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燦々  作者: 狐猫
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24.未収穫と美味

「どうぞ〜」


 俺は中にいる患者の声を聞いてから入室した。


「あれ!?達志くん!?」

「夜回り先生に会った足でそのまま来ました」

「夜回り先生に会えたのか。どこで?」

「下の階で」


 井出さんは目を見開いてこちらを見ている。2度見をした後眉にシワを寄せながら状況を理解したようだ。


「灯台もと暗しかよ」

「夜回り先生探したらここに行き着きました」

「シェリーも知ってたなこれは」

「間違いないでしょう」


 シェリーの掌内で踊らされてた事が分かると急にげんなりする。

 一応来た意味だけは果たす。

 夜回り先生との会話内容を共有した。


「情報待ちね」

「そうです」

「何か情報来ると思う?」

「望みは薄いかと」

「夜回り先生だけならさておき、スタッフの女の子いただろ」

「結衣って子ですね」

「あの子が何かしら持ってくるかもしれないよ」


 現時点ではスタッフであること以外何も知らないあの女の子。夜回り先生のスタッフにどういう経緯でなったのかも不明。元々あそこに出入りする人間だったのなら、情報筋を持っているかもしれない。


「とりあえず待ちだね〜」

「はい」

「シェリーもこのこと分かってるだろうし一旦休憩だよ」

「わかりました。じゃあ帰ります」

「おう。じゃあな」


 その後また俺は放っておかれて1週間を迎えた。何もしなかったらまたシェリーに口を挟まれるので、行動することにした。とはいえ、行く宛のない俺は再びあの広場へと向かった。


「話しかけるのは何か嫌だな」


 独り言を吐露したがこれは本音だ。気が重い事ではあるがやらねばならないものなのだ。俺は適当にそこら辺にいる人に声をかけて川崎のことについて聞いて回った。

 結果は充分とは言えなかった。知ってても話をしたことがない者やそもそも名前さえ知らない人。前回結衣という子に1発で出会えたのは半ば奇跡であると結論づけられる。


「あぁぁ収穫がねぇなぁ」


 一通り声をかけ終えた俺は腹を空かせながら華舞伎町を練り歩く。夜の街は騒がしい。


「お兄さん世界料理はどう?」

「ん!?」


 その言葉を鮮明に覚えていたせいで突発的に反応をしてしまった。前回気になっていた世界料理だった。声をかけてきたお兄さんは違ったが。


「お、どうですか?いいですよ世界料理」

「前回も聞いたんだけど君キャッチだよね」

「キャッチはもちろんいいことでは無いですけど、そうでもしないと客が入らないんです」

「そうなの!?」

「こんな激戦区で待ちぼうけしてたら即潰れますよ。しかも、ウチみたいなまだ無名なところなんて尚更」


 何故かキャッチなのに悪い気がしない。悪意を感じない。それを隠しているとしたら、なかなかの演技派だと思う。キャッチ全てが悪いという決めつけは良くないのかもしれない。


「面白いこと言いますね。じゃあ行ってみようかな」

「はい!ありがとうございます!満足はして頂けると思います!」


 案内された店に入るとたしかに「世界」を感じた。中国らしい装飾があったりカリブ海を感じたりとまるで地球儀を見ているかのようだった。


「いらっしゃいませ!こちらメニューです」


 元気の良い店員さんはメニューを持ってきた。緊張しながらメニューを開くと想定通りだった。世界各国の料理が書き連ねてあった。

 世界料理とはつまり、世界各国の料理を1つの店で味わえるという意味だった。値段もお手ごろということもあり、味が良ければリピートしたくなる店かもしれない。

 俺は麻婆豆腐にフォカッチャとフィッシュアンドチップスを注文した。

 なんとも贅沢である。今日は一体何をしに来ているのだろうか。己に疑いをかけながら料理を待つ。


「お待たせしました!」


 運ばれてきた料理はどれも本格的。ちゃんと調理をしている物であった。なんで世界各国の料理なのにどれも本格的なのだろうか。調理人がどんな人なのか気になる。


「上手っ!」


 見た目だけでなく味も想像以上。キャッチをするような店の味じゃない。メニューを再び見たが特に店の説明は無かった。残念だが何回か通えば分かってくると信じてリピートすればいい。


「不思議な店だな」


 なんでこの街に店を出したのかは不明。

 客層もバラつきがあるためか賑わいを感じさせてくれる。


「辛っ!」


 麻婆豆腐は山椒の痺れが口の中を支配する。辛さの中に中毒性を捉えさせる何かがいる。熱さ、辛さ、美味さすべてが揃ったこの麻婆豆腐は逸品ともいえる。

 真っ赤な海の中に浮かぶ白い豆腐は辛さのオアシス。辛さを和らげるせいで幾らでも食べられる。

 いわゆる四川麻婆と呼ばれるこの料理。この美味さはなかなか侮れない。


 フォカッチャもこれまた絶品である。ふわふわの生地に緩やかに香る小麦の香り。何個でも食べられる。


 本家は美味しくないと噂のフィッシュアンドチップスも塩気がちょうど良い。

 カラッと揚げられた白身魚は適度な淡白さを残しつつ、インパクトをも残す。魚に臭さは無い。何にでも合うかのような透明で綺麗な味わい。総じて他の食べ物も進む。


「上手い」


 食事を平らげた。

 誰かを連れてきてもいいのかもしれない。敦がいれば真っ先に連れていくのだが、そんな彼はもういない。

 川崎という謎を残した彼は俺に何を求めているのだ。手がかりも裏の世界に人脈もない俺にはやれることは限られる。


「チッ…親友じゃなきゃブチ切れるぞ」


 この道は一方通行。

 引き戻すことを許さない道。


「ごちそうさん」


 俺は店を出て看板をよく見た。

 店の名前は「TRIP」。お似合いな名であった。

 この地で活動を続けるのは凄く気が重い。ここに来る度にこの店でご飯を食べよう。そうすれば何となく最後は楽しく終えられる。

 自分の命に関わるかもしれないこの調査。少しでも気を楽にする薬がないとやってられない。いくら明るくてアホな俺でもメンタルはいずれ崩壊してしまうはずだ。

 楽しいは辛さを幾分か忘れさせる

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