運命は、からまる糸と。
「どうして・・・。嶺。それは、ひどすぎる」
莉音までもが、涙目になって、携帯で、話終える嶺に、詰め寄った。人は、どうして、本当の、愛を追求しようとすると、周りを傷つける事になるんだろうか。嶺の、自分への、気持ちは、物凄く、嬉しい。だけど、今の、美央の体の事や、嶺から受けた言葉を、考えると、自分の事のように、辛かった。恋しくても、手に入らない辛さは、自分も、よく知っている。好きだからこそ、最後の心の力を、振り絞って、別れたのだ。美央を、傷つける気持ちなんて、毛頭もない。
「美央さんと争う気はないの。もう、静かに、暮らしたかったの。嶺。あたしは、もう、いいの」
車を、停めてほしい。自分を、帰してほしいと、何度も莉音は、嶺に告げたが、嶺は、莉音に、切ない顔をするだけで、車を、停めてくれる事は、なかった。
「莉音。俺が悪いんだ。君への最初の、思いを貫けばよかった。迷いがあったんだ。迷っている間に、傷が、どんどん深くなる。莉音。運命って、あると思う。俺は、莉音と添いたいと、思っている。その気持ちを、貫くのも、今まで、傷つけた人に、報いるためだよ」
嶺は、タクシーの、後部席で、しっかり莉音に、向き合った。
「莉音。もう、二人だけの問題じゃないんだ。一緒に、生きて行きたい。しっかりと、三人で、話し合おう」
嶺は、莉音を、抱きしめた。
「もう、だめなんだ。また、居なくなるんじゃないかと思って・・・。不安で。不安で。この気持ちのまま、生きて行く事は、出来ない。」
莉音の手が、嶺の腕に、触れた。
「約束どうり、秋花火の頃には、一緒にいよう。もう、少しだよ・・。莉音。俺は、一緒にいるだけで、いいんだ・・・。」
莉音は、答える代わりに、嶺の、肩に、そっと、頭を、のせた。
「だから・・・。莉音。美央を、幸せにする為にも、このままじゃ、ダメなんだ。判ってくれるね?」
「嶺。私・・・。美央さんを傷つけたくない」
「俺も、同じだよ」
車は、橋を、渡り切ろうとしていた。水面に、街の、イルミネーションが、反射して、綺麗だった。
いつの間にか、美央は、拓斗の、マンションの前にいた。もう、夜遅く、近くの公園で、遊ぶ子供達の声もない。12階建ての、マンションは、闇夜に、つめたく、白く反射して見えた。
「体、冷えてるよ・・・。」
拓斗は、エントランスから、出てくると、奥さんの物らしき、カーディガンを、美央に、はおらせた。突然訪れ、インターホン越しに、聞いた拓斗の声は、どんなに、驚くかと、思ったが、意外に、冷静で、むしろ、美央が、訪れた事を、喜んでいるようにも、みえた。
「ごめんなさい。突然。奥様に、迷惑よね?」
「うちのやつ。今、実家なんだ。」
拓斗は、笑いかけた。
「何が、あったかは、聞かないけど・・・。あまり、いい話じゃ、なさそうだな」
拓斗は、美央が、裸足で、薄着しているのを、みながら言った。
「とにかく、妊婦さんには、早く、中に、入ってもらおうかな」
美央の、背中を、そっと、押しながら、言った。
「結局、嶺じゃ。だめなんだよ。美央」
美央は、俯いた。
「どんなに、好き合った時が、あったとしても、その時期が、過ぎてしまうと、もう、戻れないんだ。この、運命だけは、変えられない。嶺は、だめだよ」
声を、押し殺して、泣いているのが、判った。
「俺もさ・・・。嶺を、何度も、説得したの。だけど。こおいう事なんだ。」
エレベーターの、スイッチを押し、美央の、肩を、抱いた。
「俺も、昔。見ていた事が、あったんだけどね」
深いため息が、拓斗から漏れた。
「俺なら、幸せに、する自身があったんだけど・・。」
小さく拓斗は、呟いた。美央に、聞かれないように。