は遅かったが、夜の店の店員である井出さんにとっては逆に今が生活時間帯だと思ったので電話をかけた。仕事中ではあったものの電話に出てくれた。裏方の仕事のお願いや井出さんのお店の女性のそっくりさんの話に、ハッシュタグの話。一通り話せた。何ヶ所か横槍を入れたかっただろうが、とりあえず全部話を聞いてくれた。
「なるほどね」
驚きはなかったのだろうか。冷静な態度であった。
「裏方の仕事のお願い諸々分かったよ」
「冷静ですね」
「うちの女の子の話だろ?」
「えぇ…はい」
「見かけたやつがうちにもいた」
「な!?」
やはりあの女性はコピーだった?、
「ただ、そいつも同じことを言ってた。確証は無い」
「確証は無いという人がこれで2人ですね」
「信ぴょう性を高めるには充分だけど、安易に結論を出してはいけない」
「おっしゃる通りかと」
世界には自分のそっくりさんがいてもおかしくない。だけど、事例が事例のためそっくりさんでは済まされない。あの女性はやっぱり川崎同様作られた?
「ただ、奴らの作ったコピーなのだとしたら大胆過ぎるんだよ行動が」
「それもそうですね」
「謎が謎を生みそうだよ。解決の糸口見つからず」
井出さんの方でも苦労しているのが幾分か伺える。
「やはり、コピーだとするとあの組織…ですか」
「それしかないでしょ」
敦は言っていた。やばい組織は悪用するために個人情報を欲しがる。それは名前や住所というものだけでなく、顔の情報も含まれることを。川崎は顔の特徴が無くて、使いやすいから狙われたのだと。
「でも、川崎の時は顔の印象が薄いから悪用しやすいってことじゃないですか。今回は違うのでは?」
「じゃあ達志君に聞こうか」
「なんですか?」
「水商売の女の子の顔って似てると思わない?」
「あ…」
水商売の女性はメイクの問題なのか似てることが多い。見分けは付きにくい。しかも、この街は水商売の女性で溢れている。尚更似てる人が多いから判別なんて出来ない。
「コピーを作られる理由は明白ですね」
「そういうこと。別に不可解でもないからコピーがいても納得はしちゃう。それじゃ俺からも報告出しとくか」
あまり嬉しくなさそうな声だ。
「絶対良くない報告ですよね」
「川崎が応募に行った求人の話だ」
「川崎がどこかの求人に応募したことが発端だったので、その応募先を見つけるって話でしたよね」
「どこ調べても川崎が来た履歴はない」
「は!?」
「てっきり水商売関係かと思ったんだけど、どこにもそんな履歴はなかった」
「それはどういう」
「多分水商売関係じゃないんだよ。川崎が行った求人先は」
俺たちはてっきり川崎はそういうお店に応募したのだと思ってた。だが、そうではない。つまり、おとなの店とは呼べない普通の店に応募したということ?普通の店で危ない店なんてあるのか?
「ライバル店ふくめてほぼ全部の店調べたのに1個も情報出てきやしない。治安の悪いところにいる子供は危ない店に行くだろうという先入観がよくなかった…クソ」
「井出さんそんなに調べてもらったのに、なんか申し訳ないです」
井出さんはかなりイラついている。
「いや、すまない。ついイラついてしまった。ハッシュタグのことは了解したよ。調べることなくなったから見ておくよ」
「はい。お願いします。では」
調べても一向に進まない。川崎を深く知るものはあまりいないし、情報もビックリするくらい集まらない。シェリーが川崎について調べろと言ったことには何か裏がある。情報が集まらないことも彼女は知っているのではないだろうか。ただ1人の人物を調べるだけでこんなにも苦戦するとは思わなかった。多少こちらもストレスが溜まってくる。
「ん?電話?」
着信があった。非通知からの電話。出ることに一瞬躊躇ったが、シェリーからの電話だと察したため仕方なく出た。
「はい西です」
いい話な訳ないから気持ちも乗らない。
「随分と気持ちが弱気ね西達志」
「えぇ…まぁ」
名乗らなくても俺の事をフルネームで呼ぶ高圧的な女性なんて1人しかいない。
「いい報告よ」
「えぇ!?」
井出さんとの会話で1つもいいことが無かったため、一気に気持ちが高ぶった。
「あなたよくやってるわね。無事組織に目をつけられてるっぽいわよ」
「えぇぇぇ〜いやぁぁ嬉しくはないな」
「あなたも無事に目の敵よ。目標達成に大いに近づいたわ。これからも目立ちなさい」
「そう言うと思いました」
夜回り先生に出会い、広場の子供たちに会いまくって小さな問題解決してただけなのにどこで奴らの目に引っかかったのだ。あの子供たちと考えることが必然かな。目をつけられたということはつまり、殺される可能性も高まったということ。何も嬉しくない。
「んで、これからの具体的な指示とかは…何かありますでしょうか」
「無いわ。今まで通りやりなさい」
「左様でございますか」
「健闘を祈るわ西達志」
何とも短い電話だった。そもそもどうやって俺が目をつけられた事を知ったのだ。見えてないボディガードが通報したのだろうか。監視下にあると言うのはイマイチ心地が良いとは思えない。井出さんは求人先を見つけられず、落胆していた。一方シェリーは俺が組織の目に少し捕らえられたことを喜んでいる。明暗別れる電話の内容だった。
井出さんの店の女性はコピーの可能性が高い。川崎の求人応募先は大人の店では無い。俺は何かが原因で組織に目をつけられた。
こう思うと収穫は大きい。小さい情報でも積もれば大きい。俺の知らないところで、目まぐるしく事態が進んできたのかもしれない。好転なのかは神のみぞ知るものではあるが、停滞よりはマシだ。俺は寝っ転がって天井を見上げた。いつもと何も変わらない無気質な天井だけは俺を安心させる。




