莉音と生きる。
美央と、嶺は、逢う・・・はずであった。・・が、嶺の向かったのは、莉音のいる病院の、喫茶室であった。真向かいにいるのは、紛れもない莉音の夫。陸斗である。
「もう、逢いに来て欲しくないっと、いった筈ですよね」
陸斗は、静かに、迫力のある声で、言った。
「何を、言われても、覚悟する気持ちで来ました。」
嶺は、しっかりと、陸斗を見据えた。
「間違っていると、思っています。あなたに、これをお願いするのは。でも、それでも、僕は、気持ちを伝えたい。そう、思って、僕は、今日、来ました。」
嶺は、椅子をひいた。
「何を言い出すつもりだ?」
「莉音さんを、僕に下さい。!」
「はぁ?冗談だろう!何を言い出すつもりだ?」
嶺は、陸斗に、土下座していた。
「馬鹿を、言っているのは、わかります。でも、莉音の傍にいさせてください」
気がつくと、陸斗は、嶺の胸ぐらを掴みあげていた。
「あまり、怒らせないでくれ!」
「本気です。」
嶺も、負けていなかった。喫茶室は、さほど、人がいなかったが、2人のただならぬ、雰囲気にまわりが、ざわつき始めていた。
「莉音と一緒に痛いんです。」
嶺は、陸斗の手を振りほどいた。
「莉音と別れてほしいんです。」
「ふざけるな!」
「あきらめません。ようやく、わかったんです。遅すぎたのかも、しれない。だけど、今、決心しなければ、後悔する」
嶺と陸斗は、激しく睨み合った。
「僕は、莉音を選びたい。何よりも、そうしたい。あなたから、莉音を奪いたいんです。」
「許さない。俺は。こんな事、あっては、いけないんだ。」
「今日は、これで、失礼します。だけど、莉音は、僕を待ってると、思います。」
「・・・」
陸斗は、言葉を失った。嶺は、陸斗に軽く、一礼をすると、伝票を、掴み上げ、喫茶室を出て行った。これで、いいんだ。何を迷う必要ある。美央の事は、解決しなければ、いけない。だが、今、一番、自分が、守らなくては、いけないのは・・・。後悔する訳にいかないのは、莉音の事だった。あの日、初めて、強く、思った。失いたくないと・・。どんな形であれ、莉音を手に入れたいと・・・。今、動かなければ、後悔する。莉音と、一緒に生きよう。その為に、誰かを傷つける事になるかもしれない。だけど、大切な人を傷つける訳には、いかない。・・・そう、決めた。嶺に、迷いは、なかった。自分が、周りを、傷つけまいとしたばかりに、莉音を傷つけてしまった。本当に、遠回りをしてしまったが、結論は、でた。莉音と生きる。美央に、そう告げよう。彼女の、心も体も傷つけるだろう。だが、もう、迷いは、許されない。
嶺は、新幹線に乗り、美央の待つ街へ、向かった。