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君と一緒に。

「今まで、何度も、こんな症状が、あった筈です。」

硬い表情で、嶺は、告げられた。急遽、よびだされた莉音の、妹も、説明に付き添って、いたが、あまりにも、子供達がぐずるので、廊下で待つ事になった。以前の事故の事。妹宅に、身をよせてる時も、あまり病院に、行こうとしなかった事や、時々、具合の悪い事が、あった事を、妹から、聞かされ、ようやく、嶺は、事の、重大さに、気づいた。もう、時間が、そこに、せまっていた。自分が、躊躇していたのが、間違いだった。

「もう、心臓が、持たないかもしれない。」

医師の、説明を聞き終え、面談室から、出てきた嶺は、悲痛な、面持ちで、妹の来夏の、隣に、体を、投げるように、腰かけた。

「移植できれば、希望は、持てるが、秋まで、ドナーが、みつからなければ・・・。」

こんな事、ある筈が無い。ようやく、莉音と、一緒に生きていこうとしていたのに。これから、二人で、生活していけるとばかり、信じていたのに。今、自分達に、おきている、事実を、受け入れる事が、できないで、いた。莉音の、心臓は、もう限界が来ていた。

「今、莉音が、いなくなるなんて・・・。信じられない。」

「嶺さん。姉は、あの事故で、助かったのだって、奇跡なんです。今、こうして、いきていられたのだって・・・。」

「希望が、持てたんだ・・。もっと、生きていなきゃ。」

生きなきゃ・・・。後は、言葉にならなかった。湧き上がる言葉は、反省と、悔しさ。恨めしさ。いろんな感情が、湧き上るが、嶺は、言葉にする事もできず、黙って、唇を、噛み締めていた。来夏と、肩を並べて、すわる暗い廊下に、子供達の、寝息だけが、聞こえていた。


嶺が、莉音と面会を、許されたのは、それから、1週間ほどしてからで、あった。その間の嶺あh、莉音の病室を、窓の外から、見上げるだけの日々が、続いた。美央は、莉音の事があった日から、実家に戻り、嶺とは、近況報告の電話をするだけで、お互いに、今後について、話す事は、なかった。嶺としても、莉音の件が、あるので、美央と離婚をしたいと、思うのだが、家族の手前、なかなか、話し出せないでいた。美央の口から、本当の事を、言ってくれれば、すぐにでも、離婚の話が、すすむのだが、思うどうりには、いかない。拓斗を、問い詰めようか・・・。そう思った事もあるが、拓斗の、家庭の事を、考えると、先には、すすめない。思案している内に、美央から、電話があった。

「嶺。聞いたわ。莉音さんの事。」

「直接、会って、話そうと思っていたんだ。君と・・・。結論を出さなければ、いけないと思ってる。」

「やっぱり・・。どうしても、そうなのね?」

「お願いだから・・。美央。俺、みっともないかもしれない。だけど。莉音と、本当に、一緒になりたい。ずーっと。一緒にいたかったんだ。」

「あたしに、それを言うの?」

「許してほしい。」

「・・・・」

美央は、黙った。

「もっと、早く、言えばよかった。莉音といる時が、一番、安心するんだ。守りたいんだ。もう、後悔したくない。」

美央は、笑った。

「何を言っても、ダメみたいね?」

「時間が、ないんだ・・・。」

「あたし。昔のあなたが好きだったみたい。今は、もう、違う人なのね。」

独り言のように、呟いた。

「あなたと、赤ちゃん。育てたかったな・・・。」

「それは・・・。」

「いいの。嶺。もう、自由にしてあげる。」

美央にも、プライドがある。

「サインして、送るわ。あたしにも、プライドがある。親には、適当に言っておく。この子は、あたしが、育てるから・・・。」

嶺が、返事をしようと、する間もなく、携帯は、切れていた。間もなく、一通の、封筒が、届いた所で、面会の許可がおり、莉音と、久しぶりの逢瀬という事になった。


「待ってた」

病室の戸を開けると、そう、あの日と、同じように、莉音は、窓際の、ベッドに、上半身をおこし、こちらを、みつめながら、笑みを、浮かべていた。

「足音で、すぐ、嶺だとわかったの」

あの夜の事なんて、忘れたかのように、莉音は、話かけた。

「嶺に、言わなきゃならない事、たくさんあって・・。」

莉音自身隠していた、病気の事。もう、医師から聴いて、知っていると嶺は、笑って見せた。

「ばれちゃった?」

「うん。全部。」

嶺は、莉音の、隣の腰かけた。

「もう、嘘は、ない?」

「あるかもしれない。」

「何?」

嶺は、莉音に尋ねた。

「ずーっと、一緒に居るって、嘘」

莉音は、答えた。目が、潤んでいた。

「一緒に、いようよ。」

嶺は、莉音の、手を、とると、ポケットから、小さい箱を取り出した。

「まださ・・・。高いのとか、買えないんだけど・・・。」

照れながら、莉音の、薬指に、はめた。小さいダイヤの入った指輪だった。

「俺。決めたんだ。ずーっと、一緒にいるのは、莉音だって」

「だけど。あたしは・・・。」

生きられないよ・・・。そう言いたかった。

「いいんだ。やっと、なんだ。やっと、一緒になれるんだ。ほんの、すこしでも、時間を、共有したい」

嶺は、莉音を、そっと、抱きしめた。壊れ物を、抱くように・・・。いつの間にか、細くなった莉音の体だった。こんなに、彼女は、細かっただろうか・・・?

「結婚できるよ。莉音。俺達、堂々と、街を歩けるんだ。二人。祝福してもらえるんだ。」

「嶺。」

「やっと・・・。莉音。」

莉音の、薬指に、小さな小さなエンゲージリングが、気高い光を放っていた。






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