19.報復と再スタート
私は少しばかり恐怖と隣り合わせで生活をすることになった。休まる機会がなく、やせ我慢しながら生活していてももうそろそろ限界に来ている。とうとう仕事中でもやつれ始めたらしく田村さんに心配された。田村さんには井出のことは話していない。巻き込みたくないからだ。裏の組織に関わるといいことはないので、これ以上関わる人間を増やしたくない。
だからこそこちらからも奴らに手を出すことだって考えている。
それにはこれ以上関係者を増やすわけにはいかない。
ただこれは最悪の手段である。日に日にこの最悪の手段は現実味を帯びてきた。
私の遺言という名の対抗手段だ。
「犠牲者は私だけで充分だ。もう誰にも死なせない」
毎日が長い。こちらは組織の人間を誰も知らない。道で歩く人全てが犯人に見えてもおかしくない。人間不信になりかける。もちろん達志にも言っておらず、完全に1人で抱え込む形になった。いつ誰が襲うのか不明。寝ている時に襲うことだって考えられる。このままやつらから狙われる不安で飼い殺しされるのは嫌だ。来るなら早く来て欲しいと願うばかり。
やつれた矢先にその時は訪れる。
何とか自暴自棄になるのを食い止めて自我を保っている最中家の近くでとある人物に話をかけられる。誰なのかは知らない。
「太田敦さんですよね」
「誰ですか」
「嫌だなぁ。私を知らなくても私達は知ってるでしょう?」
「知らん」
無理やり通ろうとしたが制止された。
「まぁ待ってくださいよ」
「知らんと言ってるだろ!」
「怒ってますね。それはこちらもです」
「何がだ」
しらばっくれる気でいる。
「はぁ…あなたに殺されたせいでめんどくさかったんですよ?責任取ってください」
私が殺したということを述べているので、この人物は組織の一員ってことになる。ギリギリまで違う可能性に賭けてたが無謀だった。私の前にも現れた。井出の言った通り私のところにも来た。焦りもあるが、早くしてくれとも思う。精神的に疲れるのも勘弁だ。そして、わかっている。多分私は殺される。だから、井出も「絶対飯行くぞ」なんて言ったのだ。お互いわかっていた。多分私が殺されることを。だから早くしてくれ。
「私に何の用だ」
「ま、とりあえず着いてきて貰えますか。車持ってきてるんで」
無駄な抵抗はせずに用意された車に乗車。運転手がいて、この男は私の隣に着席した。もちろん武器は所持していた。
「なんか抵抗することなさそうですけど、言っておきますが暴れないでくださいね?痛い目見るから」
「わかってる」
淡々と返して前を向いた。どこに向かってるかなんて1つしかない。華舞伎町。彼らのホームだ。そこに単独で乗り込むのだから生きた心地がしない。
そのまま揺られて華舞伎町内のどこかへ着いた。降りるよう指示されて車を下車。変な吹き抜けの空き地に連れてかれた。もう色々諦めてるがそんな憔悴しきった心を一気に色付けるような不思議なものが私の前に現れた。
「また…会いましたね。太田さん」
「な!な、なんで!」
目を疑ってみたが彼はどう見ても私がこの手で殺した人物…いや、本人?
川崎康太がこちらを見ている。
「俺は本物です。川崎康太です」
「クッ…嘘つくな!あんた達が偽物を作ったことはわかっているんだ。つまり、あんたも偽物だ!」
「なんだ。わかってんじゃん。てか、知りすぎだよ」
試されてたらしい。私は正解を出してしまった。ここでしらばっくれればよかったのだ。もう終わりだ。私はまた再会したのだ。この偽人と。
「俺がどうするか分かるよね」
また別の場所からも声がした。そちらに顔を向けるともう一人川崎康太が現れた。
「何人…いるんだ」
「さぁ?そもそもなんで1人しか偽人がいないと思ったんだか。まぁいい」
銃口を向けられた。死ぬ。だが、これだけは知りたい。達志や田村さんにも手を出すのか否か。
「俺を殺せば満足か?もしかしたら人にこの情報言ってるかもしれないぞ」
「あぁ井出は報復対象だ。他にはお前が情報を言ってないことは確認済み。事件になって警察にはバレてるけどバレてることはたかが知れてる。殺されて解決だと思ってるはず。複数人いることがバレてなければいいし、世の中には出回らないように仕組んだし。都知事候補殺害事件とかね」
複数人いることを知ってるのは現在私だけ。それも今知ったばかり。私を調べて情報の受け渡ししてないと結論付けたのか。なるほど他を殺す理由がないわけだ。都知事候補殺害も偽人川崎を目立たなくするためのブラフ。よくやるよ本当に。
「田村ってやつは別にこちらに何かした訳では無い。忘れるまで放っとく。あんたと井出だろ主な犯人は。夜回り先生のとこまでも行きやがって。まぁまだいそうだけどな関わっているやつ」
達志の名前が出てこないのが不思議ではあるが、この街に出入りの少なかった達志は存在をまだ正確に認知されていないらしい。だとしても存在を認知された時に一番身を守れないのは一般人である達志だろう。
なんとしてもあいつだけは死なせたくない。
「俺を殺せば満足なんだろ」
「あぁ井出も後でそちらに送るよ。証拠隠滅のためにあんたの家も燃やしとくね。組織が報復であんたを殺しましたとはなるけども、どうにかもみ消すし、犯人は分からないままだからいいの」
「ふっ。井出とはあちらで一緒にご飯か」
「何言ってるんだか。はい、じゃあね」
(ダーーーーーン!)
銃声が鳴り響いて私は脳天を撃ち抜かれた。
友の訃報を聞いてから何日経っただろう。
未だに現実が分からない。いきなり知らされたのだ「太田敦死亡」と。俺にはわかる。多分これは俺らが関わった組織の報復措置のはず。最近敦の状態がおかしかったのも頷ける。敦は自分が狙われることがわかったまま過ごしていた。その鉄槌が下った。敦の家は燃やされて何も残っていない。俺の直感がこれ以上何も関わってはいけないことを知らせている。多分敦もそれを望んでいる。いや、反対に解決してくれと頼んでるかもしれない。遺書があれば良かったが、燃やされたので遺品さえない。終わってる。
やるせない気持ちのまま郵便ポストを開けたら郵便物が入っていた。
「誰から…敦!?」
そこには親友の名が記されていた。俺はすぐに部屋に戻って開封するとそこにはメッセージが入っていた。
「西 達志へ
多分俺は殺されるか殺されてる。井出が組織の報復で撃たれたが、彼は裏の人に匿われてる身なので軽傷で済んだ。俺も報復対象であり、護衛はいない。つまり、確実に死ぬ。
お前も無事でいられるかはわからない。
俺はお前を守る手段を残した。
ここに記載してある病院へ行ってくれ。井出がいる。そしたらわかるはずだ。
言葉足らずで申し訳ない。でも、お前を助けるためにも行ってくれ。
天国から見守るよ。
太田敦」
俺はすぐに行動に動いた。敦は死ぬこと前提でこれを託した。そして、遺書に井出の電話番号が書いてあった。俺はそこに電話して彼が入院している病室へとやってきた。
「ガラッ」
「あんたが井出か」
「やぁこんにちは西達志君」
自分と似た顔を見て笑ってしまった。
「達志君にも手紙が来たってことだね」
「はい。そうです」
「ここで達志君と会えば俺たちを守る手段がわかるって」
「え、私何も知りませんけど」
これはどういうことだ。
敦は俺たちを会わせるためにこの手紙を送ってきた。それは2人が会えば手段がわかるためであるが、俺はてっきり井出さんが何か知っているものと思っていた。
だが、実際は知らない。
状況が理解できない。




