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男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった  作者: パンダプリン


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第27話 集団妄想症候群

「アリシアとシルビア大丈夫かなあ」


 こうやって安全な場所で心配することしかできずにいることが恥ずかしい。


「聖女さんとドラゴンさんだから大丈夫です」


 勝手な自己嫌悪で落ち込んでる俺の周りを、ルピナスが飛び回って元気づけてくれる。

 ソラもいつものように抱きついて、励ましてくれているみたいだ。

 顔が近づいてきたので、また舐められるのかと思ったけど、俺の後ろを見ている?


「なんかいるの?」


 前に幽霊も見たし、俺には見えない霊的な者でもいるのだろうか?

 すると、ソラは俺の腕の中から抜け出して、先ほど見ていた場所に移動した。

 珍しいな。いつもなら、もっと抱きしめて撫でないと離れようとしないのに。

 移動する時に一瞬体がぶれたように見えたけど、疲れているのかもしれない。


「どうした? うえっ……なんだこいつ」


 ソラの近くで金色の羊が倒れている。

 さっきまでは確かにいなかったのに、なんか急に出てきたし、もう死んでる。意味がわからん。

 それにしても、こうして見るとなんか不気味な目だし、頭がゴツゴツしていてかわいくないな。

 羊ってもっとかわいいイメージがあったけど、今の俺は犬派だからか辛辣な評価しか下せなかった。


「ええ……どういうこと」


 しかも死んだっぽい羊がだんだんと体が薄くなっていき、しまいには完全に消えてしまった。

 なにこれ、羊の幽霊かなにか?


「うわっ、どうしたんだソラ?」


「ひぇっ!!」


 不思議な羊に気を取られていたら、急にソラが大きめな声で遠吠えをした。

 森に住む者たちに連絡したときとは違って、なんかご機嫌斜めな気がする。現にルピナスが怯えてるし。


 まあ、こんなときはこうするのが一番いいと俺もわかってきた。

 抱きしめて落ち着かせて頭や首を撫でる。

 ほら、もういつものちょっとアホっぽいかわいいわんこだ。


「よくわかんないけど、怒っちゃだめだぞ~」


 また顔を舐めてくるので受け入れる。

 さっき中断したせいかはわからないが、なんかいつもよりも長時間ソラにじゃれつかれ続けた。


 あまりにも長い時間ソラと戯れてたので、アリシアとシルビアが帰ってきたようだ。

 いかん。二人は戦ってきたというのに、こんなふうに遊んでたらさすがに呆れられてしまう。


「そういうことか……さすがは主様じゃの」


 どういうこと? こんな時に遊んでいて、いいご身分だなみたいな皮肉?


「ええ……神狼様の怒りが収まったと思ったら、アキト様が鎮めてくださっていたんですね」


 ああ、やっぱりソラ怒ってたんだ。

 そして、それを止めた俺に感心してくれた……いや、無理に褒めなくていいからね。

 俺、君らが戦ってる間に犬と遊んでただけだし。


「おかえり。ごめんねなにもできなくて」


「ははははっ! なにもできぬというか。一番危険な者を無力化しておいてよく言うわ」


「そうですよ。私たちじゃ絶対できないことをしてくださってますから、なにもできないなんて言わないでください」


 二人の気遣いがありがたくもあり、申し訳なくもある。

 だけど、あまり卑屈になっても仕方がないし、うじうじするのなら、あとで一人になってからゆっくりとしよう。


「二人とも……無事みたいだね」


 まずはそれだけで一安心だ。ほっと息をつく。


「あの程度心配いらぬぞ? 妾強いからのう」


 ふふんと得意げな様子がまるで自慢する子供のようで微笑ましい。撫でておこう。


「うっ! そ、そうじゃな。成果には報いるのがよき長というものじゃ。妾結構がんばったからもっと撫でるがよい」


 長ではないけど、少しでも喜んでくれているのなら言われたとおり撫でておこう。

 ひとしきりシルビアの頭を撫でてから、手を頭から離すと、アリシアがこちらに詰め寄った。


「わ、私もがんばりました! 勇者たちを倒しましたし、王女が気絶したから森の入り口まで運びましたよ!」


 そう言ってお辞儀するような姿勢で、俺の方に頭を向ける。

 いいのかな。まあ多分平気だろうとアリシアの頭も撫でると、とても満足そうだからきっとこれで正解だったようだ。


「うふふ」


 しかし、勇者を倒して王女も撤退したってことは、すべて予定通りってところか。

 あとは勇者たちには、しばらくフィルさんと生活してもらって、頃合いを見て国に帰ってもらうと。


「あとは、フィルさん次第ってことだね」


「ええ、あの方もようやく国を背負う決心がついたようですから、これからはうまくやっていけるはずです」


 アリシアの真剣な声からは、フィルさんに多くの感情を含んでいるように聞こえた。


「あと、もう少し強くというか乱暴にしていいので、力を入れて撫でてくれると私が喜びます」


 あまり乱暴にしたら嫌がると思って軽く撫でてたけど不満みたいだ。

 ガシガシと頭を撫でてみると、なんだかさっきより満足そうにしている。


 待ってただけだから当然なんだけどまるで実感がわかないな。

 でも、これで終わったんだなあ。


    ◇


 王女や騎士が森から撤退したようなので、俺たちはフィルさんのところへと向かった。

 これまでは二人だけで住んでいた住居だけど、今では二十人ほどの勇者がいるので随分と賑やかそう……いや、そうでもないな。なんかどんよりした空気がこっちにまで伝わってくる。


「こんにちは~」


 刺激しないようにまずは俺一人で家の中に入ると、恐る恐る挨拶をしてフィルさんを探す。

 彼女はルビーさんと一緒に勇者たちになにか説明をしているみたいだった。


「あ……ちょうどいいですね、みなさんあの方が今話したアキト様です」


 俺のことを話してたらしく、フィルさんの声に勇者たちが俺の方へと振り返る。


「えっ、本当なの? フィル様の妄想じゃなくて」


「じゃ、じゃあ、他の男と違うっていうのも本当のこと?」


「そういえば、ここに入るときに挨拶してくれた気がする……」


「うそっ!なんでそんな貴重な体験をボケっとして聞き流してるの私は!」


「みなさん落ち着いてください。アキト様はちゃんと実在していますし、優しい方です。だからと言ってご迷惑をかけないようにしましょう」


 引率の先生みたいだなあと思っていると、勇者たちは徐々に落ち着きを取り戻し、喧騒が止んでいった。


「タイミングが悪かったかな。邪魔してごめん」


「いえいえ、ちょうど説明が終わったところだったので、むしろとても良いタイミングで訪問してくれましたよ」


 この人も随分明るくなったよなあ。やっぱり環境が悪かったからあんなに塞ぎ込んでいたんだろう。

 だからこそ、似た境遇に思える勇者たちも、ここでの暮らしで元気になってほしいものだ。


「生活が落ち着くまでは、定期的にここにきてもいいかな? 俺に手伝えることがあったらなんでもするから」


「それは……ありがとうございます。いいですか、みなさんアキト様にとってはこれが普通です。だからといって慣れてしまうと後で苦労しますし、お言葉に甘えすぎると怒られるので自重してくださいね」


「む、無理でしょ……」


「生殺し……」


 俺は別に怒りはしないんだけどな、でもこの世界の男の人は女の人と会話もしないらしいし、慣れすぎると大変ってのはそうなのかもしれない。

 ともあれ協力も申し出た以上は、当然会話も必要だし、ある程度は慣れてもらう必要もあるんだけどね。


「まずは人が増えたので家事を分担しましょうか。とくに食料を調達しないと今ある分だけだとこの人数では全然足りません」


 フィルさんの号令により勇者たちは動き出した。

 食料調達担当は今から外に出て森を散策するようだ。

 残った者たちは掃除や洗濯等を分担して行うようで、すでに取りかかり始めている。

 戦闘で汚れた服を洗濯するために、皆一斉に服を脱ぎ……


「待った! ごめん!すぐ出ていくから!」


 俺がいるのに誰一人躊躇いなく服を脱ぎ出したよあの人たち……

 あまりの勢いのよさに半裸の美女だらけの空間に突如迷い込んでしまい、焦りながらもなんとか家から出ることだけはできた。

 こういうのも普段男の人がいないからなんだろうなあ……


「なにかあったんですか?」


 不思議そうにするアリシアだが、そんな純粋な顔を浮かべないでくれ、今の俺にはそれが辛い。


    ◇


「えっ……私たちに謝ったの? なんで?」


「むしろこっちが謝らないといけないはずなのに……」


「国で管理してる男の人の前でこんなことしたら、怒鳴られるよねふつう」


 フィルの妄言と思っていた他とは違う男が突如現れたことにより、勇者たちは勇者たちで混乱していた。

 しかも、そんな男とこれから森の外を共に歩くというのだ。

 彼女たちが出発を急ぎ、汚れた服をその場で脱いだのもしかたがない。

 だが、そこでようやく彼女たちは秋人が目の前にいることを思い出して失態に気づいた。


 自分たちの半裸を見せるなんて、男からしたら変なものを見せるなと怒っても文句は言えない。

 そう思っていたのに、あろうことか謝罪をされたことでさらなる混乱を招いたのだった。


「いや、顔が赤くなってたから絶対怒ってたよ」


「でもそれを表に出さないだけでも他の男の人とは違う」


「どうしよう……たしかにアキト様に慣れたらもう戻れない気がする……」


「と、とにかく早く着替えないと! アキト様を外で待たせてるのよ!」


 その言葉にはっとして、勇者たちは支度を済ませるのだった。

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