戻れない橋を2人で。
僕は、その時、何を考えていたのだろう・・・。
僕の幸せは、親を泣かせ、兄弟を泣かせ、友達を裏切り、職を失い、そして、莉音に全てのものを、捨てさせてまで、手に入れたかったのか・・・。そこまでして、手に入れたかったのか・・・。冷静になりそこまで、考えた事は、なかった。ただ、莉音の側にいたい。そ、思っただけ・・・。純粋に、最初は、ただ、それだけだったと思う。もうすこし、もうすこし・・・。と、思いながら、手が届きそうになると、また、遠くへ、いってしまう。手が届きそうで、届かない莉音を追いかけ始まっていた。美央の事も忘れ、この日。僕は、莉音に触れたいと思っていた。
「でさ、どうしようか?レポート出来た?」
嶺が話しかけてきた。研修も、取りあえず、1日終わり、これから、地域毎の懇親会が予定されていたが、まだ、時間があった。莉音は、嶺を警戒して、少し、距離をとっていたが、周りに知っている人がいないと、結局、2人で、話をする事となっていた。堅苦しい研修も終わり、頭も体も疲れていた。
「うーん。いまいち、資料が集まらなくて」
莉音は、頭痛がしていた。ここんところ、公私共々、忙しかったせいか、気の休まる時がなかった。
・・・あんたのせいよ・・・
思いながら、
「疲れてるんだけど、いまいち、資料がなくて」
気のない返事をした。
「資料あれば、まとめられる?僕がやりますか?なんか・・・」
嶺が、莉音をじっと、みつめた。
「顔色良くないですけど・・・」
「うん。ちょっと、疲れてるだけ。あとで、資料届けるから、少し、部屋で休んでくる」
莉音は、心配する嶺を後に、部屋に戻っていった。
しばらくすると、莉音の部屋をノックする者がいた。嶺だった。
「顔色良くなかったし、疲れたのかなと思って。これ」
嶺が差し出したのは、ピンクの箱に入ったケーキだった。美央も、疲れると甘い物を好んだ。
「あっ・・・。」
莉音は、嶺の気遣いが嬉しかった。
・・・資料を渡さなきゃ・・・。
莉音は、後ろを振り返り、いつの間にか、部屋に嶺が入ってきている事に、気がづいた。
「この間の事。覚えてる?」
嶺が、真剣な声で、後ろから、聞いた。
「えっ?忘れてたんじゃ」
笑いながら、莉音は、振り返ろうとしたが・・・。また、嶺に、後ろから、抱きしめられてしまった。
今度は、強く、細い莉音の体を抱きしめていた。
「どうして?」
嶺が、苦しそうにいった。
「どうして?1人じゃ、ないんだ・・・」
嶺の唇が、莉音の唇を挟んだ。この間とは、全く、地学、激しく、莉音の唇を求めた。莉音は、今回も拒まなかった。というか、拒めなかった。自分は、初めて、見た時から、嶺に魅かれる予感がしていた。
でも、それは、認めては、いけない思いで、今は、人妻なのだ。一生をともにする穏やかな人が、待っている。今更、この若い男性と恋愛の海へ漕ぎ出す訳には行かないのだ。彼との、恋愛は、莉音を、傷つける。愛しては、いけない。それなのに、莉音は、嶺を受け入れようとしていた。そのまま、嶺は、莉音を求め続け、戻れない橋を渡ってしまった。