表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/48

「別れよう。莉音」

「もうすぐ、お花見の時期よね。」

旅行の帰り道、莉音は、助手席で呟いた。

「だよなー。花粉アレルギーの時期だから、俺には、辛くもあるけどね。」

運転しながら、嶺は、話した。

「春になるんだね。買い物行きたいな?」

「また、買い物ですか?今日、行ったじゃん」

「だって。」

莉音は、甘えた。

「欲しい春用のリップがあるの。気に入ったお店でないと売ってないんだー」

「今回で、有給。使ったしなー!」

「お願い。一緒に行きたいんだ。」

「どうすっかな?」

「えー」

「はいはい。時間は、作るもんだからね。何とか、しましょう」

「一緒にいたいんだもん」

「俺も・・・。」

ほんの、2、3日前に、嶺と莉音の交わした会話だった。帰宅してからも、いつもの、お帰りコールで、嶺から、メールが届いた。

・・・一緒にいるだけで、満足・・・

・・・あたしも・・・

莉音が、送ったのも、同じ内容だった。それから、だった。ほんの、2日、旅行の余韻も抜けない内に、嶺から、メールが届いた。いつもの様に、莉音が、予定を尋ねるメールを送った時であった。

・・・明日あたり、買い物に行きたい・・・

・・・明日は、仕事だから、行けない・・・

・・・一緒に行きたいから、待ってる・・・

莉音は、嶺と一緒に行けると思っていた。

「ごめん」

携帯が、鳴った。嶺だった。

「待ってるから。買い物は、嶺に、見てほしいの。」

「莉音・・・。」

辛そうな、搾り出すような嶺の声。

「一緒に行けない」

「待ってるよ。あたし」

莉音は、単純に都合が合わなくて、行けないだけだと思っていた。

「莉音。もう、一緒にいれないんだ。」

「どうして?」

「それは・・・。」

莉音の携帯を持つ手が、震えた。

「好きな人が出来た。その人と一緒にいたいから・・・。莉音。ごめん。終わりにしよう。」

か細く消え入るような声。

「嶺。」

莉音は、言葉をなくした。

「あたしは、一緒にいたい。出来るだけ、一緒にいたいの。」

切実に、嶺を愛していた。だが、これから先、何も約束できる事は、出来ない。形がない分お互いの強い心がなければ、結びついているのは、不可能な恋。

「莉音。だって。俺達・・・。永遠じゃないよね?」

そう言いながら、自分は、判っていて、莉音を愛したのだと、嶺は、思っていた。でも、今、ここで、莉音の気持ちを知りたい。

「嶺。あたしは、嶺と生きたい。」

嶺を離したくない。約束できない将来であろうと、今、嶺を失ったら、生きては、いけないと思うほど、嶺の存在は、誰よりも、大きかった。

「無理だったんだよ。莉音。俺達は。」

嶺が、携帯をきろうとしていた。

「待って!」

莉音の、声は、嶺に届かなかった。もう、一度携帯をかける。発信音が、5回鳴ると、意図的に切られてしまった。

・・・嶺・・・

もう、立って、いられなかった。夕方、食事の準備をしていた莉音だったが、その場に座り込んでしまった。

・・・どうして?・・・

ほんの、2日前は、一緒にいたいと言っていたでは、ないか・・・。

・・・どうして?・・・

莉音の、思考回路は、同じ所を回っていた。

携帯が鳴り、嶺からの、メールを知らせた。

・・・莉音。いままで、ありがとう。おれは、莉音の事。ずーっと、忘れない・・・

いつかは、別れなければ、いけないと思っていた。が、逢うたびに、愛し合う度に、もうすこし、もうすこしと、別れを延ばし続けていた。もしかしたら、自分が、勇気をだしたら、嶺と一緒に生きていけるかもしれない。と、莉音は、考え始めていた。その一番、幸せな時に、嶺から、別れを突きつけられた。

・・・好きな人が出来た・・・

本当だろうか?

・・・その人と一緒にいたい・・・

本当だろうか?

人の気持ちは、そんな急に変れるものなのだろうか?

莉音は、混乱していた。長い夜が、始まろうとしていた・・・。


「これでいいんだ。」

嶺は、莉音からの携帯の着信を拒否した。自分達の恋愛は、祝福されない。判っている。が、こんな莉音を傷つける方法でしか、別れられない自分が、許せなかった。でも、ここまで、しなければ、また。莉音の所に、自分は、行ってしまう。かといって、本当の事は、更に、莉音を傷つけ、追い込むであろう。本当の事。いつかは、知れてしまうだろう。でも、今は、言えない。莉音が、早く、自分を忘れ、優しい夫の元へ戻る事を望んでやまなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ