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燦々  作者: 狐猫
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25.黒と正義

 数日後井出さんは退院した。

 退院に際して俺は井出に呼ばれたので病室へと来ている。


「井出さん治り早かったですね」

「生命力だけは人より図太いからね」

「これからどうするんですか」

「それなんだよね」

「え?」

「シェリーから電話来てさ。とりあえず普通通り店で働けって」

「それだけ!?」


 てっきり井出さんも調査をするためにあちこち出歩くのだと勝手に決定づけていた。

 ただ、話を聞くとどうやら違うようだ。

 井出さんは川崎の逮捕前の動向を働きながら調査するとのこと。川崎はどこかの求人に応募したことから組織に目をつけられた。その求人先がわかれば組織のしっぽの一端を見つけ出すことが出来るという算段なのだろう。これは俺よりも華舞伎町で働く井出さんの方が適任であることはあきらかである。


「この街で求人出してる危ないところなんて大方想像つくんだよ。ウチみたいなね」

「なるほど」

「他の店舗の情報なんて簡単に手に入らないけどそこはどうにかするしかないねぇ」


 川崎の私生活部分を調査するのが俺だとしたら、社会的な部分を調査するのが井出さんという事なのだろう。ここまで大掛かりに動いてくれば組織の目につくのも時間の問題だろう。

 どんどん本格的化していく調査とは裏腹に対して、情報はあまり増えていない。夜回り先生に出会えたことが奇跡であっただけで、他には何もめぼしい収穫が無い。


「ちなみに俺の方はあんまり」

「達志君は難しいことしてるからね。かなり無謀だから収穫ない事が普通だと思っておきな」

「そう言っていただけて良かったです」

「夜回り先生に出会えたけどその後はどうよ」

「特になにもなく」


 同じ病院にいるのだから顔を出せばよかったのだが、いまいちまだ親しみがないので気軽に病室へと行けない。行ったところで何か話を深掘りしたりすることも無く、ただひたすらに虚無の時間が続くことが容易に想像される。スタッフの結衣とは話が出来なくもない。


「うわ!シェリーから電話だよ。嫌だねぇ」


 井出さんは嫌々通話を開始した。


「井出です。え、あ、はい。スピーカーで」


 声を聞いてもあまり嬉しい相手では無い。


「西達志久しぶりね」

「ど、どうも」

「一応ちゃんとは動いているようね」

「把握はしてるんですね」

「もちろんよ」


 一体どこから見られていたのかは甚だ不可解だが、彼女達の庭でもある華舞伎町では何でもお見通しなのだろう。下手な行動は禁物だと自分に言い聞かせる。

 ここまで俺の行動を把握できるなら組織もすぐに見つけられてもおかしくないのではないか。疑問には思うが、下手に意見して問い詰められてもめんどくさい。黙っておく。


「シェリーよ。なんで電話してきたんだい」

「あら、井出晴人。良かったわね退院。おめでとう」

「そりゃどうも」

「前にも言ったけどあなたはとりあえず働きながら動きなさい」

「そこは変わらないのね」

「もちろんよ。あなたはこの街のことを裏からしてる人間よ。絶好のポジションじゃない」

「なるほどね」


 これで大体井出さんと俺のやることが明確化された。俺はこの街を知らない分足を使って情報を集める。井出さんは裏方として情報を集める。街に詳しいという1種アドバンテージがあるのだから最大限活かさないともったいない。シェリーの言い分は同意するに値した。

 ただ、何も知らない俺はこの情報収集において蠢く蟻と同義。微力なのだ。


「それで…俺は」

「西達志。あなたはもっと華舞伎町で目立ちなさい。これじゃただのNPCよ」

「とは言っても何もすることが」

「引っ掻き回しなさい。この街の正義のヒーローにでもなってね」

「はぁ…」


 シェリーは先見の明を持っている。確証無き仮説だが、そう思う不思議なオーラがある。

 言われれば従うしかない。


「ヒーローが正義なのか悪役なのかは分からないですね」

「この街に潔白な正義のヒーローなんていないわ。どんな人でもね」

「重いですね言葉が」

「私たちは真っ黒だからよ」


 極道を真っ黒だと言えばそれまでだが、単に真っ黒でも無いのでは無いだろうか。そう思ってる時点で俺もこの街に染まってきたのかもしれない。いい兆候だろう。


「わかりました。では、引っ掻き回します。俺は運がいいんです。多分目立つような何かを起こします」

「頼もしいわね」

「夜回り先生頼みではありますが、あそこの子供たちと何かやれそうだと思ってます」

「あそこの子供たちを巻き込めたなら…私はあなたを評価できるわ」


 シェリーがここまで言うのだ。容易でないことが伺える。この病院には偶然にも夜回り先生が入院している。起こす行動はもう既に決まったようなものだ。

 他愛もない話をするには雰囲気が軽くない。シェリーと親しくなって分かち合える日は来るのだろうか。そんな日が来たとしたら俺は極道に入門でもしていると考えられる。

 俺は2人に簡単な会釈をして部屋を出た。部屋を出たと言ってもまた同じような部屋に行くだけなのだ。特に変わらない廊下を歩いてエレベーターに乗り、目的の階で降りて特に変わらない廊下を歩く。

 目的の部屋にたどり着いたところで携帯が鳴った。最近登録をした番号からだった。


「はい。西です」

「もしもし結衣です」

「え、あれ!?結衣ちゃん!?」

「先生はお忙しいので、私からお電話しました」


 てっきり夜回り先生自ら電話がかかってきたと思っていたのだが、彼女もスタッフである。そりゃかかってきても不自然ではない。


「で、どうしたの?」

「先生が退院をしまして」

「あ、そうなの?」

「先生としても川崎康太君を放っておけないからってことで、あなたとお話したいそうです」

「それは嬉しいけど」

「事務所の住所お送りしますので来ていただけませんか」

「え、あ、はい」


 完全に会話のペースを掴まれている。

 行くしかないけども。


「分かった。いつ行けばいい?」

「今からでも大丈夫です」

「じゃあ今から行くよ」


 善は急げと言う。こちらからコンタクトを取ろうとしたところに、あちらからの誘いだ。少しでも早く会った方がいいに決まっている。

 俺は急いで病院から出た。

 そのタイミングでSMSに住所が送られてきた。場所はもちろん華舞伎町。ただ、住所見た感じ明らかにアパートなのはなんでだろうか。事務所というより部屋を借りて事務所代わりにしてるのかもしれない。法人じゃないからこれくらい当たり前か。

 急ぎ足で事務所へと向かった。

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