恋心
不倫は、周りを不幸にする。
誰かが、言っていた。そのとおりだと思っていた。でも、そんなのは、自分ねは、関係ない。自分には、美央という恋人がいるし・・・。美央から、頻繁に来るメールを煩わしいと思う事は、あるが、取りあえず、上手くいっている。そう、思っていた。最近までは。メールを知らせる音が鳴る。つい、あわてて、送信元を見ると、美央だったりして、がっかりする。そんな事が続いている。
・・・何故、がっかりする?・・・
嶺も、わかっていた。誰に魅かれ始めているか。でも、それは、気づいては、いけない。彼女には、家庭がある。これから先には、踏み込めない。まだ、新婚では、ないか。落ち着かない日々が、続いていた。美央とは、長い付き合いで、親同士も、互いが、結婚すると思っていたし、自分もそのつもりでいた。もう少し、仕事が、落ち着いたら、クリスマスには、プロポーズするつもりで、お金も貯めていた。
・・・それなのに、どうして・・・
自分でも、わからない。あまりにも、嶺のメールの様子が、おかしいと感じたのか、ついに、美央が、嶺のマンションにたずねて来た。長身
の人目をひく、美人だった。
「何か、作ろうか?」
嶺が、声をかけた。あまり、美央は、料理が上手では、ない。1人暮らしの長い嶺が、料理をする事が、しばしばある。
「うん。嶺のカレーが、食べたいな。久しぶりに」
嶺は、黙って、キッチンに立った。こころここにあらず。である。今頃、莉音も食事を作っているのだろうか。旦那さんのために。ため息が、もれた。
「嶺、最近、変」
後ろから、美央が、嶺を抱きしめた。
「何か、あったの?美央寂しいんですけど」
嶺は、美央をそっと、抱き返した。莉音は、手が届かない人。一緒には、なれない。考えるのは、よそう。自分は、美央と生きよう。
月も、末になり、忙しい日が、何日か過ぎた。莉音も、あの夜の事を、忘れようとしていた。当の本人も、いたって変らぬ様子だし、
・・・ここは、大人の女として、びしっとしなくては・・。
などど、考えて、異常な程の、テンションの高さで、月末処理をこなしていた。仕事をしていた方が、何も、余計な事を考えないで済む。嶺の事や、旦那の事を考えると、ミスが増えた。
・・・あれは、事故。事故なの・・・
残業も自ら、名乗りでた。・・・と、ここまで、何事もなく、過ぎていった。
「研修にいってほしい」
「はいい?」
莉音は、隣の県で行われる、研修に、1泊で行く事になった。
「何名か、他の部署から、出席するかもしれんが」
莉音が、出席者名簿に、目を通すと、今は、あまり見たくない名前が・・・。
・・・七藤嶺・・・
「業務命令だからな」
部長が、笑った。別に、嶺との、関係を知って、笑ったのではなく、あくまでも、莉音が、新婚なのに、1泊を渋っているように、見えたのであろう。
・・・困った・・・
たしかに、他に、何名かは、いる。でも、本当に知らない人ばかりだ。
・・・しかっりすれば、大丈夫・・・
莉音は、命令書を、強く握りしめた。何かが、崩れていく。そんな気がする。