そして、君と。
来夏の家の、戻るには、長い坂を、上りきって、細い路地裏に入らなければ、ならない。夕焼けが、綺麗だった。たくさん、お店の、パンを、お土産に、もらった。
「今日は、無理に出てもらったから、早めに、あがって」
思いがけず、早く、帰れる事になった。早く、帰れたから、焼肉でも、食べに行こうか?と、電話しようとして、携帯を、忘れた事に、気づいた。帰ってから、出掛けても、いいと思い、来夏の子供達の為に、お店の、格安パンを、買いこんでしまった。子供達は、パン好きだ。ついでに、自分の好きなイチゴジャムや果物のシロップ漬けも、買った。
もう、すぐ、陽が暮れる。以前、余りにも、夕陽が、綺麗だったので、嶺に、写メを、送った事が、あった。
・・・嶺・・・
忘れようと、しても、心の、奥底に、住んでいる人。忘れようと、すれば、するほど、彼の色が、濃く残っていく。
・・・逢いたい・・・
正直に、言えば、嶺に逢いたい。当てしまえば、余計に辛くなるし、今までの、忘れようとした努力が、無駄になると、自分に、言い聞かせ、ここまできた。一緒に、住める世界の、人で、ないと、何度も、自分に言い聞かせた。・・・けど、心が、彼を、求めている。
・・・無理なのに・・・
莉音は、ため息をついた。
・・・と。
手が、滑り、別に、持っていたシロップ漬けが、転がり落ちた。
・・・あぁっ!・・・
拾おうとして、地面に、つまずき、思わず、転倒してしまった。
・・・まったく・・・
そそっかしい。よく、嶺に、笑われたっけ。莉音は、一人、失笑した。
「相変わらず、だよね?」
目の前に、手が差し出され、体が、浮いた。聞き覚えのある声。顔。そして、匂い。
「嶺」
反射的に、嶺から、逃げようとした。
「だめだよ!嶺」
いけない。この人には、あの人が、いる。若く、綺麗な、あの人が。
「ダメなのは、莉音だよ」
嶺は、逃げようとする莉音を、後ろから、抱きしめた。
「もう、居なくならないで」
力強い嶺の、腕の力だった。忘れようとしても、忘れる事は、出来なかった。何度、抱きしめて欲しいと、願った事が・・・。肩の、力が抜け、自然に、嶺の、唇を、求めていた。