結婚するから。
今まで、愛していた人と突然別れる時、人は、普通に生活できるのに、何日かかるのだろう。莉音の気持ちは、虚ろだった。何をしていても、意識がなかった。もはや、生きている状態では、ない。魂が抜けていた。嶺と過ごした時間が、本当に一緒にいた時間だったのか、わからなくなっていた。心が、嶺を忘れろと言っているのか、記憶が、磨り減っていった。ただ、ひたすら、嶺が恋しい。あの、体から、たちのぼる香りも、髪の匂いも、唇の感触も忘れてなかった。莉音の心も、すべて、嶺をもとめ、さまよっていた。そして、嶺も、同じ気持ちだった。莉音に逢いたい。いますぐ、この階段を駆け下り、莉音に駆け寄り、後ろから、抱き寄せたい。でも、それは、違う。冷静になり、自分は、どうしたらいいのか。このまま、莉音と、一緒になる事は、難しいと思い始めていた。もう少し、早ければ、それは、可能だったかもしれない。でも、今となっては、このまま、莉音のもとへ、行くのは、無理だった。
・・・やっぱり、無理だったんだ・・・
これは、言い訳か・・・。嶺は、決めた。莉音を愛してる。必ず、一緒にいれなくても、幸せを願う方法は、いくらでもあるじゃないか。
「美央?」
嶺は、電話していた。
「決めたよ。」
「待ってた。」
美央は、携帯にすぐ出た。
「結婚しようか」
嶺は、いった。
「電話で、プロポーズなの?ずるいわ」
美央は、笑った。
「でも、嬉しい。逢ったら、改めて、してくれる?」
「いいよ」
力なく嶺は、笑った。
「週末にも、そちらへ、行く。その時で、いいかな」
携帯をきると、すぐ、メールの着信をしらせるサインをしめしていた。たぶん、莉音からだ。嶺は、軽く内容を見ると、削除した。
・・・もう、逢えない・・・
莉音と連絡をとるのは、やめよう。思いなおし、嶺は、携帯を開いた。
・・・俺、結婚する。もう、連絡をとるのは、やめよう・・・
短い内容だった。莉音の、どうしても、逢いたいという、メールに対しての、返事だった。
本当は、逢いに行きたいのに。切なく、辛い日が、始まっていく。
嶺に、メールを送ったのは、就寝前の切ない時間だった。どうしても、嶺に逢いたい。思い切って、嶺にメールしてみた。もしかしたら、嶺の気持ちが変っているかもしれない。そう、期待して・・・。
だが、嶺から、還ってきたメールの内容は、莉音を打ちのめし、震わせるものだった。
携帯をみる莉音の、顔が青ざめていた。携帯を持つ手は、震え、立っていられなくなっていた。
「嘘」
思わず、座り込んだ。信じられない。つい、この間まで、一緒にいるって、言っていたじゃないか。
「結婚するなんて」
莉音の両目から、涙があふれた。