君求む。
仕事をしていても、身が入らない・・・。自分は、何をしたのか?判っていた。唇が、覚えてる。
・・・これは、いけない事だ・・・
莉音は、判っているつもりだ。嶺を好きなのかも、知れない。自分が、美沙との橋渡しをしている時、嶺と話す事が、どんなに、楽しかったか。でも、自分には、待っている人がいるし、嶺にだって、可愛い彼女がいる事は、知っていたでは、ないか。
・・・自分達は、大人だ・・キスぐらいで、こんなに、揺らぐなんて・・・。
莉音は、かぶりを振った。出張から、帰って来た時の夫の顔を思い出そうとしていた。優しい笑顔で、莉音を、みつめていたでは、ないか?自分だって、疲れているのに、夕食を作って待って、いてくれたり、洗濯だって、一緒に干して。これ以上の幸せは、ない筈なのに、どうして、自分は、嶺に揺らぐのだろう。莉音は、苦しくなっていた。
・・・お酒の席の事。はずみよ。はずみ・・・
莉音は、無理に思い込む事にした。
「莉音さん?」
誰かが、話しかけてた。
「?」
莉音が、顔をあげると、そこには、嶺の顔があった。莉音は、目を合せられなかった。
「まったく。」
嶺は、かがんだ。
「罪作りですよね。」
莉音の耳元で囁いた。
「届いてます?」
「何が?」
莉音は、赤面していた。
「だから」
嶺は、笑った。
「報告書ですよ。英さんが、できないから、残業になって、帰れないって、女の子達泣いてますよ」
「!」
嶺は、笑いながら立ち去った。そうだ、嶺との事に気をとられ、すっかり、仕事が手間どっていた。それを、原因である嶺に指摘されるなんて。
「もう!誰のせいよ」
・・・ばからしい・・・
莉音は、悩むのをやめた。あれは、お酒のせいだ。そう、思う事にした。誰にも、言えない。このまま、忘れよう。あの後、美沙が、2人で、何処行ったの?とか、いろいろ五月蝿かった。言い訳もせず、
「秘密」
と言って、わざと、謎めいて、ごまかしておいた。
「メールが、こないの」
美沙は、言った。
「誰から?」
莉音は、判っていて、聞いてみた。
「嶺君」
「ふーん。仕方ないんじゃない?だって、彼女いるって、知ってて、狙っていたんでしょ?」
「まあねー。」
いかにも、関心ありませんって、感じで取り繕った。・・・が、莉音には、メールが届いていた。内容は、特別な、ものでは、なく。今日の夕日が、綺麗だから、観てください。とか、煮物の作り方とか、些細な事で、メールは、続いていた。このあいだは、カレーの美味しい作り方を聞いてきたが、後から、きたメールには、
・・・結局、友達がきて、ラーメンを食べに行きました・・・
と、あった。
「友達?彼女でしょ」
メールをみた、莉音は、携帯を、ベットに放り出した。