記憶の欠片
「ヒナちゃんが怖がるのも、無理なかったわ。今まで召還に失敗してドラゴンになった異世界人は、みんな殺されちゃったのよって、聞かされたようなものですものね」
「それなのですが……。今まで出現したドラゴン達は、ヒナのように我々の言葉を理解していた様子が、全くなかったように思いませんか?」
「確かにそうね。わたしも何度かドラゴンと対峙したけど、話なんて通じる状態じゃなかったわ」
だからこそ、討伐という道しかなかったんだから。
そう続けるリディの言葉を肯定する様に、ロベルトが真剣な表情で頷いていた。
さらりと、今までにドラゴンと戦った事があると語るロベルトとリディに驚くが、この二人やマティスなら、過去にドラゴンを倒した「英雄だ」と言われても違和感がない。
何度ドラゴンと対峙してきたのかはわからないが、二人の言い方からすると一度や二度ではなさそうである。
もしかすると、この世界では頻繁に、ドラゴンとして召喚されてしまう不幸な異世界人が現れるのだろうか。
過去に出現したドラゴンに関しての文献などが残されていて、研究されているだけなのかもしれないが、少なくともロベルトとリディは直接対峙した体験がゼロではないらしい。
二人の言い分からすると、どうやらドラゴンになってしまった時点で、自我を失ってしまう事例が大半なのだろう。
それが、本人にとって幸せなのか不幸なのかは、微妙なところだ。
殺されるという結果が同じならば、自我がない方が幸せだと言えるかもしれない。
もし意識があって、「助けて!」と一生懸命に叫んでいたのに通じなかったのだとしたら、辛すぎる。
歴代のドラゴン達が、安らかに眠りを迎えた事を、祈るばかりだ。
それがわかると余計に、「ドラゴンだから」という理由だけで攻撃したりせず、まず最初に声を聞いてくれようとしたマティスに会えた陽奈子は、本当に運が良かったと言える。
マティスに命じられた所が大きいだろうけれど、陽奈子が言葉を理解しているとわかったら手を止めてくれたので、ロベルトも「ドラゴンは全て倒さなければならない」という凝り固まった考えという訳ではないのだろう。
となると、今まで対峙してきたドラゴン達と話が通じなかったというのは、本当なのだろうと思えた。
少なくとも、会話を試みた過去があるという事だから。
それに今は、陽奈子と歴代ドラゴンとの差や共通点から、元の世界に戻るためのヒントを見つけようと、協力してくれている。
実際に、世界を滅ぼすといわれているドラゴンの姿をした陽奈子を前にしてもなお、話を聞いてくれるだけでなく、解決の手立てを考えてくれようとしている今の状況こそが、信用に足る事実だ。
「ヒナが気づいた時には、もう空を飛んでいたと言ってたよな?」
「はい」
「それ以前の記憶はないのか? 例えば、この世界に来る前に元の世界では何をしていたか、とか」
マティスの言葉を受け、記憶を辿る。
目が覚めたら突然空を飛んでいたので気が動転していたけれど、確かにこの世界に来る前に何をしていたかという所まで遡って思い返してみたら、空白の時間が繋がるかもしれない。
「特に、変わったことは……。普通に学校から帰ってきて、家族と夕飯を食べてお風呂に入ってから、自分の部屋でベッドに転がりながらスマホ見てて……」
昨日は宿題も出ていなかったから、「そのまま寝ちゃっても良いや」という気持ちで、だらだらと過ごしていた。
目が覚めてからも色々と考えたけれど、やはり異世界トリップもの等によくあるような、異世界への入り口フラグは、特に踏んでいない。
そこまで思い返して、ふと違和感に気づく。
何か大切な事を忘れているような、思い出したくない何かがあるような、背筋をぞわりとするような感覚が、一瞬駆け抜ける。
「ヒナ?」
「何か……聞いた。そう、声が聞こえた気がします」
「声? どんな?」
「女の人の、呼ぶ声……。お母さんの声とは違ってたから、「誰?」って思って」
(そう思った途端に、睡魔に襲われたんだ)
夜ではあったけど、まだ眠くなるには早い時間だったし、疲れてた訳でもなかったから、「おかしいな」って確かにそう思った。
だけど、何か目的があって起きていたわけでもなかったから、心地良い眠気に逆らってまで、目を覚ます必要もないと思って、そのまま瞼を閉じたのだ。
そして次に目を覚ました時、そこは異世界で陽奈子は空を――――?
記憶を再度ひとつひとつ掘り返して、またここで違和感を抱く。




