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男が希少な異世界の未開地に転移したら都市伝説になった  作者: パンダプリン


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第99話 その聖女は片手で竜をも屠る

「代わりにテルラを行かせようかのう」


「そういえば、主様はテルラをご存じのようでしたが、あの子もこの森に?」


 全体的に白い色をした、綺麗な細身の女の人が訪ねる。

 人間の姿になったビューラさんだ。

 他の竜たちも人の姿になってもらっているが、やはりこの人だけシルビアやテルラにどことなく似ている。


「うん。なんかいつもシルビアにいじめられている」


「愛情表現じゃ」


 また本人が聞いていたら泣きそうな発言を……

 あの子メンタル雑魚なんだから、手加減してあげればいいのに。


「でも、シルビアさんが面倒に思う気持ちもわかります。私もリティアに会いに行くときは、完璧な変装していますからね。引退した身で職場に戻っても周りに迷惑ですから」


 服を変えただけのあれは変装のつもりだったのか。

 だとしたら、みんなにばれているから無意味だよと教えてあげるべきか。


「私が、さっと行って倒してきましょうか?」


「アリシアにはお菓子をあげるから、シルビアたちのお話の邪魔しちゃだめだよ」


「わ~い」


「あ、ルピナスも欲しいです」


「じゃあ、半分こしましょうね」


 なんとか、拳一つで殴りこみに行く聖女を止めることができた。

 実際のところどうなんだろう。

 アリシアの拳骨でアルドルさんを説得したら、問題は解決するんだろうか。


「竜同士の派閥争いなのに、他の種族が助けても納得してもらえなさそうだね」


「そこが面倒なのじゃ。あいつら、竜こそ最強とか驕り高ぶっておるし、他の種族からの加勢とか臆病者扱いされて、余計に反発しそうじゃし」


 ん? いつも興味なさそうなソラが、シルビアになにか言ってるな。


「わかっておるわ……妾も、竜最強とか言って負けました! じゃが、反省したじゃろ!」


 ああ、からかわれたのか。

 満足したのか、俺の膝の上に戻ると丸まった。


「実際のところ、他の国が狙われたら、竜たちには勝てないの?」


「う~む……昔ならそう思っておったが、そこの聖女みたいなのがいたら、簡単には勝てぬじゃろうなあ」


 妖精と仲良く焼き菓子を食べている聖女を見て、ビューラさんもため息をついた。


「アリシア様のような方に、下手に攻撃をしかけてしまうと、我々の国の存亡の危機なので、勘弁していただきたいものです」


「でもアリシアって、人間の中で一番強いんでしょ。アリシア以上の人なんていないんじゃない?」


「う~ん。獣人とか他の種族は、私以上もいるかもしれませんよ?」


 この森が危険って言ってたけど、外の世界も危険じゃないか?

 というか、もしかして竜族ってそんなに強くない?


「一応言っておくが、竜族が弱いわけじゃないぞ。むしろ竜族の雑魚でも、他の種族の上位の強さはある。じゃが、それみたいにたまに生まれる怪物は、竜族よりも強い場合があるだけじゃ」


 アリシア、世界のバグだった。

 そういえば、もう一人同じような強い子いたよな。


「国同士の問題に発展するくらいなら、いっそこの森を襲わせてみんなで迎え撃つとかね」


 完全にソラとシルビアとアリシア頼みになっちゃうけど。

 この三人なら、多分無傷でなんとかできるし、被害は向こうの竜だけですむ。

 あれ、意外と穏便な提案じゃないか。


「主様、けっこう容赦なく叩き潰すつもりじゃな」


「え、だめかな?」


「いえ、しかし……さすがに私たちの問題なのに、他人に頼りすぎるのは」


「じゃあ、この森まで攻めてきてもらって、迎撃はビューラさんたちと、シルビアだけでやるとか」


「え~、関わりたくないのじゃが……」


 シルビアがまったく乗り気じゃないんだよな。


「アルドルさんに会うのが嫌なの?」


「うっ……」


「シルビア様は、昔アルドルのご機嫌をうかがってばかりでしたからね。主様の前で情けない過去を思い出したくないのでしょう」


「全部言ってしまっておるぞ!」


 顔を真っ赤にしながらシルビアが叫ぶ。

 そして、こちらを上目遣いで見ながら、ぽつりぽつりと話しだした。


「妾が、管理していたオスどもに、いいように扱われていたことは知っておるじゃろ。そんなオスどもと一緒にいるところを、主様に見られとうない……」


 どうしよう。かわいい。

 いつもの大人な女性という印象と違い、照れくさそうな様子のシルビアがたけにかわいく見える。


「え~と、俺は別にそんなの気にしないから……」


「そ、そうか……」


 なんとなくきまずい空気になったためか、ビューラさんが咳払いした。


「この森で戦うことを許していただけるのであれば、私たちだけでアルドルを迎え撃とうと思います。内輪もめしている情けないところを、他の国に知られないだけでも助かりますので」


 ああ、たしかに国がそんな状況だと、もしかしたらその混乱に乗じて攻めてくるところもあるかもしれないな。

 じゃあ、なおさら、この森でさっさと終わらせてしまえばいいんだろうけど……

 森に住んでいるみんなは、大人しくしていてくれるんだろうか。


 赤い肌に角が生えてる人とか、青い羽が生えてる人とか、巨体に蛇の尾の人とか。

 なんか、楽しそうだからと乱入しないか心配になってきた。

 念のため、みんなにも知らせておいた方がよさそうだな……


    ◇


「ビューラどもはまだ戻らないのか?」


「はい。先代を呼び戻すと言って、禁域の森に向かったきりです」


 禁域の森か。くだらない。

 手出しができないと、誰もが諦めたといわれる土地。

 そんなことだから、他種族は雑魚なのだ。

 いや、他種族だけじゃない。竜族さえも、下手に近寄ろうともしない。

 かの地へ挑む気概すらない、本当に性根から弱い雑魚しかいない。

 そして、そんなやつらにさえも、いまだ力が及んでいない自分の弱さも腹立たしい。


「これでは、先代の方が幾分かましではないか」


 単身であの森に挑んだという、先代女王のシルビア。

 そして、その女王を呼び戻すためとはいえ、群れを率いてあの森へと向かったビューラ。

 ここで森に向かうことすらしない自分や、他のメスどもよりも、あいつらの方が上等だ。

 そんなことは許されない。


「ならば、俺たちも向かおうじゃないか。禁域の森へ」


「し、しかし、あの場所は、我々でも敵わぬ者がいると……」


 これだ。いつから、竜はこんな弱腰になった。


「俺たちが後れを取ると言いたいのか?」


「い、いえ……そのようなことは」


 自分の意見さえ通せず、オスに媚びへつらう雑魚どもめ。

 お前らがその気なら、俺が支配してやる。

 竜族だけじゃない、人間だろうが、獣人だろうが、禁域の森だろうが。

 そんなに、オスに媚びたいというのなら、この俺がお前らを支配してやろう。


「シルビアもビューラも、俺にひれ伏させてやる……」

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