騎士団長の座は渡しません6
リリトリスでは叶えられそうにない騎士という夢はウィルムスでは叶えることができる。
剣を握ることを馬鹿にされない。
それは自由を求めるエリーゼを誰も否定しないということではないだろうか。
王子の婚約者なのに、と冷たい目で見られることがない日常をエリーゼは渇望していた。
「君の目を見ていれば分かるよ。本気でやりたいんだね。しかし、エリーゼをすぐに騎士養成所に入れるのは私としても避けたい。私のメンツというよりも、君の為だよ、エリーゼ。良くも悪くもこのロイン家は影響力がある。そんな家にホームステイしている君には好奇の目が集まるだろう。そんな君が到着後すぐに騎士の養成所に入ったら、どう思われるか分かるかい?」
問われてエリーゼは頷いた。
「リリトリスからのただの留学生が騎士になるというのは防衛の面でも外交の面でも波紋を呼びそうですね。私が世界でも有数の剣士ということであれば、その問題は解決するでしょうけど、リリトリスに女の騎士はいませんから」
「そうだね。ま、あの御仁を助けた、という時点で優遇されるのは目に見えているし、他の貴族も文句を言わないだろうが、そうすると嫉みつらみで君が辛い思いをするかもしれないからね。そういうのは私は避けたい」
どこの世界にも嫉みはある。王子の婚約者という身分でなくとも。
エリーゼは大輪が花開くように微笑んだ。
「お気遣い頂き、ありがとうございます。私は一からコツコツ騎士を目指すことにします。根性には自信があるんです」
「良い心がけだね。それじゃあ、とりあえず、大学院に通いながら国家騎士養成所に入るという立ち位置にしておこう。高位貴族の子息ではよくあることだから心配しなくても良いよ。手続きはこちらで進めておく。学院から入学許可が下りるまで自由に観光でもするといい」
ガーデニウムはなんでもないことのように言った。
「はい。ところで、昨日、私がお会いした貴族の方というのはどういう方なのでしょうか。詳しくお聞きしなかったので夢なのかと思っていました」
「ははは。とある事情で今は立場を隠さないといけないそうだよ。君が騎士養成所でその名を馳せるようになれば必ず迎えをやると言っていた。そうなると、騎士団への入団は約束されたも同然だ。それにある意味、指名されているのだから騎士団長の座も夢じゃないかもしれないね」
昨日助けたローランドがどれほどの地位にいる貴族か分からないが、それがそんなに甘いことではないとエリーゼも分かっている。
騎士団はリリトリスにも存在する。たゆまぬ鍛錬と騎士としての誇りを守るために日々努力している姿を見てきたのだ。生半可な決意では騎士団長になどなれるわけがない。
「私、必ず騎士団長にまで上り詰めて見せます。レイムお父様、応援してくださいね」
可憐な娘の言葉にガーデニウムが瞬殺されてしまった。
屋敷の使用人たちが目を向いてそんな主人を見ていることはエリーゼもガーデニウム本人も気が付かないままだった。