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燦々  作者: 狐猫
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3.被害者や犯罪集団

 翌日

 

 あの後は特に何も無く、良く起こる厄介事を対処したり寝たりで、いつも通りの生活を送っていたが、署から少年の取り調べが終わったとのことで私と田村さんは報告書類を受け取り、それを見ていた。

 

「やはり上のことは何も知らないと言っているのか。日雇いだ」

「分かりきっていましたが、いざ何も情報が出ないときついですね」

 

 彼の素性も記載されていた。身分証明書が無いので自称とはなっていたが、彼の名前は川崎康太。20歳無職。意外と成人を迎えていた年だったのか。

 近所でのひとり暮らしで両親は他界していると。彼もまた両親がいない子なのか。井出の話を思い返した。

 

(俺みたいなやつがまともに働けるほどこの世の中甘くない)

 

 余程川崎も金に困ったのだろう。それでこの街に来てしまい初めて出会った仕事があれか。悲惨だ。

 田村さんが更に書いてあることに目を通すとある所で目が止まった。

 

「太田、この名前見たことないか」

 

 それは彼と一緒にいたとされる男と女の名前について、そしてどういう人物であったか。かなり重要な内容なのだが、書いてあることは怖いと感じてしまった。

 

 男 武田 信宏

 女 須藤 清美

 

 両方顔は覚えておらず思い出せないとのこと

 体格は一般的な身長体重であり、それといった特徴は無し

 

「名前が…」

「そうだ、もちろん本名ではないのだが、この名前は現在収監中の死刑囚の名前だ」

「なぜ死刑囚の名前を使ったのでしょう。適当な名前でもいいのに」

「分からない。俺らに喧嘩でも売っているのか」

 

 彼はとんでもない人物達と関わってしまったのかもしれない。そして、もう1つ。彼もまた連れの顔を覚えていないということ。井出が覚えていないのはまだ理解できる。だが、彼が覚えていないのは明らかに不可解なことなのだ。全く覚えていないことなんてあるのだろうか。

 

「田村さん、彼も覚えていないんですね」

「やつらはプロの犯罪者だ。聞いたことないか?他国のスパイがこの国で生きていくために彼氏や彼女を作る。そして、生活を共にして目的を達成したら別れて帰国するのだが、その付き合っている最中自然と写真を拒絶し、物理的証拠を残さない。そして、怖いのは付き合っていた人達が顔を思い出せないという現象」

 

 意味がわからない話だが、実際にこの手の事件は存在する。

 

「聞いたことあります。心理学や催眠のプロで、一流の工作員達ですね」

「そうだ、そして多分今回のやつらはスパイではなさそうだが列記とした犯罪のプロ集団」

「私達はとんでもない者に出くわしてしまったのかもしれないですね」

「しょうがない。これが仕事だ」

 

 危なく到着が早くて彼らを目撃していたら私達は消されていたのかもしれない。それを思うと背筋が凍る。警察官として言ってはいけない事だが、この事件に深く関わらなくて助かっているのではないだろうか。

 川崎は拘留されているがこのまま起訴されるだろう。20歳という少年法が適応されなくなった年齢になって即逮捕されて起訴されることになる。これもやつらの計算なのだろうか。考えれば考えるほど分からなくなる。私達が見ているのはあちらの世界との境界線となる人物なのだから。

 

「太田、考えすぎるなよ。俺らは1つの事件にずっと取り合っている時間は無い。市民の平和を守るのだ。雑念は捨てろ」

「はい、先輩」

 

 そうは言ったものの考えてしまうものだ。悪の大きさを。

 

 田村さんが消えたあともう少し詳しく彼の調査書を見てみることにした。まずはなぜ麻薬を持っていたのかについてだが、案外簡単に話したようで、何かの運搬を手伝って欲しいと言われて着いて行ったら麻薬だったとのこと。着いていく段階では何の仕事かは知らず、仕事後に聞いてみたら麻薬だったのか。

 

 にしてもよくそんな危ない仕事を何も知らない青年にやらせたな。現に逮捕されて取引があったことを知らされているわけだ。一流のプロ犯罪者がそんなに間抜けな事をするだろうか。甚だ不思議でしょうがない。続きにこう書かれている。

 

(麻薬をポケットに入れた記憶はない)

 

 記憶に無いのにポケットに…怪しい。ますます訳が分からない。小さなミスなら人間なのだからしょうがないが、プロがここまで不可解な疑問を残すようなヘマをするだろうか。

 

 もはや、全て計算されていてもおかしくないとさえ思うのは私だけだろうか。

 

 次に書いてあったのはなぜあの仕事を引き受けたのか。それはこう記載されていた。

 

(仕事を探していたらたまたま話を道端で持ちかけられて給料が良かったから着いて行った。そこで内容を伝えられてお金がないから運搬をした。結果的に麻薬だった)

 

 どこかで仕事を探している事を探られたのだろう。大人でありながらも完全に大人とは言えない年齢であるために、危機察知能力が薄い判断されたのだろう。それで彼が使われてしまったわけか。

 あの街のコミュニティは凄まじい。1度下手なことを言えば瞬く間にそのコミュニティに知れ渡ってしまうので、多分どこかの店に言った彼が詳しく素性を話してしまいそれが筒抜けしたのか。

 

「不運だな」

 

 てか、なんで日雇いなんだ。余程自分達の顔を覚えさせない技術に自信があるのだろうか。

 ただでさえこの街には常識が通用しにくいのに更に訳が分からないのだからお手上げだ。

 

 これでとりあえずはこの事件の私達の出番は終了。消化不良の多いところはあるが、彼は裁判にかけられて恐らく有罪になるだろう。それで本当にこの事件は終わる。そんなことを考えていると田村さんの怒声が聞こえた。

 

「太田!お前あの資料どこにやった!」

「あ、すみません。私の机の中です」

「提出しろって言っただろ」

「ごめんなさい!すぐに持ってきます」

 

 田村さんは本当に怖い。この街で長く勤めているのだ。是が非でも怖くなってしまうのか。こんなに事件があると忙しいのに普通の事務作業がある。なぜだ。さすがに業務過多だろう。

 俺は急いで自分の机に行き書類を探し出した。そういう時に限って中々見つからない。

 

「やばいやばい」

「やばいってなんだ!」

 

 聞かれていた。俺は物凄く焦って机の中を探っていたが、別の女先輩が驚くことを教えてくれた。

 

「太田君。机の上にあるよ」

 

 視野が狭かった。普通に机の上を見ると書類があった。

 

「白井先輩ありがとうございます」

「早く持っていきな。怖いから」

 

 激怒されることは回避。安心して提出できる。

 

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