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君に住みたい。思う者。

莉音は、ずーとベッドに、座り続けていた。何を見る訳でも、なく、時折、瞬きをする瞳には、誰を写す事もなく。その瞳は、淡い茶褐色に、輝き、半眼で、自分の心の淵を見ているようにも、見えた。

陸斗は、仕事が終わると真っ直ぐ、莉音の、いる病院に、向かっていた。何度きても、様子は、変らず、どうにか、食事を、介助すれば、取れるまでには、なっていたが、自発的に、発言する事もなく、まるで、お人形さんのような様子へと、変っていた。

「俺じゃ、駄目なのか」

陸斗には、莉音が、誰を待っているのか、痛いほど、わかっていた。かといって、それを認めてしまうのは、自分の莉音への愛情を否定されてしまうようで、認められないでいた。ショックだった。友達の紹介で知り合い、ごく普通に結婚した。穏やかで、可愛い人だと、思っていた。料理好きで、一緒に、よく、料理をした。何度、思い返しても、自分の知っている莉音と、あの若い嶺という男の知っている莉音は、別の女性に思える。でも、本当の莉音は、あの若い男と一緒にいる莉音なのだろう。夫の直感だった。あんな、若い男に負けてしまう事も、プライドの高い陸斗には、耐えられない事だったが、そのプライドも、嶺と一緒にいる嶺を、見た時に、もろく崩れ果てた。

・・・この2人の間に、自分は、入れない・・・

陸斗が、感じた瞬間だった。莉音は、嶺という男を求めている。認めたくない事実だった。陸斗は、外から、莉音のいる病室の光をみつめ、そっと、帰る事にした。窓辺に、その嶺の影が、浮かび上がる事に気付く事なく・・・。



「莉音。来たよ」

嶺は、美央と、別れた後、真っ直ぐ、莉音の元に戻っていた。

「報告しなければならないんだ」

嶺は、莉音の隣に座った。

「聞いて欲しい。」

嶺は、莉音の右肩に、腕を廻した。細くて、あの日よりも、細くなりすぎた肩。長く伸びすぎた髪は、うねり、いつも、クセ毛を、嫌がっていた莉音の口癖が、懐かしい。

「莉音。一緒にいたいと、思う気持ちに変りはない。ずーと、一緒にいたい。だけど・・・。莉音。」

莉音は、嶺が、自分に話しかけるのが、わかるのか、声のする方を模索するかの陽に、瞳を動かしていた。だが、嶺の姿を、上手く、捉える事は、出来ない。

「莉音。愛してる。キスしてもいい?」

嶺は、莉音の、頭を、軽く抑え、髪を撫でた。久しぶりの、莉音との、キス。乾いた莉音の唇だったが、嶺の、唇で、少しだけ、潤った。一度、唇を離した。が、また、唇を合せたいという衝動にかられた。最初は、軽いキスのつもりだったが、嶺は、貪る様に、今までの、時間を埋めるかのように、莉音の唇を貪った。先ほど、美央と、重ねたキスとは、違う。莉音を求めるキス。

「莉音・・・。」

嶺は、莉音の額に、自分の額を押し当てた。

「莉音。あと、少ししか、時間がない。俺達、いつかは、別れなきゃ。別れなきゃっていたよね。本当は、その時は、別れなくて、良かったんだよ。」

莉音が、愛おしい。

「少しでも、一緒にいたかった。莉音。」

莉音の傍にいたい。願わくば、この心だけでも、傍に置いて欲しい。

「俺の我がままなんだ。莉音。俺さ・・・。」

もう、一度、莉音にキスした。

「美央と結婚する。」

鼻先を、莉音に押し付けた。ひんやりとする莉音の鼻先。本当に、お人形さんに、なってしまったんだろうか。

「守らなければ、いけない事が、出来たんだ。莉音。判ってくれるね?」

嶺は、莉音をみつめた。莉音の、瞳が、少しだけ、潤んだように、見えた。それは、睫をぬらし、やがて、あふれ出て、目尻をぬらし、頬へと零れ落ちていった。

「莉音?」

嶺は、両手で、莉音の、両目を凝視した。

「判るのか?わかるのか?莉音・・・。」

嶺は、莉音の両目を、覗き込み、莉音の、名前を何度も、叫んだ。次から、次へと、涙は、あふれるのだが、その瞳に、嶺の姿をはっきり捉えることは、なかった。単なる偶然だろうか・・・。

「莉音・・。頼む。戻ってきてくれ!時間が、ないんだ・・・。」

頬を押さえ、瞳を、覗きこむ。この、どこかに、あの英 莉音がいる。嶺は、願いを込め、莉音の意思が、そこにあるかのように、話しかけようとしたその時

「また。おまえか!」

振り返ると、かえった筈の、陸斗が、恐ろしい形相で立っていた。

「莉音は、渡さないって、言った筈だよな・・・。」

見ると、陸斗が、持っていた紙袋から、出したのは、小さな果物ナイフだった。

「ずーと。考えていた。莉音の事を。どうしても、心が・・・。お前の、所から戻らないなら、どうしたら、いいかを・・・。」

嶺は、じっと、陸斗のこれから、起そうとしてる行動を、模索した。

「莉音の、心が、私の所に、戻らない。それなら・・・。私は!」

陸斗が、刃先を、振り落としたのは、莉音にむけてだった。







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