未来切り開くナイフ。
恋は、人を狂気に駆り立てる。陸斗あh、そんなつもりは、無かったと思う。あのまま、帰ろうと、思った道の途中で、オレンジをみかけ、オレンジの好きな莉音に届けてやろうと、果物ナイフを買い、病院に向かった。病室めで、来て、莉音と嶺のキスシーンを見てしまったものだから、逆上してしまった。前回、嶺に、莉音が、欲しいと言われた日から、その思いは、首をもたげていたのかもしれない・・・。いっその事、自分の物にならないのなら、この手で、奪ってしまおうと・・・。紙袋から、抜き取られた、光る果物ナイフは、真っ直ぐ、莉音へ、突き立てられようとしていた。
「莉音!」
黙って、莉音が、刺されるのを、見ている訳では、なかった。果物ナイフが、しっかりと刺していたのは、嶺の左肩だった。
「つぅ・・・。」
嶺は、苦痛に顔をゆがめた。が、尚も、陸斗は、手を緩めなかった。莉音を庇い、抱き寄せる嶺の腕を、振りほどき、莉音の首を絞めようと、執拗に、陸斗が、襲う。
「ナースコール!」
嶺が、手を伸ばし、コールした時に、不覚にも、バランスを崩し、嶺は、莉音をかばう形で、床に、落ちてしまった。
「大丈夫ですか?」
騒ぎを、聞きつけた隣の病室の、見舞い客が、顔を覗かせた。
「うわっ!」
見るなり、あわてて、先生と叫びながら、廊下へ、駆け出した。嶺の左肩が、変な形で、着地し、果物ナイフが、突き刺さったままだった。莉音の頭を庇いながら、ベッドから、落ちたせいか、嶺の胸に、しっかりと、莉音の体は、無事にあった。・・・が、おびただしい血が、床を染め、噴出した血液が、莉音の、顔といわず、体を染めていた。ナイフが、刺さったまま、落ちたせいで、傷が、縦に裂けていた。
「どうしました?」
ようやく、看護士が、顔を覗かせたのは、呼びつけられた医師が、来る、ほんの、少し前だった。騒ぎを、恐れ、陸斗は、姿をくらませていた。
「ちょっと、手を滑らせてしまって・・・。」
「手を滑らせたようには、見えないな」
嶺は、少しだけ、起きようとした。ものすごい、血の臭いだ・・・。自分の血液の臭いだとか、痛みだとか、その時の、彼は、感じなかった。莉音が、少し、表情を変えた様な気がした。
「莉音?」
嶺は、莉音に、向き合った。
「莉音!」
ゆっくりと、唇が、何かを、言っている。
「れ・・・い・・・?」
「莉音!」
じっと、見開く瞳は、間近に居る嶺を、見つめていた。
「莉音。」
嶺は、真っ直ぐ、莉音の、顔をみた。痛みを忘れ、久しぶりに見る愛しい莉音の顔だった。
「待ってた。嶺・・・。あたし」
莉音は、言いかけたが、すぐ、駆けつけた医師達に、引き離されてしまった。嶺は、応急処置をする為、処置室へ。莉音は、診察をする為、ベッドの、周りをカーテンで、覆われてしまった。
「莉音。莉音が・・・。還ってきた・・。」
嶺から、長く、深いため息が、溢れ出ていった。永く、永遠とも思われた深い記憶の、海から、莉音は、戻ってきた。嶺の、魂を、握り締め、今、莉音は、ようやく、嶺と、向き合う事になるだろう。