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男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった  作者: パンダプリン


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第65話 カンダタが切った糸

「この森って、ふつうよりも強い生き物ばかり住んでるんだよね?」


「そうじゃなあ。勇者の連中がおったじゃろ? あれは国の切り札程度には強いが、オーガやハーピーのようなこの森で暮らす者にとっては、一対一で戦えばまず負けることはない相手じゃな」


 つまり一種族の集団それぞれが、一国に匹敵する程度の強さってわけか。


「この世界で強い人たちって、みんな魔力をたくさん持っているんだろ? 俺とは真逆で」


「そうですけど、魔力がないからといって、そう自分を卑下しては……」


 ああ、そうか。この言い方だと勘違いされるな。


「ごめん。そういうわけじゃないんだ。要は魔力が多いほど強いってことだから、この森に住んでる人たちってみんな多くの魔力を持っているんじゃないかって確認したかったんだ」


 この前忠告してくれたばかりの、アリシアの言葉を無碍にしたわけではないのだ。


「たしかに、この森の者たちはみな誰もが、外で生きる者よりも高い魔力を持っておるぞ」


「つまり、全員が魔力を暴走させている可能性があるってことにならない?」


 それこそが俺が確認したかったことだ。

 俺にとっては平和で住みやすい森だけど、そこで暮らす者たちが苦しんでいるのなら、助けてあげたいと思う。


「そもそも、ソラが森に住む人たちに命令をしたことあったけど、暴走状態なのに命令って聞くものなのかな」


「むしろ暴走して本能のままに生きておるからこそ、神狼様の命令に従いやすくなるということもあるのう。本能が忠告しておるんじゃろう。神狼様の命令に逆らうなと」


 そこは強い者に従うという、彼女たちのルールに従っていたってわけか。

 話がそれたが、なんにせよ俺にできることがあるかもしれないってことだ。


「ソラが一度に全員を集めることはできないのかな」


「やめたほうがいいんじゃないでしょうか……ヴィエラさんたちみたいに、治療後に体調を崩す方たちがいるかもしれません。一度にそんな方たちだらけになったら、さすがに私でも間に合うかどうか」


 そうか、それがあったな。

 アリシアがいくら優秀な聖女といえ、この森に住む全員が一斉に苦しんだら対処しきれない。


「ヴィエラやウルシュラさんのときみたいに、直接会いに行って確かめた方がよさそうだな」


 どちらにせよ、森に住む人たちと仲良くしたいという目的もあるわけだし、その延長として魔力の暴走をしていたら治療をしていこう。


「それなら、今日もみんなで散歩するです?」


「そうだね。今度は……アラクネたちに会いに行こうか」


 言いよどんだのは、彼女たちの姿に思うところがあったからだ。

 でも、俺のわがままで方針を変えるつもりはないし、腹をくくって会いに行くとしよう。


「ところでアキト様って、アラクネやラミアと会いに行くの嫌そうですよね? 無理はしないほうがいいですよ?」


 げ、ばれてたのか……


「嫌ではないんだよ。できるならエルフやオーガやハーピーみたいに仲良くしたいんだけど……彼女たちって上半身裸なんでしょ? ちょっと目に毒というか、恥ずかしくて直視できるか不安というか……」


「……なるほど、つまり女性の裸を見慣れていないということですね」


 そうなんだけどさあ……なんか、あらためて女性慣れしていないって言われると恥ずかしいな。


「いい方法がありますよ!」


 なんだろう。嫌な予感しかしない。


「裸を見慣れておけばいいんですよ!」


「待った! 脱ごうとするな!」


 この痴女め。どんどん遠慮がなくなってるな。

 良いことではあるんだけど、今回は悪い方に転んでいるぞ。


「え~……」


 すごい不満そうな顔をしているけど、俺が悪いんじゃないよな?

 乱れたアリシアの服を直してやってから、俺たちはアラクネの巣を目指して進むことにした。


    ◇


 洞窟に到着すると、以前と同じくやはりアラクネたちの姿は見えなかった。

 やっぱり、俺たちが近づいたから避難してしまったんだろうか。


「誰もいないか……」


「おることにはおるが、隠れているのであれば無理やり会うわけにもいくまい」


 いるんだ。そうなると明確に会うことを拒絶されてるってことだな。

 残念ながら、今日は引き返すしかないかと思ったさなか、小さな生き物が落ちてきた。


「うわっ!」


 するすると糸とともに落ちてきたのは、まだ幼児といえるほどの女の子で、下半身は蜘蛛の姿をしている。

 なるほど、これがアラクネ。なんだかわいいじゃないか。


「ちっちゃくない? アラクネってそういう種族なの?」


「いや、この童はまだ産まれて間もないアラクネじゃろう」


 ということは迷子か? 親とはぐれちゃったんだろうか。


「大丈夫? お母さんのいるところわかる?」


「あっち~」


「ちょっ、ちょっと! ああ、もう! ごめんなさい! 許してください!」


 頭上からの声に上を見ると、先ほどのアラクネの子と同じように裸の女性が降りてきた。

 いや、下半身はやっぱり蜘蛛だからこの人もアラクネか。

 よく天井を見ると、吹き抜けになっていてかなりの空間があり、上の方で黒い塊がもぞもぞと動いている。

 ぶっちゃけてしまうとかなり不気味だ。

 多分あれが全部アラクネなんだろう。見えにくいけど蜘蛛の巣が張られているから、あの場所に隠れていたのか。


「神狼様の邪魔をしてしまいすみません。すぐにこの子は処分しますので」


 待て、処分ってどういうことだ!?

 その疑問に答えるかのように、アラクネの女性は勢いよく巨大な蜘蛛の足を振り下ろそうとする。

 自身の子である幼いアラクネにむかってだ。


「そこまでしなくていいから!」


 思わず大声を出すと、アラクネはなんとか止まってくれた。

 叱るにしてもやりすぎだし、そもそもこの子が叱られる理由もないだろうに、何の迷いもなく子供を殺そうとするアラクネが得体のしれない恐ろしい存在に見えてくる。


「しかし……どうせ処分するんですよ?」


 ……え? なにを言っているんだ。

 言葉も通じているし会話もできているのに、目の前の人間に似た上半身の生き物は、俺とはまったく別の生き物なんだと感じ始めてきた。

 竜も妖精もエルフもオーガもハーピーも、皆俺の常識が通用する相手だったけど今回は違うらしい。


「ええっと……処分するって、なんで?」


「どちらにせよ。この子も他の子も生きられませんから、苦しむ前に処分してあげるのが私たちの情けです」


 アラクネは少しだけ辛そうな表情でそう言った。

 ……よかった。いや、よくはないが、なにも喜んで自分の子を殺そうとしているわけじゃないみたいだ。

 なにか事情がある。なら、その事情を解決すればこの子みたいに、簡単に殺されそうになってしまうような子はいなくなるってことだ。


 とにかく、事情を聞いてみないとな……

 なんとか話が通じることに安堵を覚え、俺はアラクネから話を聞き出すことにした。

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