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男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった  作者: パンダプリン


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第131話 竜の国に白鳥の足

「そういえば、シロとフィオちゃん以外の獣人見たことないな」


 そこそこ広い森だけど、獣人は住んでいないのだろうか。


「フィオさんは、前に一度お会いしましたけど……シロさんってどなたですか?」


「さっき言った、すごいかわいい獣人の女の子だよ。なんか初めて会った気がしないんだ」


「そんな……私たちの知らないところで、アキト様がまた女の子を誘惑しています……」


 人聞きの悪いことを平然と言ってくれるじゃないか。

 頬をつねってお仕置きしようと思ったけど、最近だと慣れてしまったんだよな。

 というか、最近のアリシアはそれを期待しているふしさえある。


「つねらないんですか?」


「変なことを期待しないように」


 引っぱりやすいように、頬を俺の手元に近づけるアリシア。

 俺が何もしないとわかると、彼女は残念そうに下がった。


「そういえば、兎の獣人なら森の入り口付近におったような気がするのう」


 シルビアが、ふと思い出したかのように言った。

 そうか、他にもいたのか。獣人。

 初めにソラに森を案内してもらったときに話にあがらなかったけど、森の入り口なので会いに行くつもりがなかったからかな。


「あやつら頻繁に森と外を行き来して、森に住んでおるのかいまいちわからんがのう」


 ソラは興味なさそうにしていた。

 なるほど、森の住人といえるか微妙なところだ。


「コボルトもそのあたりに住んでたよね? そもそも、コボルトって獣人なのかな」


「あれは魔族ですね」


 俺は見たことないけど犬と人の中間っぽいらしいし、てっきり獣人かと思っていた。

 いまいちわからないな。魔族とか獣人とかの見分け方。


「コボルトこそ、もうこの森におらんぞ?」


「えっ、なんで?」


 もしかして、俺のせいでこの森に来る者が増えたから、入り口に住んでいる種族への負担が増えたのだろうか。


「魔力の暴走が完治したオーガやハーピーが、以前より強くなったからのう。恐ろしくなって逃げたんじゃろう」


 まさかの外からではなく、内からの重圧のせいだった。

 そして結局、俺のせいだった。

 このぶんだと、たぶん兎獣人たちも同じ理由だな。

 俺は姿も知らないコボルトと兎獣人たちに心の中で謝るのだった。


    ◇


「ビューラ様! 獣王国からの使者を名乗る者たちが現れました!」


「使者ですか……? そのような話、聞いていませんけど」


 獣王国から? おかしいですね。使者が来るなんて話は聞いていません。

 なにか急ぎの用向きでもあるのでしょうか?


「数名の獣人たちですが、追い返しますか?」


「武器はもっていますか?」


「いえ、武器もなく魔力もそこまで高くありませんし、こちらへの敵意も感じません」


 配下の竜からの報告に少々の違和感を覚えつつも、私は使者たちを通すことにしました。

 どうやら、こちらを狙っているというわけでもなさそうですし、連絡が遅れているだけだったのであれば、使者を追い返したことで、せっかくの友好関係にひびが入ります。

 まずは、会って話だけでも聞いてみましょう。


「偉大なる竜の女王様。この度はお目通りいただきありがとうございます」


 招いた使者たちは平伏すると、こちらへ拝謁しました。


「使者が来るとは聞いていませんでしたが?」


「なんと……それは、申し訳ございません。どうやら行き違いがあったようですね」


 誠心誠意からの謝罪をすると、そのお詫びなのか元々の手土産だったのか、彼女たちは様々な食料を献上しました。


「これらの献上品は私たちの国の特産品であり、どれも貴国には存在しない物と存じます。貴国とのさらなる友好関係の発展を願い、贈らせてください」


 たしかに、どれもこの国では見かけない珍しい食料ばかりですね。

 肉に魚に野菜に果実。あれは一見すると宝石のようですが、やけに良い匂いですね。食べ物なんでしょうか?


「そうですか。ありがたく頂戴いたします。どうか、ごゆっくりしていってください」


 受け取ってしまったからには、もてなさないわけにもいきませんね。

 私は配下に命じて、使者たちを客間へと案内させました。


「あの、ビューラ様?」


「どうしました?」


 一頭の竜が私に遠慮がちに尋ねてきます。


「使者たちをこの国に滞在させてよろしいのでしょうか? 本日は余計な者がいないほうがよろしいのでは……」


「さすがに、献上品を受け取ってすぐに帰れとは言えません。ですが、ちょうどよかったかもしれませんね。まだ、わだかまりが残っている者もいるはずですから、その者たちには下手に会わせないほうがいいでしょう?」


「そうですね……では、その者たちには使者の相手をさせるということですか?」


「ええ、すみませんが、そのように手配しておいてください」


 私のお願いにうなずくと、彼女はすぐに城内にいるシルビア様とわだかまりがある者たちの元へと向かいました。

 ……嫌っているというわけではないのでしょうが、いまだにどう接すればいいか困っているみたいでしたからね。

 無理やり付き合わせるのも悪いですし、彼女たちにもちょうどよかったはずです。


    ◇


「う~む、どうしようかのう」


 シルビアがそわそわしている。


「あれ? まだ出かけてなかったの?」


「出かけるべきか、残るべきか、迷っておったのじゃ」


「なんでまた、そんなことを。せっかくビューラさんに頼まれたんだから、久しぶりに里帰りすればいいのに」


 先日、ラピスが先生を運んできた。

 それはまあ、いつものことになっているんだけど、ラピスは先生を運んだ後いつも俺を全力で誘惑してくる。

 アリシアと同じでアホの子なので俺も我慢できているが、やはりアリシアと同じで非常に美人なのでけっこう危ない。

 二人がアホでよかったと俺は内心感謝していた。


 そんなラピスが、この前は珍しくシルビアに用件を伝えていたのだ。

 数日くらい国に帰ってこないかと。

 なんでも、国内でのごたごたはすっかり収まっており、これならば先代女王のシルビアが国にいようが、余計な軋轢が生じることもないだろうと判断してのことらしい。


 シルビアも、わりと真面目で責任感があるほうなので、自分が去ってから数百年ぶりの国の様子を気にしていたため、ビューラさんが気を遣ってくれての提案だろう。


「う~む、しかし……」


 そんなシルビアは土壇場で怖気づいたのか、本当なら今朝この森を発つはずだったのに、いまだにこうして悩んでいる。


「なんか心配事でもあるの?」


「女神も言っておったらしいからのう。獣王国がこちらに向かっているかもしれんのじゃろ? 神狼様がおれば問題はあるまいが、妾も残っていたほうがいいのではないか?」


「心配してくれるのは嬉しいけど、あまり俺に遠慮しすぎないで家族とも仲良くしてほしいかな」


 俺の目をじっと見つめるシルビア。

 何秒かその状態が続いてから、シルビアは決心したように告げた。


「そうじゃな。主様がそこまで言うのであれば、やはり少し顔を出すことにしよう」


 それがいい。なんにせよ約束した以上は会いに行くべきだ。

 当日のドタキャンとか、向こうにも迷惑かけるだろうしな。

 結局、予定の時間を大幅に遅れて飛び立つシルビアを、俺はのんびりと見送った。

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