2人は、すれ違う。
「急に、帰ってきたと思ったら・・・。お姉ちゃん。少しは、元気でたの?」
莉音は、妹の、家に居た。
「事故の時も、行けなくて。ごめんね。子供を見てくれる人もいなくて」
莉音のあしもとで、まだ、6ヶ月にも、満たない幼子が、遊んでいた。
「うん。いいの。」
「こんな時、親が、居てくれたらって、思うんだけど。」
妹の、来夏は、幼子を、抱き上げた。
「お姉ちゃん。離婚するの?何回も、義兄さんから、電話があった。離婚届けに、サインしたまま、いなくなったって。」
「うん」
「また。生返事・・・。ちゃんと、話しあった方が、いいんじゃないの?電話にも、出ないんじゃ進まないし、具合だって、よくないんでしょう?」
莉音が、突然、夜中に、尋ねて来た時は、驚いた。事故で、重症を負い、入院したと聞いて、病院に、何度か、行こうとしていたが、幼稚園の子供と幼子を抱え、単身赴任の夫を抱えた来夏には、身動きとれないで、いた。早くに、両親をなくし、頼れるのは、互いの姉妹だけだったが、実際の所、なかなか、会えずに居た。だからこそ、何かあったら、力になりたいと、思っていたのだが、突然、現れた莉音は、あまり、語らず、夫からの、電話で、無理に退院した事。離婚しようと出てきたこと。そして、その原因が、莉音の夫が、何か、事件を起した引き金になった事に、結びついた事であると、気付化されていた。
「病院。無理に退院してきたんでしょう?」
「・・・」
莉音は、ずっと、上の空だった。早く、嶺の前から、姿を消したいと思い。行動にでた。もう、傷付きたくなかった。嶺の事を、愛せば愛する程、傷が、深くなる。よく切れる刃物を、素手で、掴んでいるような危ない恋。全て、忘れてしまおう。そうすれば、楽になれる。嶺の事も。夫の事も。今更、やり直しても、お互い、過去に縛られ、傷つくだけ。全て、ゼロにして、新しく、生きていこう。そう決めたのに、心の奥に、染みついてる記憶。
・・・もう少しだけ・・・
いつも、そう思っていた。もう、少しだけ。一緒に居る時間を、貪っていたあの日々。嶺を、忘れなきゃ。そう、思えば、思うほど、忘れられなくなる。いっその事、憎んでしまえば、楽になれるのに、思い出すのは、明らかに、自分を、愛してくれた嶺の、輝いた目だった。嶺と、一緒にいた美央。美央の事も、最初は、憎んだ。でも、ルールを、破ったのは、自分。自分が、嶺と、結ばれなければ、一緒にいるのは、美央に決まっていた。でも、恋愛。人を好きになるのに、ルールなんて、あるのだろうか・・・。
いや・・・。だめだ。美央のお腹には、嶺の子供が、いる。その子供を、悲しませる事が、出来るのだろうか。どんな形であれ、子供を巻き込んでは、いけない。親のいない悲しみは、自分達姉妹が、一番よく知っている筈では、ないか。
「聞いてる?」
来夏だったあまり、莉音の顔色も、良くなく、食欲も落ち、痩せていく、姉を心配すると、どうしても、口やかましく、なってしまう。
「病院行ってね。ほんと、お姉ちゃん。無謀なんだから」
いっそ、莉音の、夫に、お願いしようかと、思っていたが、止めといた。姉が、離婚したいのには、最もな、理由があろのだろう。どうみても、姉には、思っている人が、いる。何度も、鳴る携帯には、出ようとせず、かといいて、着信拒否する訳でなく、時折、携帯の着信履歴を、見ている様子から、みて、誰かを、待っているようにも、見える。だが、連絡できない人なのだ。遠くから、来夏は、姉の、苦しんでる様子が、見えていた。
「ごめんね。少しは、貯金があるから。仕事が、見つかるまで、置いてほしいの。そしたら、出て行くから」
「何、言ってるの。うちは、旦那が居ない分、お姉ちゃんが居てくれると、助かるから。お姉ちゃん。あと少しすると、幼稚園バスきるから、外の空気吸いがてら、お迎えに行ってくれる。階下だから、病み上がりでも、大丈夫でしょ?階段にでも、座って、日向ぼっこしてなよ」
来夏は、少しでも、気分転換できるよう、薦めた。
「そうね。そうする」
莉音は、立ち上がった。
「行ってくる」
「お願いね」
来夏は、莉音を、外へと促した。
季節は、もうそこに、夏が迫っていた。青く、広がる空に、日差しが強い。美央のお腹も、次第に目立っていた。
「約束よ。」
美央が言った。
「私だけを見て」
婚姻届に、サインをした。2人だけの、小さな式だった。街はずれの、小高い丘にある教会。学生時代に、よく2人で、デートに来て、帰りに、アイスを食べた。美央にとっての、思い出の地。美央は、シンプルなドレスを着ていた。細い首に、飾りの花が揺れていた。
「判ってるよ。」
「愛してる?」
「・・・うん・・・」
「ちゃんと、言って」
「・・あい・・」
「?」
美央が、せがむ目をした。
「してる」
嶺の、タキシード姿に、訪れている女性達から、歓喜の声があがった。シルバーのタキシード姿が、よく似合う。俳優の誰かに、似てると、女の子達が、口にしていた。
「幸せになろう。」
美央は、嶺の手を強く、握り締めた。