12.確率と自由人
「川崎のこともあって、逮捕することが全てではないと頭に浮かんでしまいました」
「私情挟まない方がいいぞ兄ちゃん」
難しいものだ。この交番に勤務することでこの悩みは消えることは無さそうだ。その気持ちを押し殺して仕事しないとやっていけない。改めて感じた。
「すみません。ありがとうございます。落ち着きました」
「よかったよ」
「そういえば川崎の事件について何%くらいになりました。」
「何%…あぁ80%」
な、高くなっている
「そんなに!?」
「あとは状況証拠さえ見つかれば大体わかるな」
判明したのはなんの個人情報書を取られたかだけだぞ。それでここまで。
「詳しく聞かせて貰えますか」
「今は流石にだな。仕事中だろ」
「確かに」
「個人のLIMEID交換しようや。なに、安心しな。悪用しないよ」
「え、」
「情報知りたいんだろ。俺としても言っていいと思っている」
「わかりました。絶対悪用しないでくださいね」
というわけで連絡先を手にすることになった。
「じゃあ時間ある時呼ぶわ。こっちもまとめとくわ」
そのまま戻ろうとしたがふと思い浮かんだことがある。
「井出さん。夜回り先生って知ってますか」
「どうした急に。夜回り先生?知らんな」
なぜこのことについて話したか。前回あった時に聞けばよかったのだ。川崎のことを。
「非行少年達に声をかけて回っている定時制高校の先生のことです」
「変わった人だな」
「話しましたがとてもいい人でした」
「ほう、それで?」
「川崎を知っているかもしれないです」
「お、たしかに」
なぜ前回聞かなかったんだ。20歳の川崎なら夜回り先生のお世話になっててもおかしくない。
「川崎の事件については知らなくとも彼自身については知っている可能性は高いです」
「ん~聞く価値はありそうだな。兄ちゃん聞いてみなよ。俺が行ってもよく思われないだろうからね」
井出が行けば怪しまれることは間違いない。これは私が行くしかない。
「わかりました」
「よく思い出したなその先生のことを。メンタル状態最悪だったのに」
「なぜか急に」
「ま、頼むわ」
「あ、無線」
タイミング良く無線が入ったので戻ることにした。私はふと少し遠くを見た。
「ん?」
「どした、兄ちゃん」
去り際に何か私は見た事あるものを見た気がした。それがまだ何かは分からない。まだ…
田村さん達のところへ合流。集められた私達の仕事はこれで終了。あとは本部の人間達がやることなので解散される。私はそんなことよりも早くあのゲームセンターの前に行って夜回り先生(中谷さん)に会いたい。だが、私たちは団体で交番に帰っているので抜け出すことは不可能。
田村さん達を連れて行くと事情説明しないといけないので、厄介。白井さんと田村さんは談笑しているけどもその雰囲気に便乗して話すことは不可能。
中谷さんがいる場所から交番はさほど遠くはないけども、今日行くことは不可能か。そして、今回は警察の恰好をしている。非行少年達には警戒されるし中谷さんにも警戒されてしまう。素直に今日は諦めよう。後日中谷さんに会うことを井出に報告した。
中谷さんが出現する時間帯は夜であることを除けば何もわからない。井出に報告をした後初めて夜に時間ができたので、再び華舞伎町へと単独で参戦している。
「今回は迷わない」
一度来ているので、一目散にキャッチを通り抜けてゲームセンターの前へと向かった。選挙が近くて候補人のポスターが立てられている。ここに興味はないが、先日家にいた時に聞いた選挙カーの人ももちろん存在する。
「選挙カーで名前知ってしまったから、こういうところで目に付くな」
選挙カーで宣伝しまくる理由が少しはわかる。こうやってどこかポスターで再び対面した時に「この人」となるのが理由なのだろう。1票の重さがわかるからこそ死に物狂いでやるのだ。こんなことは今どうでもいい。なんでこれが目に付いたのかはわからない。今は中谷さんを探すのが先だ。
「どこだ」
私は血眼で探した。どうしても中谷さんに、と言うよりは夜回り先生に話が聞きたい。川崎を知っていることを願っているのだが知っていると決まったわけではないので、もしかしたらこの行為はただの悪あがきかもしれない。あるかもわからない鍵を見つける謎解きゲームのような気分だ。その鍵を見つけても正解かわからない。より一層確率は低い。
周りを見渡してもいない。毎日いるということではないのだろうが、こちらも毎日来れるわけではないのでもう一度中谷さんに会えるかどうかは「神のみぞ知る」と言ったところだ。
非行少年達はいる。彼らがいたところで中谷さんがいなければ意味がない。前回と大体同じ時間に来ているのにも関わらずいないということは、今日はいないということか。
「諦めるか」
そう決めて引き返すと私に声をかける人物がいた
「あれ、」
私は思いっきり振り返った。その時の期待はものすごい勢いで叩きつけられた。
「敦じゃん。どうした」
まさかの男。自由人「西達志」だ。思わぬところで出会ったものだ。
「達志。お前こんなところで何を」
「会社の人との飲みだよ。最近美味しい飲食店が増えたからね」
「そういえばいつの間にか色んな店が出てきて激戦区になってるな」
こいつはしっかりと社会人をやっている身。同僚や先輩との飲みは日常茶飯事。ここら辺で働いているこいつはこの街でも飲むらしい。
「あぁ、ちょっとな」
「お前がここにいるだと。そんなに疲れてるのか。スッキリしたか?」
変な思い違いをされている。
「おい、何を勘違いしてるんだ」
「お前も等々女に金をかけるように」
「違うわ。変な思い違いはやめろ。俺がそういうところに行くと思ってんのか」
「思ってない!冗談!」
「やかましい」
こいつにはいつもペースを握られる。相変わらずだ。だが、こいつにはしっかりとここに来た理由を話す。なぜならこいつも川崎の事件を知ってから興味を持ったらしくちょくちょく話はしている。こいつにも真相をさぐる手助けをしてもらっている。こいつはただ楽しそうだからというだけで聞いてるだけかもしれない。それでもいい。意外とこいつは頭がキレたりするので有意義な意見を言うと信じている。
「実は夜回り先生に会いに」
「前言っていた変わった先生のことか」
「そうだ。川崎のことを知っているかもしれないだろ」
「元少年だからか。何年か前には出会ってるかもしれんな」
考えが通じてくれたようで説明の手間が省ける。
「だが、いないのだ」
「毎日いるとは限らないだろ」
「俺だって暇じゃない」
「まぁ焦んなよ。ほれ水だ」
「すまない」
私は渡された水を飲んで落ち着かせた。ボトルを返して達志を見たが、どこかこいつは誰かさんに似ている。顔とか雰囲気が。
「お前似てるんだよな」
「誰に」
「井出というやつに」
「原点となった事件の被害者で風俗店の店員の?」
記憶力良すぎる。私が言ったこと全て把握して忘れていない。恐ろしい。
「雰囲気が少しな。あと顔とか諸々」
「なるほど。だから敦はその井出という男とよく喋れるんだよ」
「似てるからかお前に」
「そ、俺と同じ扱いすればいいんだろ?」
「それはちゃっと語弊があるが。これでお前ら生き別れの双子だったら面白い」
「面白い冗談を!雰囲気だけ似てる奴は沢山いるけどね」
気にすれば気にするほど井出とこいつは似ている。私が風俗定員と話すなんて考えられなかったが、これで納得した。会ったついでにこれまでの情報を整理した。もちろんメモ帳を見ながら。このメモ帳には重要なことが沢山書かれている。ゴールまでの道しるべ。
達志は真剣に聞いていた。一度言って重複する情報も嫌な顔せずに聞いていた。
新たな情報源としての夜回り先生。これも納得していた。
「ただ、川崎の過去を聞いてどうするんだ」
「中谷さんは非行少年達からの電話相談もしている。それに川崎が相談していれば深い話が聞けると思って。何で悩んでいたのかとか。危ない組織に関わったのかとかだ」
「なるほどね」
ここで当時危ない組織に関わっていたことが判明すれば真相まで進歩する。私が聞ける正当な情報源はここしかない。これの望みが無くなれば井出頼み。なので、切に願っている。少しでも情報が出ることを。
「ただ、俺夜回り先生の顔知らないからな。お前が見つけろよ」
私は達志と共にゲームセンター周辺で中谷さんを待ったが一向に現れなかった。
これ以上待っても無理な気がしたので私達は帰ることにした。
「ま、全て上手くいくことではないからな」
達志がフォローを入れた。もちろん分かっている。連絡先も知らない男と出会うなんてそもそも無謀。もはやこの街の喧騒が私を嘲笑っているかのように感じる。井出にばかり情報は頼れない。自分でも情報を集めないと彼に依存してしまう。
「何回かここ通うよ。出会えるまで」
「ほぉ、じゃあ俺も来れる時は来ようかな」
「なんでお前が」
「1人だと心配なんだぞ。お前何しでかすかわからないし」
不安に思われているらしく、保護者として着いてくるとのこと。別に構わないし、前述の通りこいつは頭がいい。鋭い質問を期待する。しかし、こいつは井出に会わせたくない。似てることは認めるが2人が合わさればやかましくて嫌になる。意気投合しかねない。対応する俺がもたない。
「他に情報源無いのか?」
「あ、あぁ。川崎と関係がありそうなのは中谷さんのみだね」
「多方面に関係薄だったのか。これは骨が折れるね。井出って人がいなければ絶対解決に辿り着かない」
それはよく分かる。彼はチートだ。普通は使えない裏の攻略法を使用しているのと同義。
「警察とて使える情報源なんて本人や表の世界での事情聴取のみ。裁判終わればもう何もしない」
「逃げ勝ちか」
逃げ勝ちという言葉は使いたくないがその通り。今回に関しては「騙されてる」に近い。
「あんまり気負うなよ」
「分かってるさ」
私達はそのまま夜の喧騒に似合わない悲壮感を漂わせて帰宅した。




