18.疑念と恐怖
私は傷が完全に癒えるまでは職に復帰させて貰えないらしく、退院してからも少しは自宅待機をしている。暇ではあるが、報告書は書かないといけない。拳銃をホルダーから取り出したら確実に書かないといけないのでめんどくさいが、自殺した事になるので私が撃った玉は1発ということになっている。その他諸々あるが
「書くこと多いめんどくさい」
この言葉に尽きる。私は体を伸ばすために目線を外すとメモ帳があることに気がついた。
今までの捜査の跡が残っているが捨てていいのな悩む。折角書いたメモを捨てるのも勿体ないように感じる。
「捨てる気になったら捨てよう」
私は大きな経験を捨てる気分にはなれなかった。川崎の執行猶予が終わったら捨てよう。それまでは取っとく。夜回り先生の話しも普段聞ける話じゃないし、面白いものであった。それが書いてあるのに捨てるのは嫌だと感じる。なので、メモ帳をそっと閉じて引き出しにしまった。
井出とのごはんの約束をしなければならないことを忘れていて急いでメッセージを送った。すぐに返信をしてきたので案外早く決まった。再来週ということになった。それまでが楽し
みだ。
その前に寄るところには寄っておこう。
2週間後
そろそろ復帰という中なんと井出から連絡が来た。あちらから来るとは珍しい。何事かと思ってメッセージを見てみるとこう書いてあった。
(入院しちった!お見舞い来てよ)
私が退院した約2週間後同じ病院に井出が入院した。笑える話だ。
(何したんすか。わかりましたよ。行きます)
(お、絶対来てよ?話したいことあるからさ)
(え、わかりました。では明日)
話したいことがあるらしいが何を話されるのかとても気になる。傷が疼く。嫌な予感がする。少しだけ頭をよぎる。「事件のこと?」と。もう解決したはずなのに解決した気になっていないこの事案。これについての続報だということもありえる。いい話か悪い話かも言っていない。明日が怖い。
次の日
私は治療で来慣れている病院の前に立っている。なぜか足取りは軽いように思えて重い。久しぶりに井出に会えるのはもちろん嬉しい。ただ、余計な考えで足取りは重くなる。入り口を入って賑わっている待合室及び受付を通り抜けて病室へつながるエレベーターへ。上へと向かうボタンを押して待機する。事前に号室は聞いている。エレベーターに乗り込み、井出の部屋がある階を押す。目的階に到着するとエレベーターはゆっくり開いた。私には緊張感が漂う。病室に到着してノックをした。すると中から返答があった。
「どうぞ~」
井出の声だ。
「失礼します」
ドアを開けて部屋へと入っていった。
「よう!兄ちゃん久しぶり」
「お久しぶりです。井出さん」
なにやらいつもと変わらない明るさがある。深刻な雰囲気ではない。見た目的に怪我らしい足になにやら包帯などがまかれている。骨折でもしたのか。
「足ですか。骨折でもしたんですか?ドジですね」
井出は顔をこわばらせて一言吐き出した。
「やられた」
「え?」
彼は今やられたと言った。何に。どういうことだ。
だが、なんとなく想像がついてしまった。
「やられた?」
「兄ちゃん。俺がこの事件に足突っ込んでいたこと組織にバレている」
衝撃的ではある。やられたということはつまり組織に襲われたということ。早々に物騒な話題を出されたが、これは井出だけの問題ではない。私にも関係がある。一気に冷や汗をかいた。
「襲われたんですか」
「そうだ。足を撃たれた。幸いこちらも仲間がいたからこれで済んだだけ。呼んだのは兄ちゃんへの忠告のためだ」
「私への」
「直接手を下したのは兄ちゃんあんただ。俺はまだ護衛の極道さん達に守られることはできる。兄ちゃんのことは誰も守れないんだよ」
そう。井出は半分裏の人間。あちらも手を出しにくい。では、私はどうか。ただの警察官なので表の人間。そういうことだ。
「報復ですか。仕方ないことかもしれません。私は自らの正義を侮辱したやつらに正義を執行したので満足はしています」
「兄ちゃんあんたがこの事件に深入りしたのはそれが理由か」
「えぇ。単純に気になったのもありますが、逮捕することで1人の人間を不幸にしてしまったことが私の正義にひびを入れました。それが原因です」
「兄ちゃんの正義にはあっぱれだ」
「それに私だって一応警察官です。怪我くらい慣れています。護身術もあります。一般人よりは強いです」
そういいながら心臓の鼓動は早くなる。不安は消えない。警察官なのでもしかしたらやつらも手を出せないことだって考えられる。田村さんに言えば少しは護衛してくれるかもしれない。事前に知っていれば手はある。しかし、1つ危惧している。達志はこの事件に関わったことになるのかということ。
「私の友達にも少々相談して夜回り先生に一緒に会いに行っているのですが彼は大丈夫でしょうか」
「大丈夫と言い切れないが、報復対象ではないはず。別にその友達が何かしたのでもないしな」
なら安心だ。同じ裏の世界に少し属している井出は、対抗勢力に荒らされたと思われて報復。そして、私は多分直接手を下した人物として報復対象になるだろう。達志が大丈夫ならいい。ただ、もしかしたらの可能性は考えなくてはならない。
「ごはんを食べに行く約束のはずが何とも重い話になりましたね」
「俺が退院したらかな」
「私だって隣の病室に来るかもしれませんよ」
「それもそうだったな!絶対飯行くぞ」
「はい」
井出は大爆笑しながらも「絶対」という言葉を使って私と無事にごはんに行こうと伝えてくる。もっと話したかったがちょっと怖めのお兄さんたちが登場したこともあり私は井出に挨拶をしてその場を離れて病室を出た。怖めのお兄さんたちは井出が関わる極道関係なのだろうが、私には丁寧に挨拶をした。見た目はあれだが全然怖さを感じなかった。あの感じだと私は認知されてるらしい。嬉しくない。
寄るところに寄ろう。




