26.共同調査とデリカシー
向かっている途中色々と考えてしまった。
考えたところでどうにもならないことはわかっている。このまま俺は夜回り先生達さえも巻き込んでしまうということに罪悪感すら覚える。できる限り迷惑をかけずに自分でどうにかしたいという気持ちが大きい。結衣ちゃんなんてまだ未成年。危ない橋を渡らせるには些か若すぎる。事件に巻き込んでしまった時、俺は心を保てているだろうか。保てていたらそれはもう人の心を捨てた瞬間かもしれない。
「余計なことは考えない考えない」
頬を両手で叩いて気持ちを改めた。
「インターホン…これか?」
住所通り来てみたら予想通りごく一般的なちょっとボロいアパートだった。
パッと見では事務所だということを認識出来ない。特に表札とかも出てるようには見えないため、本当にここであっているのかどうかさえ怪しい。とりあえず押してみる。
「ピンポーーン」
「はーい」
この声は多分結衣ちゃんだ。
目の前のドアがゆっくり開いた。
「来ましたね。思ったよりも早かったです」
「呼ばれたからね」
「では、こちらに」
とりあえず俺はこの部屋に入ることで何かこの先の展開に拍車がかかると感じている。
そう思いながらドアを潜る。
中はやはりアパートらしさ感じさせる部屋だった。ダイニングテーブルがあったりキッキンがあったりなど、事務所と呼ぶより家と呼ぶ方が見た目は圧倒的に近い。
奥の部屋の作業机に夜回り先生はいた。
「いいから今すぐ捨てるんだ」
何やら電話で誰かと話をしているようだった。
「そうだ。流したな?」
「よし、それでいいんだ。次馬鹿なことやったら怒るからな」
「笑ってんじゃねえよ〜。ただ、よく言ってきたな偉いぞ」
「じゃあまたな」
夜回り先生は電話を終えて俺に目線を移した。
「おっと、これは失礼しました。いやぁ〜ちょうど電話がかかってきましてね」
「いえ、こちらこそ早く来すぎたので申し訳ないです」
「電話が多くていつかかってくるか分からないのです」
「そんなに??」
「そりゃもう本当に多いですよ」
夜回り先生は饒舌に語ってくれた。
どうやらここはあの広場に集まる子供たちの心の拠り所らしい。
犯罪に巻き込みそうになったり、家庭環境が怖くて怯えている子供、危ない橋を渡りそうになった子供などが助けを求めるために電話をしてくるらしい。先程の電話は注射器を受け取ったけど捨てるための電話。危ない薬に関わりそうだったところを自ら夜回り先生に相談してきた子供だった。
そういう電話に夜回り先生は自ら回答していく。電話だけでなく実際にこの場に来る者もいる。そういった時でも寝床を提供して子供を支える。
この街の子供たちにはいないといけない存在なのだと結論づけさせられる。
「失礼しました。今日お呼びした理由ですね」
「何か情報でも?」
夜回り先生の目は急に真剣になった。
まるで怒っているかのように。
「関係がない…という可能性もあります」
「大丈夫です。お聞かせください」
「最近この街の子供たちが犯罪に巻き込まれる頻度が高くなってます」
「はぁ」
「手がかりになるかもしれません」
「はい?」
「情報になるかもしれないんですから、こちらもお仕事も手伝ってくださいね。さて、結衣お前も一緒にな」
1人でこの話を進めないなら非常に助かる。知識も人望もなき男が混沌とした街の浄化など不可能だ。安心する傍ら悲鳴に近き声が響いた。
「私!!?!?」
可哀想に。この子は何も聞かされてないようだった。夜回り先生も人が悪い。こんな重要な仕事を本人に何も言わずに任命するのだから。
今回を機に俺が嫌われないといいんだけども。女の子の扱いはある程度慣れてるが、果たしてこの子にも適用するか。幸先は不安。お先は霞んでいる。
「仕方ないだろう。お前がいないと警戒されてしまう」
「いや、だとしても先生!先に言ってくださいよ!」
「言ってなかったか…すまないね」
「んーーーー!!」
夜回り先生の申し訳無さそうな顔が結衣ちゃんの怒りの矛先を乱反射させる。どう怒りを表していいか分からない様子。
「分かりました。やりますよ」
無茶振りを飲んだ。
「よし、これで解決ですね。達志さん!是非よろしくお願いいたします。多分康太君に繋がる何かは見つかりますよ!」
「はい…頑張らさせていただきます」
行先さえ合ってるのか分からない特急列車に結衣ちゃんと乗車したような気分だ。
俺はとりあえず結衣ちゃんと事務所から出た。
怒りなのか呆れなのか複雑で読み取りにくい表情をしている。
「結衣ちゃん大変だね」
「先生本当に人は良いんですけど、人使い荒い時あるんですよね」
「人の良さが醸し出されてるのは見てわかるかな」
「えぇ…あの、達志さん。最初に言っておきます」
複雑な表情が一転。真剣な顔に豹変した。
「なんだい?」
「あの広場の子供達を見下すような行為な絶対しないでください」
結衣ちゃんから発せられたその言葉は重かった。本気で人にお願いをする時のトーンである。その言葉で大体の意味は理解出来た。
「約束する。絶対しない」
川崎の調査中に敦から聞いた話だからだ。
この広場にいる子供たちは望んで来ているという訳ではない。来ざるを得ない人達が集まってきているのだと。逃げるしかなかった子供たちとも言っていた。
「結衣ちゃん安心して。亡くなった友達に諸々聞いてるから」
「そうですか。それなら良かったです。達志さん行きましょう」
「そうだね」
他愛もない話をしながらこの場を繋いだ。
夜回り先生が認めてくれたこともあるのだろう。ある程度自らの話をしてくれた。元々結衣ちゃんもあの広場にいた少女であること。内気な少女だったこともあり、あの広場でも孤独を味わっていたが、先生が手を差し伸べてくれたらしい。そのままあの先生のところでお手伝いをしながら生活をしている。
自分が更生してひとり立ち出来たからこそ他の人も助けたいと。立派な子だ。というより、最初俺はこの子を学生だと思い声をかけたのだが本当はいくつなのだ。
「デリカシー無い質問していい?」
「分かってるならやめてください」
「最初学生だと思って声かけたんだけど本当はいくつなの」
「話聞かない感じの人なんですかあなたは」
「気になって」
「はぁ…19です」
「もっと若いかと思った」
「そりゃどうも」
童顔なだけで年齢自体はもう成人を迎えるくらいではあるのか。年齢を聞いた事で多少怒ってはいる気がする。あとで何かしらご飯奢ってあげて機嫌を建て直してもらおう。折角だからあの世界料理にでもするか。
「そういえば大事なこと聞いてなかった」
「なんですか?」
「広場の子達って川崎のこと知ってる可能性って高いの?」
結衣ちゃんは少し考えた。
「多分知ってる人はいると思います。ですけども、広場を牛耳る立場側ではなかったので有名じゃないはずです」
「何そのカースト制度!」
「広場には序列があります。上に行けば行くほどあの広場では出会えませんし、犯罪に手を染めていることが多いです」
どこのコミュニティにも上下関係は存在するが、ここの上下関係は生半可はものでは無さそうだ。
「その序列上位に会えれば色々聞けそうだね。結衣ちゃん会ったことは?」
「無いです」
「えぇ…希望薄いのかよ…」
「会ってたら更生させるように動きますもん」
「ですよねぇ」
簡単にはいきそうにもない。
敦なら何か知っていたのだろうか。
そんなこんなで肩を落としながら広場へと到着した。




