偽りの気持ち。
悲しみは、突然、現れる。嶺からの別れは、莉音の生きる力をたったも同然だった。何も、出来なくなっていた。遅く帰宅した夫には、風邪をひいたと答えそのまま、ベッドに入った。体の力が、抜けていた。とにかく、哀しい。つい、最近まで、一緒にいられるだけで、幸せと、運転席で答えていたではないか。情熱的に、莉音に口づけていたでは、ないか。考えが、まとまらない。ほんの、何日か、離れていただけなのに、そんなに、簡単に気持ちは、変るものなのか・・・。そんなものなのか・・・。嶺の気持ちは、自分に対する気持ちは、そんなものだったのか。答えは、でない。何かが、違うと叫んでいた。確かに、莉音を嶺は、愛していた。それは、間違いなかったと、思う。嶺に、何かが、起きた?としても、莉音と離れようとする気持ちに変わりは、ないのでは、ないか。眼を閉じても、全く、眠れは、しない。夜の時間だけが、流れていく。どうして、嶺は、自分といれないのか。その切ない思いだけが、時間と共に、流れていく。
・・・嶺・・・
莉音の目尻を、涙が流れていた。将来のある嶺には、いつか、未来を築く相手が現れる。女に相手にされない男でない限り。いつかは、別れる日が、くるかもしれない。それが、こんなに、急なんて。
・・・眠れない・・・
眠れる筈が、ない。立ち上がる気力さえ失った、莉音の周りだけ、時間は、流れていった。
・・・莉音が、恋しい・・・
できれば、一緒にいたい気持ちに変わりは、なかった。いつかは、別れるかも?しれない?いいや、もしかしたら、自分に勇気があったら、莉音と一緒に生きる事は、出来たはず。もうすこし、時間が、欲しかった。今、自分は、何をしなければいけないのか?
・・・莉音に逢いたい・・・
切ない。美央と逢わなけらば・・・。たった一度あっただけで、自分は、結論を出さなければ、ならない。莉音と過ごした時間は、余りにも、短すぎた。美央に、今までの、責任を取らなければならないのか?
「美央?」
嶺は、美央に携帯をかけた。
「待ってたわ」
美央は、すぐでた。
「考えた。」
低く、抑揚のない声。嶺の押し出す声。
「子供は、産んでいい。認知は、する。・・・でも」
「でも?」
「結婚は、出来ない。」
嶺の声は、はっきりしていた。その声は、美央に君は、もう愛してないと、いうように、聞こえた。
「子供は、両親が、揃わない環境で、育つのね。」
「美央。できれば。俺としては・・。」
言いかけたが。
「出来ない。おろせというんでしょう?」
興奮して、美央の声は、震えていた。
「できないわ。無理よ。あなたの子なのよ」
「判っている。」
「あなたの子だから、産みたいの。嶺。わかって。あなたと一緒にいたいの。」
「美央。できない」
「お願い。嶺。私には、あなたが、必要なの。一緒に、この子を育てて生きたいの。嶺」
嶺は、沈黙した。何て、答えたらいいのか、わからない。自分の莉音だかへの、愛情を貫けばいいのか。それとも、これから、生まれてくる子供の事を考える事が、大切なのか・・・。一番、判っているのは、莉音とは、もう一緒にいられない事。美央と、深くかかわって、行かなければいけない事。
「美央。すまない。少し、時間が、ほしい」
莉音とは、もう、終わった。もう、逢う事は、ないだろう。だが、すぐ、美央と、何かしら、進歩があったら、莉音は、どんなに、傷つくだろう。まして、子供が、出来たなんて、彼女が知ったら。自分の、利音への思いに嘘はない。・・・この、気持ち。彼女に届ける事は、出来ない。
「もう少しだけ、待つ。嶺。一緒に暮らすの、待ってる。」
携帯は、切れた。嶺は、携帯を持ったまま、遠く、莉音への思いをはせていた。