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男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった  作者: パンダプリン


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第64話 憧れの毛むくじゃら少女

 まだ日が昇ったばかりの時間だが、早々と目が覚める。

 ここにきてからは自然と早寝早起きになり、以前よりも健康的な生活を送っている。

 まだみんなは寝ているようなので、ミーナさんからもらった道具で小物を作成することにした。


 こんな天気のいい日は朝の散歩というのもいいかもしれないけど、一人で散歩したら厳重注意されるからなあ。


 ミーナさんとソフィアちゃんが俺が作った物を物々交換したことに、ルチアさんはたいそうお怒りのようだったが、俺としてはたとえそれがこちらへの恩返しという意味合いによるものだったとしても、自分が作った物に価値がつくことが嬉しかったりする。

 なのでこうして暇なときは、エルフのみんなに教えてもらった物づくりにいそしむことにしている。


「おはようございますアキト様。今日も早いですね」


「ああ、おはようアリシア。昨日もよく眠れたからね。ソラのおかげかな?」


 あの子本当に抱き心地がいいんだ。あの子を抱いて目を閉じると簡単に眠りの世界へといざなわれる。


「そうですか……たまには、代わりに私を抱きしめて眠ってみませんか?」


 さも名案というように提案されるが、そんなの逆に眠れなくなるに決まっている。


「あ~、それはやめておくよ」


「う~……やっぱり毛が足りませんか……」


 そこじゃないんだよなあ……

 多分今のアリシアの脳内では、どうやってソラみたいな毛皮を手に入れるか必死に考えを巡らせているんだろう。

 毛皮があっても、アリシアを抱きながら眠ることはしないけどな。

 前に酔ったアリシアとともに眠ったときは、結局一睡もできないほど緊張したし。


「しかし、アリシアってすごいね」


「え? 私の毛の話ですか?」


 やっぱり毛のことばかり考えていたようだ。付き合いも長くなってきたので、アリシアの突拍子もない発想もだんだんとわかってきた。


「毛じゃなくて、ほらこの前のハーピーたちのことだよ。あれだけ苦しんでいたハーピーたちが、アリシアのおかげですぐに回復した。やっぱり優秀な聖女なんだねアリシアって」


「えへへ……あれくらい当然ですよ。それに、アキト様のほうがすごいですよ」


 俺が? アリシアに比べて爪の先ほどの働きしかしてなかったけどなあ。

 そう考えていたら、アリシアが少しふくれたような顔でこっちを見ていた。

 怒っている? 表情がころころ変わる子だなあ。


「なに?」


「むう……アキト様、また自分なんて大したことしてないとか考えてますね?」


 驚いた。あたりだ。

 なにも相手の考えを読めるのは俺だけではなかったようだ。


「魔力の暴走による悩みを解決できる人なんて、この世界にはいません。アキト様がいなかったらフウカさんも、アカネさんも、ヴィエラさんも、今もなお魔力の暴走に囚われたままだったんですよ?」


 それは……たまたま、俺がそういう体質だっただけで、多分俺じゃなくても俺と同じ世界の人なら誰でもできることだ。


「私アキト様のことが好きですけど、自信がないアキト様は少し嫌いです」


 いつのまにか手を止めて彫刻の道具も机に置いていたためか、アリシアは俺の手をとって真剣な目でそう言った。

 こうして手をつないでいるのでわかるが、アリシアの手は震えていた。


 彼女は俺を好きだと言った。そして俺を嫌いだと言った。

 俺の背中を押すためにあえて嫌いという単語を選んだのだろうが、心優しい彼女はそれに罪悪感を覚えているのだろう。


 俺はアリシアを安心させる意味も込めて、握っていた手に力を込める。

 頼もしい彼女の手は、小さく柔らかかった。


「ありがとう。アリシアがそう言ってくれるなら、俺ももう少し自信をもってみるよ」


「それがいいです。アキト様は素敵な男性なんですから、それと、その……嫌いだなんて言って……」


「大丈夫。全部わかってるから、ごめんね言いたくないことを言わせて」


 不安そうな顔から一転し、花が咲くような笑顔を見せてくれて、思わずどきっとしてしまう。

 でも、これでいい。彼女はこの顔が一番似合っている。


「それでは、自信をつけるために、私を抱きしめて眠ってみましょうか」


 さあどうぞじゃないんだよ……というか、それが自信につながるってどういう発想なんだ。

 握っていた手を放して、とりあえず鼻をつまんでおく。


「もう! いじわるです!」


 いかにも怒ってますと、またも頬をふくらますが、今度はまたすぐに笑顔に戻った。

 元気づけるために冗談を言ってくれたんだろうか。

 でもアリシアだし、本気だった可能性も否めないな。

 なんだか、手玉に取られているような気もするが、不思議と嫌な気持ちはなかった。


    ◇


 まだどきどきしています。

 きっとあなたはやさしいから許してくれるということはわかっていました。

 でも、まさか男性に向かって嫌いと言う日がくるなんて、想像したことすらありませんでした。


 勇者として王城にいたときも、聖女として教会にいたときも、男性に会う機会はあれど積極的に懇意になろうという気はありませんでした。

 周囲の女性たちがご機嫌をとるために、うわべばかりの耳障りのいい言葉ばかり口にしていたことを責める気はありませんし、気持ちがわからないわけでもありません。


 なんとなく、私にも憧れの男性ができたら、あの人たちのようにご機嫌をうかがう毎日になるのかなあ、なんて思っていました。

 そして、世の女性の理想がそのまま実現したような男性とあなたと出会えました。

 機嫌を取る必要こそありませんでしたが、わざわざ嫌われるようなことをいう必要はもっとないはずです。


 だけど、あのときは自信がないあなたを叱らないといけない気がしたんです。

 言った直後に後悔しました。これで嫌われて二度と会えなくなるんじゃないかとも思いました。

 ですが、あなたはやっぱりやさしいあなたのままでした。


「好きって……言っちゃいましたね」


 もっととんでもないことを口走ることも少なくありませんが、なんだかその一言を思い出すと顔が赤くなるのを抑えられそうにありません。


「そっか……私、あの人のことが好きなんですね」


 なにをいまさらと笑ってしまいそうですが、私はきっとアキト様のことが好きなんです。

 願わくば、このままずっと五人で仲良く暮らしていけますよう、私はひさしぶりに女神様へお祈りしました。


「……まずはどうやって体毛を増やすか、そこから考える必要がありますね」


『アリシア……アリシア……あんた、ほんとそういうところだからね。アリシア……』


 私の耳にだけ届く女神様の声も、そういうところだろ言ってくれています。

 そうですね。がんばって毛深い聖女を目指すことにします。

 さあ、がんばりましょうアリシア。あなたには女神様のご加護がありますよ?


『……アリシア……そうじゃないのよ……アリシア』

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