迫力美女の登場
「来ましたね」
いつの間にか巨大な白い鳥の姿から、すらりとした人の姿に戻っていたロベルトが、陽奈子の隣で呟く。
その嫌そうな声のトーンだけで、建物から出て来たのがリディ本人なのだと、陽奈子にもわかった。
「よぅ。リディ久しぶり!」
嫌そうなロベルトとは対照的に、明るくマティスが軽く右手を挙げる。
その動作と、恐らくリディと思しき女性がものすごい勢いでマティスへと飛び込んできたのは、ほぼ同時だった。
「マティス様ぁん、随分ご無沙汰だったじゃないの」
「悪い悪い」
「なかなか会いに来てくれないから、寂し過ぎて暴れ出しちゃう所だったわ」
「元気そうで、何よりだ」
マティスにぎゅうぎゅうと抱きついて離れないその女性は、陽奈子が想像していた儚げな聖女像とは全く違っていて、呆然としてしまう。
清楚な少女でも、怖そうなお婆さんでもない。
どちらかと言えば、都会の歓楽街に居ても違和感のなさそうな、派手目の印象だ。
お化粧もばっちりで、胸の谷間を強調しつつ、足の長さを称えろと言わんばかりのスリットが入ったドレス。
何より、上から下まで露出度の高い服にも負けていない、抜群のスタイルの持ち主だった。
マティスやロベルトと並んでも遜色ない背の高さは、ヒールを履いているからと言っても女性にしてはかなり高めだが、その分迫力のある美女だと形容出来る。
マティスとリディが並ぶと美男美女で、とてもお似合いなのが、少し悔しい。
(悔しいなんて、今の私が言える立場じゃない、か……)
凶悪なドラゴン姿の陽奈子は、マティスと並ぶことさえできない。
もし仮に、陽奈子が元の姿であったとしても、とても勝ち目はなさそうだけれど。
「あの方が、リディさんですか?」
「そうだ。相変わらずだな……」
マティスに抱きついて離れない姿を目で追いながら、隣に立つロベルトに問いかける。
すると、苦虫をかみつぶしたような表情のまま、肯定が返ってきた。
何がそんなに気に入らないのかはわからないけれど、確かに真面目なロベルトと派手なリディの性格は、見るからに真反対な感じがする。
陽奈子の問いに答えたロベルトの声に反応したように、リディが抱きついていたマティスから少し離れて、ようやく顔を上げてこちらを見た。
正面から見ても、やはりとても綺麗な人である。
陽奈子よりもずっと大人な雰囲気で、何一つ敵いそうなところが見つからない。
唯一欠点を見いだすとすれば、少し声が低めな所ぐらいだろうか。
声だけしか聞かなけば、男性だと間違ってしまいそうな程の低音ボイスだ。
ただ、可愛い系ではなく美人系なので、多少低い声でも違和感がないし、見た目は完璧に女性なので、姿を見れば間違えることなんてない。
欠点と言えるほどのものではないので、ただ単に陽奈子の小さな嫉妬心が、咄嗟に勝てるところを探しただけなのだろう。
こんなに美人なリディを、マティスが真っ先に頼ろうとしたのだと思うと、急に気持ちがもやもやとしてくる。
再会の抱擁も情熱的だったし、もしかして二人は恋人同士なのかもしれない。
「あら、ロベルトじゃなぁい。あんたまだ、マティス様の周りをちょろちょろしてるの? とっとと消えれば良いのに」
「お前こそ、そろそろその格好やめたらどうだ。マティス様が汚れる」
「相変わらず失礼ね! あんたが傍に居る方がずっと、マティス様にとって悪影響よ」
凸凹の岩場をもろともせず、高いヒールをカツカツと鳴らしながら、ロベルトに近づいてくるリディの言葉は、予想の斜め上を行く辛辣さだ。
そしてそれに応酬するロベルトも、冷たすぎるほど冷たい。
先ほど生まれたもやもやとした気持ちが、驚きで吹き飛んでしまう位の勢いがあった。




