27.打開と再整理
着いた途端結衣ちゃんはテキパキと動き始めた。
「ゆうきくん悪いことしてない?」
「みきちゃん何持ってるの!お姉さんに渡してそれ」
「そこのいつもの2人!そんなとこで寝ないの!」
「さやちゃん昨日はおうち帰れた?」
目に入る人に片っ端から声をかけている。
この目の回るような行動をする結衣ちゃんに俺は着いていくことで精一杯だった。全員の名前知ってるんじゃないのかこれ。
これが彼女の仕事か。
後ろに着いて回る俺を不思議な目で見るこたちがなんと多いこと。その不思議な目は自然なものだ。結衣ちゃんよりも歳が上の男が必死に金魚の糞のように着いて回るのだから。何を話すわけでもなくただ必死な成人男性。みっともねえ。てか、速い。
「結衣ちゃん体力すごぉい」
「え、達志さんが体力無いんですよそれ」
なんと辛辣な。
「はいそこ!隠すな!お姉さん見てたぞ!」
結衣ちゃんは止まらない。
俺は追うのを諦めた。
「速っ…ハァ…ハァ…」
膝に手を着いて肩で息を吸うと少年少女が話しかけてきた。
「お兄さん何者なの?」
「俺?」
「それ以外いないでしょ」
「そうか…俺何者ってことになるんだ??」
「は?」
脳に酸素が回っていないから解答が出せないのか?いや、そんな脳は死んでない。結衣ちゃんに着いてきた年上の男。そりゃ何者か疑うわ。
「いやぁぁ夜回り先生にそこら辺決めてもらえばよかったぁぁ」
俺は独り言で嘆いた。そこに結衣ちゃんがナイスフォローをしてくれた。
「すぐ人に絡まないの。この人は西達志さん。私の助手みたいなものなの。先生も了承済みだから怪しくないわ」
「へ??」
俺は色々と耳を疑ったが直ぐに事態を飲み込んだ。
「結衣ちゃんのお手伝いしてます。西達志です。よろしくお願いいたします!」
機転が聞いた気がする。疑いの眼差しから警戒の解かれた優しい眼差しへと変わった。
「結衣ちゃんより歳上なのにお手伝いなのダサっ!!!」
「お手伝いだって〜」
「先生何考えてんだろ〜」
言いたい放題言われてる。まぁいいや。
「こら!茶化さないの。達志さんもみんなの話聞いてあげて。今日はそれで帰りましょう」
「あ、うん」
言われた通り色んな子供たちの話を聞いた。正確に言えば話しかけられまくった。それ1つ1つに笑いながら返していく。そんなことしてたら子供たちに周りを囲まれる事態に陥った。
質問攻めは人海戦術の名の通り大量のデータとなって頭に流れ込む。キャパオーバーを迎えそうになる。それでも諦めずに脳の処理を行った。
結果、凄い距離感が近くなった。
「達志さんそろそろ帰りますよ」
「了解〜じゃあな!みんな!」
「バイバイ!達志!」
広場を後にした。
子供達と1日で打ち解けたことを結衣ちゃんは絶賛してくれた。普通有り得ないらしい。俺の人としてのキャラが影響してるのだろうか。馴れ馴れしいとよく敦から言われた。
それが俺の強みなのだから変える気はないけどもね。
「達志さん。あの子達と仲良くなるコツ…もう仲良いですけど…もっと仲良くなるコツです」
「ほぉ?」
果たして何を言われるのだろうか。
「SNSのチェックです」
「なるほどね」
言われると俺は納得した。ああいう子達はSNSの更新が頻繁であることが多い。だからこそそれを追って絡むことで打ち解けられるのだろう。
「了解。俺なりに頑張るよ」
「お願いいたします!あなたならすぐに仲良くなりますよ。一応連絡先お渡ししますね」
「うい〜。ありがとう〜」
結衣ちゃんと別れ、ネオンの中を掻い潜って自宅へと向かった。
途中何故かあるお姉さんが目に入った。どこかで見たことがあるような女性。それが誰なのかは思い出せない。ただ、確実にどこかで見た。思い出せた方がいいのか思い出せない方がいいのか。俺にはその運命は決められない。
思い出せるまで俺の命があれば御の字。
「今日も1日頑張ったぞ俺」
体をぐーんと伸ばして自分を労った。そろそろ事態が動く気がする。こういう時は行動したが勝ち。明日からもできる限り行動する。俺は帰宅した。
こう調査をしているがそれは傍らにやっているだけであり、本業は残念ながらただの社会人だ。平日はどうにも動けないのが今までだったが、目的が簡単であれば行動の余地はある。会社帰りにあの広場に寄ることとSNSをずっとチェックすること。この2つを日課としてやっていけばいいのだ。
幸いにも俺は既に気に入られている。このままいけば確実にあの世界に溶け込めるし真相に近づける。俺はその精神を持って日課を消費した。
最初こそ嫌がられていた気がするけども、毎日通うしSNSでもコミュニケーションを取れば自ずと心の扉は開かれる。
基本的に彼ら彼女らの活動時間は夜である。昼は社会人として活動して空き時間はSNSのチェック。夜は広場に訪れる活動をすれば体力と睡眠時間を尋常じゃない程削ることになる。金曜日にもなれば会社での生活にも支障が出始めた。座ってられない程の眠気に襲われたのだ。眠気だけであればまだよかった。午後になると急に貧血気味になり、立ち上がった際立ち眩みが襲いその場に倒れた。
「大丈夫か西」
「はい。すみません。午後はお休みもらいます」
「いいんだいいんだ。ゆっくり休め」
「お先失礼します」
どんどんクマが深くなるこの週は周りから凄い心配された。ただの不眠ってことで通していたが、流石に倒れたことで上司も見逃せなくなったらしい。強制的に帰らされた。
「眠っ・・・」
こんなんでは碌に活動ができない。
夜に再び広場へ行くためには体力を回復せざるを得ない。無我夢中で今週色んな子達とコミュニケーションを取ったため、それをまとめることも重要か。さすれば見えてくるものもある。
近くのネットカフェを調べてそこに急行。個室に入り一旦気絶したように寝に入った。
「ウッ・・・」
嫌な夢を見た気がする。何の夢かは思い出せない。
「ウガッ!」
言葉にならない言葉を発して体を伸ばした。時刻を見るとすっかり夜中になっているではないか。
「やべっ!寝すぎた」
焦りは強制的に眠気を覚ます。だが、休んだ脳みそは冷静に現在の状況を分析し始めた。
今から広場に行くよりも今週1週間をまとめる方が適切なのだと。
「事務作業の日・・・だ。よし、シャワーだ」
体力を回復してシャワーを浴びることで体の状態をリセットした。
パソコンを起動して現在の状況を細かくまとめた。
ここ1週間で得られた情報は数多ある。何はともあれあの子達はSNSが大好きだった。現実で会っても深く教えてくれないことでもSNSであれば何故か教えてくれる。そして、写真も大好きであった。投稿に写真が付いていることが多い。これは何かに活かせそうだとは思っている。
「おかげで人の判断しやすいんだけどね」
写真が投稿されているから広場でその人を見つけやすいため、助かっている部分のあるのは事実。少なからず写真投稿の多さはこの1週間俺にとって役立っていた。
他にはそれぞれの子どもたちの境遇だったり心境など、個人的な話は多かった。共通して言えるのはメンタルバランスが不安定である子が沢山いて、闇が深かったということか。話に深入りしすぎるとこちらまでもメンタルに不調をきたしてしまう。
「小さい事件によく巻き込まれてたっけか」
彼らがいる場所は所詮治安のよろしくない地域。そんな場所に子どもがいれば犯罪に巻き込まれるのは当然とも言うべきか。
小さな事件には巻き込まれるがそこまで大きな事件に引っかかっていないのはなぜだろうか。そこはいかんせん不思議ではあるが、俺の知らないだけで巻き込まれているのかもしれない。
そんなことを考えながらSNSでいいねを押しまくる。
このSNS活動のためにわざわざ登録名を「達志」にしている。本名でSNSやりたくないけど、これが一番覚えてもらえて丁度いい。
SNSを漁っているメールの着信で携帯が揺れた。関節視野で誰からのメールなのか確認したら井出さんだった。これは凄い重要な内容かもしれないから無視できないし、気になって仕方がない。
「件名は一連のまとめか」
携帯を取ってすぐにメールを開いた。
どうやら井出さんなりに事件をまとめてくれたらしい。こやって文字にしてくれると整理しやすい。
ある程度は知っていることだった。井出さんと川崎が小競り合いを起こしたことが一連の事件の最初であること。川崎が麻薬を所持していたことで逮捕に至り、連れの人間達は川崎が警察に捕まるように仕向けてそのまま行方をくらました。
川崎は身分証明書を全て取られて、自分のコピーを作られる羽目に。そのコピーを最初に目撃したのは、井出さんの店で敦含めた警察官が麻薬の密売人を逮捕した時。恐らくここから事件は単なる事件じゃなくなったんだと俺は思っている。
川崎のコピーを目撃したことで敦は危ない方向に突っ走っていってしまったのだ。お店での事件後、川崎の行方を追っていた敦は川崎の居場所を井出さんから教えてもらい、そのまま射殺。組織の逆鱗に触れた敦はその後何者かに殺された。
井出さん側の情報はこんな感じか。そこに俺との調査で夜回り先生が間に入ってくるくらい。
「新しい情報は特になしか」
敦から聞いていた話と特にズレはない。ズレがあっても困るけど。添付写真があったので、開いてみた。
「川崎の写真と井出さんのお店で逮捕された女性・・・あれ??」
俺は固まってしまった。川崎の写真を見てじゃない。
お店で逮捕された女性のほうだ。
前回広場に結衣ちゃんと行って解散した時に見た綺麗な女性にそっくりだった。この女性の写真は確かに一度見せてもらったことはあるが、その時は一瞬だったので印象に残らなかった。今もう一度見ると前回広場で見た女性と酷似していた。
あの時周りが暗かったので、しっかりと顔は見れていない。ただのそっくりさんだったという話で済めばよいけど、川崎の件がある。あの女性はこの井出さんのお店の女性のコピーなのではないだろうか。確実に言い切れる自信がないため、まだ井出さんには言わないでおく。変に不確かな情報を与えて惑わせても仕方がない。
「事件に関わって逮捕された人たちが軒並みコピーされてる??」
考えすぎかもしれない。でも、脳からその考えが途切れることはなかった。
紛らわすために再びSNSへと身を潜めた。




