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彼を託します。

「もう、落ち着いたかしら?」

突然、莉音の、前に現れたのは、幾分か、お腹のふっくらとした、美央。その人だった。

「初めまして・・・。なのかな?」

美央は、莉音に、微笑んで見せた。体調も整い、あの後、しばらくすると、すぐ、退院できた。嶺が、迎えに、来ると、いうのを、断り、美央は、真っ直ぐ、莉音の所に来ていた。今日しかない。嶺が、美央の、行動を、予想できないのは、今日だけだ。何としても、莉音に逢いたい。逢って、話がしたかった。嶺の心を、捕らえて離さない、この女性の事を、知りたい。見たかった。今まで、何度、夢の中であっただろう。どんな顔をし、そんな声で、話・・・。その唇は、嶺を、受け入れたのだろうか。その細い体は、嶺に抱きしめられたのだろうか・・・。莉音に逢い、確認したかった。

「あなたは・・・?」

莉音は、最初、不思議そうな顔で、美央を、見ていたが、すぐ、美央が、誰かは、悟ったようだった。

「もしかして・・・。」

莉音の、視線が、ゆっくりと、美央のお腹へと、下りていった。

「お腹が・・。」

「そうなの。」

美央は、自慢げに、お腹を、撫でていた。

「大好きな人の子なんです」

「嶺の?」

莉音の顔が、こわばった。

「そうなんです。」

莉音は、もしかしたら、事故の影響で、子供が、できないかもしれない。という事は、面会に来た母親から、涙ながらに聞かせられていた。

「美央さん。なのね」

莉音の、心は、勿論、穏やかでは、なかった。

「お腹の子は、確かに、嶺に子です。でも・・・。」

美央は、こわばった顔の、莉音に続けた。

「莉音さん。でもね。」

美央の、目は、真っ直ぐに、莉音を、みつめていた。莉音の、落胆ぶりが、辛い程、わかる。かと言って、莉音に、勝ったとか、そんなつまらない感情は、なかった。子供を、持てた幸せは、たしかにある。

嶺を、誰か、知らない女から、繋ぎとめる為の、計画だったが、事故の時の、嶺の、落胆ぶりを、みて、思いしった、自分へは、戻らない莉音への嶺の、気持ち。諦めていたが、もう一度、嶺と、やり直したいとも思った、倒れた時に、感じた嶺の、腕の温かさ・・・。傍に、いても、嶺の心が、戻らなければ、意味がない。このまま、嶺と一緒になれないとしても、莉音の気持ちを、確認しておきたかった。

「嶺と結婚しないかもしれない。」

あぁ・・・やっぱり。あの別れの、原因は、彼女だったのか。嶺は、子供が出来てしまい、自分と別れた。もともと、一緒になんて、なれる筈が、ないのだ。自分は、夫。そう、家庭のある人妻。自分のしている事は、世間でいう、浮気。もとい、不倫なのだ。どんなに、嶺に、愛していると囁かれようと、甘い思い出があろうと、嶺を責める事は、出来ない。気持ちの裏切りが、あったとしても、嶺は、元々、自分とは、違う世界の人間だったのだから。この美央って、人は、自分と違って、嶺を愛し、愛される資格がある。なんて、羨ましい事か・・・。でも、結婚しないなんて。

「どうして?」

莉音の声は、かすれた。

「嶺が、思っているのが、あなただから。」

美央は、自分で言ってて、哀しかった。お腹の子は、判るのか、お腹が、キュウーと苦しくなった。

「最初は、それでも、良いと思ったの。一緒に居てさえくれれば・・。でもね。」

嶺に愛される莉音が、うらやましい。

「心が、あなたの所にいってるの。それを、感じてると・・・。哀しいの」

「それは・・・。」

莉音は、なんて、言っていいか判らなかった。どんな事をしても、嶺が、欲しいと思ったばかりなのに。

「あなたの気持ちが、知りたい。嶺の気持ちが、戻らないなら、この子と二人だけで、暮らしたいの。ただ生まれてくる子供に、父親が、居ないのは、可愛そうなので、その時だけ、嶺を貸して欲しい。」

「そんな・・・。」

莉音は絶句した。普通は、どんな事をしても、別れてくれって、言う筈なのに、美央は、莉音に、嶺を、貸して欲しいと、言って来ている。自分を、立ててくれている。

「美央さんでしたっけ?」

莉音は、視線を落とした。

「いいんです。私、夫が、家で、待っててくれるんです。もう、終わらなきゃ、いけない。彼に。」

何故か、涙が出そうになる。でも、こらえなきゃ・・・。

「伝えます。彼と、結婚してください。お幸せに・・・。」

莉音は、堪えた。自分でも、いい笑顔だったと思う。感情を高ぶらせる事もなかったし・・・。美央に、優しく言えた。美央は、驚いた表情だったが、安心した表情を見せた。

「ありがとう」

笑うしかなかった。

「ありがとう」

もう、一度言うと、美央は、席をたった。綺麗な、女性だと、思った。自分と、同じラインに、この人は、立っていた。もう、女性として、比べられるなんて、たくさんだ・・・。莉音は、小さく笑った。もう、女として、比べられなくて済む。

「楽になれる・・。」

莉音は、ベッドに、ゆっくり、横になった。





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