間に立つ者。
「それで、お前、相手訴えなかったの?」
慶介が、憤慨して言った。嶺の部屋からは、真っ直ぐショッピングセンターの灯りが見える。遠く見える山のてっぺんに、何棟もの、テレビ塔が、見える。いくつもの、ネオンが、見え、様々な、光を呈している。何度、この部屋で、莉音と、この景色をみた事か・・・。
「うん。人の事、言えないと思ってさ・・・。」
嶺は、コーヒーをカップに分け、慶介に差し出した。怪我したのは、左肩ですんだので、コーヒーを分けるのは、何なかった。が、少し、痛む。
「本気で、考えなきゃ。なんだ。」
「お姫様が、目を覚ましたしな。」
「そうなんだ。」
「お前としては、どうなの?」
嶺は、カップに、唇をあてたまま、遠い目をした。
「まず、莉音は、あの旦那の所へは、帰せないと思っている」
莉音は、まだ、しばらくは、入院が、必要らしい。その後の事を、考えると、嶺は、思い悩むのだった。
「美央に、結婚を申し込んだ」
思い出して、慶介に、報告した。
「はあ!」
慶介は、呆れた。
「そこまで、責任とるのか?お前の、一緒に居たいのって、莉音じゃなかったか?」
「そうだよ。それは、変わりない」
「じゃあ、一緒にいろよ」
「居たいさ」
「お前の中途半端な、優しさが、周りを傷つけんだよ。中途半端なんだよ。美央に対しても。莉音に対しても。お前の本当の気持ちを伝えて、行動にうつす。誰も、傷つけないなんて、出来る訳がない。傷つけた分、幸せになるしかないんだよ。」
嶺は、答えなかった。ベランダに出ると、夜気が、気持ちよかった。もう、季節は、初夏にうつりはじまっていた。
「結婚すれば、気持ちは、変れるのか?」
慶介は、静かにきいた。
「俺には、二人共、不幸になるしか、思えない。嶺?莉音は、知っているのか?お前の子供が、生まれるって、話。残酷な、話だと思わないのか?」
言いそびれた、一番大切な話。莉音との、時間は、あの日止まったまま・・・。嶺と美央の、時間から、遠く隔たったままなのである。今、居る二人の、位置を、莉音が、知ったら・・・。
「様子を見て、話そうかと思っている。それで、莉音の気持ちを確認したいと、思っている。」
携帯が、美央からの、メールの着信を知らせた。
・・・おやすみなさい。・・・
美央からの、お休みメールだった。
美央は、莉音の事を知っている。莉音は、まだ、美央の状況に、気付いていない。誰か、周りから、知らされる前に、嶺は、話す必要があった。
「なるべく、早いうちに話すよ。」
嶺は、携帯を、キッチンのカウンターに、放り出した。莉音には、自分から話す。何とは無く、嫌な予感がしていた。