22.認知と幸運
誰ともつるんでいなかったから声をかけやすかった。そこまで荒れてそうな気配もない。
「そう。君。ちょっと聞きたいことがあって」
「な、なんですか…」
「夜回り先生…知ってる?」
彼女の目は急に見開いた。
まるで俺を危険人物だと視認しているような目だ。彼女の気の弱そうな見た目のせいであまり怖くない。
「あなた…先生になんの用…ですか」
「え、いや、ちょっと話を聞きたくて」
「なんでですか」
お手上げだ。
ここまで敵意を向けられたら知りたい情報なんて何も聞き出せない。
諦めが俺を「もう帰れ」と囁いてくる。
「友達のことなんだ俺の」
「大人のお兄さんの友達のことで先生に用!?」
「あぁぁそうだよな〜おかしいよなどう考えても」
自分に心底呆れた。
子供の面倒を見る先生なのに、大人が大人のことで用があるなんておかしな話だよ。
でも、ここまで来たらどうにか心を開いて貰うよう努力する。
「お兄さんの友達は警察官だった」
「だっ…た?」
「死んだんだよ」
「え…」
「夜回り先生に生前話を聞いてるんだ」
「そんな…私を惑わさないで」
女の子の目は泳ぎ始めた。
「嘘じゃない。生前友達はここで……」
「こ、ここで?」
この名前を出してもいいものなのか。
彼の名を。
目の前の子は川崎康太のことを知らない可能性の方が高い。
なのに、下手に彼の名を出して奴らの一員がここにいて聞いたらどうなるか。そう葛藤する中で頭の中にいるシェリーが「いいからやれ」と激を飛ばす。
「川崎康太のことを聞いていた」
背中は汗ばむ。
「川崎康太…君」
「え?」
彼女は今明らかに言った「川崎康太君」と。
彼女は川崎を知っている。あんなに交友関係がなかった川崎を知る人物。
「知ってるのか」
「そ、そんなには知らないです。けど、話したことはあるし会ったことも」
「なるほど…」
「でもなんで康太君のことを」
「それは」
これ以上余計なことは話せない。
そもそもベラベラと話しすぎたのだ。
「話せない」
「そんな…」
「すまない。君も夜回り先生のことを言えないのであればここでバイバイだね。ごめん。喋りすぎた」
心臓は非常に高い稼働率を誇示し、肋骨に響く。この場に入るだけでも緊張をしていた。それが川崎康太のことを人物を見つけてしまったとなれば心臓は平常でいられるわけが無い。
早足でゲーセンの横から脱出した。
話しかけただけでも今日は充分だと自分に言い聞かせた。
だが、運命は俺を逃さない。
「ちょっと待って!」
「な!」
先ほどの女の子は俺を追いかけてきた。
「康太君のことを知りたい」
「話せない」
「なんで!」
俺は周りに神経を張り巡らせる。この名前を簡単に出していいものじゃない。
発端は俺だとしても、どうにかしてこの会話を終わらせないと2人揃って身が危ない。
「夜回り先生のところ案内する」
「なに!?」
「お兄さん悪い人には見えないもん」
「そんな保証分からないだ」
「ここにいればそんなのすぐに見分けられるようになるよ」
彼女はか弱いはずなのに強かった。
このままいけばシェリーの言う通りになれる。敦だって何回も通ってやっと会えた人物。その人物に1回で会える。
こんな巡り合わせがあったら乗らないといけないし、後々後悔する。
「分かった。じゃあ案内してよ。そこに着くまでに説明をする」
「今は無理です。明日昼にもう一度ここへ来て」
「今じゃ無理なのか」
「うん。先生には会えません」
日を跨がねば会えない存在。
理由は不明だが、会うには従うしかない。
「分かった」
「明日の12時にここで。私を見つけて」
そう言うと彼女はこの場から立ち去った。
今日は活動1日目だというのに何とも大きな収穫があったようだ。やはり幸運の女神様は俺に着いているのかもしれない。
彼女も先生のお世話になっている人と決めつけていいかは怪しいが、何かしら関わりがあるはず。明日に期待しよう。
俺は期待を胸に帰宅した。




