秋花火は、君と。
思えば、僕は、君との時間を、少しでも大切にすれば良かったのかもしれない。一緒に居る時間を大切に、大切に。逢っている間は、楽しくて、そんな事、感じる事さえ、なかった。何よりも、一番は、君を傷つけてしまった事。周りを、傷つけてしまうのを恐れ、僕は、一番大切にしなければ、ならない君を、傷つけてしまった。僕らの、恋の始まりは、世間でいう不倫から、始まった。不倫と言っても、君は、花嫁になりたてだったから・・・。いや。やはり、そうなのかな。人の物だからね。(笑)
君と出逢わなければ、君は、普通にあの人と、生活を続ける事が、出来たのだろうか?僕は、美央と結婚し、子供をもうけ、新たに恋する事もなく、平和に生活したのだろうか・・・。結婚してしまえば、恋をする事なんて、ないのだろうか・・・。僕らは、あの瞬間に、恋をしてしまった。出逢わなければ、良かったのか?それは、わからない。でも、僕は、莉音に逢えて、良かったと思う。それが、君も、同じく思うかは、わからないが。君への思いは、僕に力をくれた。今までに無い、エネルギーとなって、僕を支えてくれた。人を、傷つけない恋なんて、あるのだろうか・・・。
莉音。僕は、君に逢えてよかったと思うよ。後悔するとしたら、もっと、全力で、君を愛し抜けなかった事。もっと、自分の気持ちに、正直に、君への思いを貫けばよかったと後悔している。周りを、傷つけずに、愛しぬくなんて、出来る訳が無いよね。あの時、もっと、はやく、君を、奪えばよかった。君だけへの、気持ちで、行動するには、若さが、ほしかったよね。
やっぱり、夏の終わりの、花火は、みれなかったね。どうしても、秋花火を莉音は、見たいといって聞かなかった。時間が、せまっていた。ドナーが、現れていたとしても、心臓は、手術に耐えられないところまで来ていた。それでも、秋花火を、見たいと言ったんだ。秋の終わりに見る花火なんだ。当然。山から、来る風は、冷たく、弱っていた君の体を痛めつける。莉音は、あの白いワンピースを着ると言って、きかなかった。寒いかもしれないと言って、来夏さんの用意したカーディガンを、羽織って、病院を、抜け出した。このまま、居ても、もう、二度と、花火を見れないと思ったんだ。莉音は、嬉しそうだった。また、前の元気な頃の、莉音に、戻っていた。
秋花火を見るんだ。君と。いつか、約束した秋空に散る哀しい花火を。
「来年は、何してると思う?」
莉音は、僕の腕の中で、空を、見上げていた。音とともに、縦に横に花火が、散っていた。遠く山々からの、風は、冷たく晩秋を、知らせていた。
「来年も、一緒に居ると思う」
ふっと。莉音は、笑った。
「そうだよね」
「やっと。一緒になれたんだ。ずーっと、いっしょにいると思う」
莉音の、白い顔が、花火の明りで、はっきりと見えた。あぁ・・。僕の好きになった人の顔だ。よく、見ておこう。この瞳が、僕をよく、見つめていた。忘れる事は、ないだろう。この人と、出会って、僕は、本当に、人を、愛する事を知ったんだと思う。莉音。今、君は、何を、思っているんだい?僕と出逢って、君は、幸せだったんだろうか。
「嶺と、逢えて、良かった。」
僕の気持ちが、届いたのか、莉音は、そう答えた。
「哀しい事も。嬉しいことも、全て、嶺からだった。でも。嶺が、あたしに、生きていく楽しさを、教えてくれたの。」
莉音の、瞳が、僕の姿を映していた。
「嶺。」
かすかに、睫が、震えていた。
「ねぇ・・・。」
莉音が、甘えた声を出した。
「なんか・・・。疲れたみたい。寝てもいい?」
「いいよ。」
莉音の、目尻から、涙が、あふれていた。
「起きるまで、傍にいてね」
「わかっているよ。莉音。傍にいるよ。ずーっと」
莉音は、目を閉じていた。目尻から、細く涙が、伝い落ちる。莉音の、僕に、触れている手が、少しずつ、冷たくなっていった。
「莉音」
白いワンピースが、まるで、花嫁衣裳のように見えた。
「綺麗だよ。莉音」
冷たくなっていく莉音の頬に、僕は、頬寄せた。花火の時期は、もう終わだろう。
莉音。僕は、君を、忘れる事は、できないだろう。花嫁姿の君に恋し、はじまった恋。君を愛する事は、とめられなかった・・・・。
莉音。
君を永遠に愛し続ける・・・。永遠に。